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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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悪魔の証明衣

「うっひょー廃墟だねっ」

「うっひょーっていう程めぼしいものはないし、感情が乗ってないし。お前全然盛り上がってないだろ」

「正直言うと、もっと儀式っぽい物とか精神的におかしくなってる内装を見たかったなー。普通の民家はこんなものだよ。残念」

 鬼姫さんと共に訪れた痕跡は当たり前だが存在しない。あの人が煙草をポイ捨てしていたら不味かったが、それくらいの良識はあるらしい……って、どちらかと言えば外に捨てる方が問題か。幾らNG絡みでも限度はある。

 マイナーはマイナーでも心霊スポットに変わりはなく、誰かが入った形跡くらいは幾らでも存在する。これだけで誰が入ったは断定出来まい。埃を踏むなんて誰でもやる。ただ俺や、恐らくコソコソする事になれてる鬼姫ペアはともかく、遥は素人だ。彼女の痕跡があったら自動的に俺も居たと考えていい。その痕跡だけは明衣に知られる訳にはいかない。

 明衣はリビングの方に移動すると、戸の閉まった窓をじっと眺めている。これだけ家具が残っていて注目する所が窓とは。

「お前まさか、次来る時があってもいいように開けとく場所を探してるのか?」

「おー鋭いね助手。まあ次来た時も鍵がかかってる可能性はあるし、それも考慮しなくちゃ。空き巣の人に入られても困るしね。でもあんまり小さい入口だとなあ。胸がつかえちゃうから……」

 痕跡は……ないと思う。あちこち見て回った、記憶を呼び起こして二階までの足取りは脳裏に書き起こしてある。二階に勝手に上がる訳にはいかないが、大丈夫だと思う。多分。

「所で、問題のかがみなんたらはどれの事をさしてるんだ?」

「あ、それはね、二階にあるよっ。名前もかがみしめしだしね。鏡はここにないよ。窓の反射とかを鏡扱いしたらそうだけど」

 だから窓を見ていたのか…………。



 …………?


 

 明衣は俺の手を引っ張って階段を軽やかに上がっていく。静かに眠っていた家を一番荒らしているのは俺達だ。空き巣よりも空き巣をしている。金目の物なんてないだろうが、こんなに騒がしくしたら大人しくしている怪異も起ったって文句は言えない。

「これこれ。この大きな鏡がかがみしめしで使われるんだよ……指でなぞった痕があるし……上から埃もそんな被ってないから最近誰か来たのかな。でもそんなやり方じゃ対話出来ないし、中途半端に知ってて肝試ししに来たのかな?」

「マイナーでも心霊スポットだしそういう事もあるだろ。ひょっとしたら真千子か岩垣どっちかの痕跡だったりしないか?」

「指の太さが二人共違うかな。えーと、確かね、かがみしめしは呪文が必要なの。こっくりさんみたいな物だと思っていい。せっかくだし乃絃、やってみよ!」

 生き埋め中の先輩はともかく真千子の指の大きさを正確に把握している事は当然か。浅いミスリードはやっぱり失敗する。明衣は持ってきた雑巾で鏡の埃を綺麗に拭く。彼女の矮躯では高い所に手が届かないので、途中から俺が変わって上の方を綺麗にした。

「ありがとう」

「あんな事があったし、今更信じないみたいな真似は言わねえよ。試すのはいいけど、何が起こるんだ? 死にはしないんだろ」

「うん、よくぞ聞いてくれたね助手っ。呪文を唱えると鏡の中に女の人が現れるんだって。その人は未来が見えていて、呪文を唱えた人が知りたい事を何でも教えてくれるの。ただ、怪異がこっちの事情を汲む事なんてないから、時には誰にも聞いてほしくない秘密まで言っちゃったり。そうそう、かがみしめしは一人だと出来ないらしいからさ、ほら。行く人は信頼出来る関係がないとって話!」

「あー……岩垣先輩と真千子はそんな関係だったのか? 話を聞いた感じ真千子は押し込まれて交際してたんだ。信頼はなかったと思うけど」

「そんな事知らなかったら拒否しようがないし。とりあえず鏡に聞かれたらまずいから小声で教えるね。耳を貸して」

 慎重さを考慮して、少し膝を曲げてやると明衣は両手で筒を作って耳元で呪文を教えてくれた。それは俺に言わせれば馬鹿らしい内容だったが、『かがみしめし』は怪異というよりもどちらかと言えばまじないに近い正体だ。そんな呪文もありかと思えてしまう。俺が想像するおまじないはどうも、子供に教えるような優しい物しか知らないが。

「分かった、やってみよう」

 鏡に立って、姿が映るように。




「かがみそのみにしめしてあかせ。かがみよわたしよかがみのきみよ、わがみをうつしこたえたまへ」




「…………今更だけど、なんか本当に呪文っぽいよね」

「ぽいだけだろ。まあ怪異に関しては、ぽいだけでも成立するんだろうけどな。厳密に古語である必要なんかない。もしそんな緻密ならそこまで広まらないし、尾ひれがつくなんて事も有り得ないからな」

 尾ひれというのは、余分だ。余分を一切許さない怪異と言うのは多分、俺達の思う存在じゃない。もっと格が高くて、それこそ本当に触れてはいけない存在だろう。こんなジャンルに詳しくなるのは癪だが、怪異なんてのは所詮噂が言霊として実態を持った事象だと俺は考える。

 だから厳密性など不要だ。

「で、何も起きないな」

「うーん。オカルトがオカルト扱いを受けてるのってこの再現性の不安定さだよね。手順はあるのに出来たり出来なかったりする。確実に再現出来るなら正直科学的な存在として扱ってもいいと思うけど、私もやってみる!」

 結果は以下略称。明衣がやろうが俺がやろうが何も変わらなかった。鏡の中で地団太を踏む明衣の姿がみえる。

「あーあ、出来てくれたらよかったのに! 残念。何でも教えてくれるなら真相を聞いても良いなって思ったんだよね」

「探偵失格だな」

「だってさー…………真相がつまらなそうなんだよね」

 明衣は徐に端っこに置いてあった布(多分テーブルクロス)を取ると、鏡にかけて役目を終わらせる。それから俺にゆったり寄ってきて、ひしと抱き着いてきた。

「細かいピースは嵌ってないけど、全体像はちょっと見えてきたところ。そういえば助手、あの日学校で貴方が撮った映像はまだ見てないんだ。データでいいから後で送っといてくれる? それが嫌なら、家にお邪魔するけど」

「…………脅しか?」

「え? 何が?」

「俺の家族のNGを探ろうって腹じゃないだろうな」

「まさか! そんな事する意味がないのにしないって。ほら、一緒に見た方が気づきを得られるかもしれないでしょ。助手は常に探偵様と一緒に居るもんだぞ! 乃絃の家にお邪魔するのも久しぶりだし! 出来れば…………一緒に見たいな?」

 ああ脅しだ。

 こいつは愉快犯だ。する意味がない事をする。NGを暴く必要がない相手を暴き、殺し、首を傾げる。関連性もないのにNGを探って、頭の片隅に留めておく。こんな悪辣な人間は長い人生で見た事がないと先に言っておく。これと同じくらいゴミ溜めみたいな性格の人間と二人も会ってたまるか。

 普段なら頑として拒否するが、遥をいつも以上に振り回してしまったツケは生産した方がいい。明衣が来るなら、安全の為にもアイツを引き離せる。

「―――大体お前が見た景色と一致するだろうけどな。いいだろう。ただ、最後に一つだけ聞かせてくれ。大まかな真相って奴を」



「今は、言えない」



 間抜けな沈黙を挟み、明衣がくすくすと震えて笑い出す。








「一度言ってみたかったの! やったー!」









 うざ。


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