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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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かが身て我が振り直せ

「助手、岩垣先輩を尋問したら凄い事が分かっちゃった!」

 授業の合間の休み時間。明衣は興奮冷めやらぬ様子で俺の前に立つと、谷間で視界を塞いで強制的に上を見上げさせてきた。人の道徳心に付け込むような視線誘導は全くよろしくない。実に俺の道徳と自分の体について理解した非常に悪質なシチュエーションであり、それだけでもう、話を聞く気が失せる。

「帰れ」

「話を聞いてよ、調査の件なんだって!」

「…………はぁ。じゃあ、手短に頼む。今俺は、猛烈にナイフの一つでもパクってお前の顔を引き裂きたくなってるんだ」

「うん、貴方にそれが出来たらいいね! それで先輩を昨日の帰りにまた尋問したんだけど、私達に秘匿してる情報があったんだよっ。それがさ、真千子ちゃんと一緒に心霊スポットに行ったんだって~!」

「心霊スポット? ……それは学校の話じゃなくてか?」

「確かに私達が学校に行った時には不思議な現象に遭遇したね? でも学校は心霊スポットじゃないよ。お化けがいるだけだし、何より学校に居るんだったら私達にも干渉しないとおかしいよね。確か真千子ちゃんを見たって話だけど……私が傍に居るのに遠くに私が居たとか、貴方が居たとか。そういう事はなかったよね」

 そういう話ならどれだけ良かっただろう。この、まるで明衣から逃げるような不干渉ぶりが事件を難しくしている。一切証拠はないし妄想の話になるが明衣が怪異をNGで殺した事が他の怪異にも知れ渡っているのではないかとも思っている。

「……それで、心霊スポットってのは?」

「一般的には『かがみしめし』って呼ばれてるね。乃絃は知ってる?」


 ―――こうなるとは思っていた。


 心霊スポットの話で二人に関係あるモノと言われたらその単語しかあるまい。知らないフリを通すのも大変だが、明衣もすぐに同じ情報を掴んだという事は決して無関係には終わらないという事だ。こういう判断の仕方は如何なものと自分でも思うが。悔しい事にこの性悪探偵の嗅覚は本物だ。明衣のあるところに事件あり。事件あるところに明衣はあり。

「俺が知ってると思うのか? 怪異の相手なんて初見でもごめんなのに」

「探偵助手なら情報はえり好みしないの。もし事件に関係あると思うんだったら少しでも頭に入れておくのが基本だよっ。たとえ関係なくても、また別の事件では関係あるかもしれないからね」

「お前が言ってる事は滅茶苦茶だ。押収した証拠がまた別の事件で使えるかもしれないと言ってるんだぞ。映画の見過ぎだな。一見何の繋がりもない事件は殆どの場合本当に何の繋がりもないんだ」

「神様の視点にでもなってるつもり? 繋がりがあるかどうか分かるのは渦中の人間だけだよ。警察は真実を追求する組織じゃないって知ってるでしょ? 治安を守る為に解決するのが仕事。解決したなら真実なんてどうでもいいって…………私達は良く知ってるよね」

「……お前が自首すれば済む話だぞ」

「え? 私? 何で? 目の前で即死する人を目撃する事が罪になるの? NGに抵触したら誰にもその死は止められないのに。不可抗力じゃんそんなの! 気に入らない奴を逮捕させるライフハックだよ! NG殺人もひょっとしたらそんな目的があるんじゃないかな?」

 明衣は飽くまで己の罪を認めない。 やるべき事があるならば、その他一切は考慮しないとでも言いたげに。こいつがどんなに正義ぶっても性根はこれだ。だから腐っている。だから染まっている。だから穢れている。大嫌いだ。

「そろそろ話を戻すけど、今から言ってみない? 知らないなら私が案内するよ」

「お化けは昼でも出るのか?」

「出ても出なくても、その場所に手がかりはあるかもしれないよ。だったら行かない手はないでしょ。私達は探偵なんだから!」




「そうだな。行かない手はないな。今が授業の合間の休み時間で今こうして話してる間にチャイムが鳴ってなければな」




 常識的に考えて、授業中に授業を抜け出して調査をする奴は非常識だ。学生の本分というものを軽視している、所属コミュニティという概念を無視している。探偵としての信念を重視しすぎている。

 チャイムが挟まると会話がしにくいので一度話を止める。鳴り終わったのを見届けてから、改めて話を続けた。

「俺は授業を受けたいんだけど、お前はどうしても調査したいのか?」

「うん、したい」

「…………………分かった。じゃあ行こう」

 コイツを学校から切り離せば、クラスメイトは安全に授業を受けられる。そう思うと、俺一人の犠牲くらい何でもないような気がした。これは決して善行ではない。明衣が唯一話を聞いてくれる俺に出来る精一杯の抑制だ。

 善は急げと明衣に連れられ教室を出る。教師と入れ違いになったが、彼は明衣が教室を出て行った事に怒るよりも安堵した様子を見せ、露骨に教室の扉をぴしゃりと閉めた。





















 明衣との接触に際して、鬼姫さんの存在は決して知られてはならない。まず確実に殺される。幾らあの人が強かったとしても関係ない。だから俺がここに来た事もないし、そんな怪異の名前は知らないし、それが手がかりになるとも思っていない。見破られるかどうかは全てこの体一つにかかっている。

「こんな家に怪異があるのか? 民家だぞ」

「人が死んだ場所って民家でもアパートでもマンションでも何か起きる事くらいあるでしょ。でも有名じゃないよね。私も少しネットの方で調べたけど、マイナーなのは人が死ぬとか死なないとかそういう話じゃないからかな」

「大した効力もないふざけた呪いってことか?」

「この場所に入ったら死ぬから絶対に入るなって場所は有名でしょ? でもここはそういう場所じゃないとは聞いてるよ。やっぱり死ぬってのは刺激的で最も関心を引くから、死ぬかそれ以外かじゃ深堀されるされないも決まっちゃってさ。だから私もそんな詳しくはないんだけど……鍵は助手、出番だぞ!」

「ピッキングか……何で学校抜け出してまでする事が犯罪なんだよ。やってる自分が嫌になるな」

「そんな事言わないの。これも事件解決の為なんだから。真千子ちゃん、ひいてはバスケ部全体を救うんだから」

「と言っても大したもんじゃないんだろ。心霊スポットに行ったのは結構だが……って待て。鍵がかかってるのに二人はどうやって入ったんだ? もし窓を割って入ったとかなら俺がこんな事してやる義理は全くない。お前、探しといてくれ」

「えー? なぜか開いてるは定番でしょ? 気にしないでいいと思うよ」

「定番とかじゃなくて理屈を考えろよ」

「ピッキング出来たんじゃない? 岩垣先輩も」

「鍵の開錠をさも義務教育のように語るな。誰でも出来ないし、していいもんじゃないからな。単に俺が出来てしまっているだけの話だ。お前にやれと言われるんだから仕方なくな!」

 こんな無意味な事はない。この家に入って姿見を探して、何をする。何も起きないに決まってるのに。

「それに、鍵屋じゃないならスキルは画一的じゃない。ピッキングの痕跡なんて見る人が見れば分かるよ。はあ、人生を無為に消費してる気分だ」

「………………」

 明衣が黙っているので、振り返る。彼女は二階を見上げて首を傾げていた。

「なんだ、ついにお前も憑りつかれたか?」



「うーんいや、ちょっと疑問があってね。鍵の話みたいな、些細なの」


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