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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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明衣彩に紛れる感情

「郷矢先輩、今日もよろしくお願いします」

「ああ」

 真千子に付き添って帰る事に特別言いたい事はない。彼女は部活中に泣き出した負い目から最初は離れた距離を保とうとしたが、ほんの数メートルでも信号待ちや第三者の通行などで切り離される可能性が高い。交際関係でもないのに自分から手を繋ぐのは忍びない気がしたので何度か手招きをした。

「…………えっと」

「別に泣き出したくらいでどうとも思わない。迷惑だって思ってるなら勘違いもいいとこだ。近くに来てくれ。そんな事件が起きるとは思いたくないが、極論、車で誘拐する奴が現れたら守れないかもしれないぞ」

 極論ついでに、こっちも最終手段があるからもしそんな事が起きるなら遠慮なく使わせてもらう。明衣への嫌悪と真千子の安全確保は別の問題だ。それで後々俺が自己嫌悪に陥ろうと誰かが知った話ではない。

「いえ……………そうではなくて」

 真千子は両手を胸の前に持ち上げてもじもじとしながら顔を俯かせる。そんな表情をされても察してやれない。


 ―――ここにきて真千子が言いたくなくなるような事か。


 怪人関係とストーカーについて口ごもる理由はない。逆の立場でもし同じ事をするなら自分で勝手に無関係だと決めつけていて、且つ本人にとっては問題だと思っている場合。簡単な推測だが、条件で絞ると答えは決まってくる。

「ああ、そうだ。帰る前にどうせなら聞いておきたかった事がある。女子バスケ部についてだけど、人間関係のトラブルはあるか?」

 びくっと真千子の体が震えた。敢えて気づかない振りをして話を続ける。

「別に真千子が関係してる必要はないんだ。遠巻きに見てる事もあるだろ。介入したら自分をまきこんで余計に話が拗れそうだから傍観するって考え方を否定はしない。ないなら別にいいんだ。それが一番だからな」

「……ど、どうしてそんな事聞くんですか? 今回の件と関係、あるんですか?」

「断言は出来ないけど、関連性があるかもしれない。だけど俺は部活に入ってもなければお前と同じ性別でもない。顧問に聞いてもいいんだけど、あの先生の様子じゃ知ってても俺達に話さない可能性が高いと思ってな。で、どうだ? 答えたくない、でもいいけど」

「…………基本的には仲がいい、と思います。みんなで遊びに行ったりする事もありますし。ただ、最近は……最近? その……岩垣先輩と交際しだした辺りから、部員の一人とちょっと喧嘩が増えてきて。嫌がらせされてるとかじゃないんです。ただトゲトゲしてるっていうか」

「微妙に抽象的だな。具体的にどんな絡み方をされてるんだ?」

「岩垣先輩と付き合えたから最近練習に身が入ってないとか。付き合ってる事にちくちく言ってくる感じです」

「……確かお前は元々押し切られる形で交際を始めたんだったな。でも元々恋人関係は乗り気じゃなくて、他に好きな人が出来たから別れたって話だったな。別れたんなら改善されるんじゃないのか」

「それが、あんまり変わってないんです。もう別れたって話はしたんですけど……あんまり好きじゃなかったってのが気に食わなかったのかな」

 という事は、岩垣の事が好きだったのだろうか。そう考えたら当時交際関係にあった真千子に突っかかるのは理解出来る。だが別れても話が変わらないのは妙だ。普通は改善されるべきでは……いや、違う。彼は真千子に未練たらたらだった。元々その辺りでいちゃもんをつけたい女子なら、未練たらたらな好きな人を見たら態度が改善される事も……普通は岩垣にヘイトを向けると思ったが、違うのか。

「成程な。つまりお前がそうやって口ごもるのは同じように突っかかられたんだな。例えば、岩垣をフっておいて今度は俺に色目使うのか、みたいな」

「そ、そうですそうです! 私そんなつもりは全くなくて…………! そう言われたからその……離れてた方がいいのかなって」

「おいおい。ストーカーに困ってて、良く分からん怪人にも困ってる癖にそんな事気にしてる場合なのか。ストーカーはお前だけの問題かもしれないが怪人はバスケ部全体の問題だ。そしてもし二つが同一人物だったら全員が危ないんだぞ? 気にする必要なんてない。怪我や死ぬかもしれない状況より優先する事なんてないんだ」

 死を軽視するのは生物としてよろしくない。何処か遠くの現象であるとの思い込みは危険である。この町が安全ならそれでもいいが、明衣が居るだけで常時テロリストが活動しているようなものだとの意識を持ってほしい。

 そういう事情ならこっちが躊躇う必要もない。真千子の手を掴むと、やや強引に帰り道を歩き始める。

「ちょ、ちょっと!」

「そんな事気にしなくていい。俺はお前を守る為に一緒に居るんだ。そんな勘違いを解消したくて自分から守られるのをやめるのか? バカげてる。あんまり不安を煽りたくなかったから言わなかったんだが、明衣が絡んだ事件で死人が出なかった事はない。今回も誰かが死ぬと思ってる。でもそれが、お前であってほしくない」

「し、死ぬなんて……そんな」

「警察が捕まえられないからやりたい放題だ。明衣の相談箱に依頼を投げつけるってのはそのリスクを承知で謎を解明したいって事だ。俺は責任もってお前を守る。真千子、だから自分の身に少しでも問題が起きたら俺に伝えてくれ。いいな?」

 心から、本気で心配をしている。勝手な行動をされたらたまったもんじゃない。俺の信用なんて概念は元々ないが、守れるモノも守れなくなるのは困る。目の前で死なれたら、最悪だ。非常に身勝手な自己都合につき、目の前で無残に死なれると最悪の気分になる。

 以降真千子は何も言わなくなった。黙ったまま俺に手を引っ張られている。分かっていた事だが痴情のもつれは本当に面倒くさい。中身は関係あってもそれ自体は本当に関係ない事だ。でもそれが青春というものだし、学生気分というならそれ以上はないのだろう。

 こんな斜に構えたような評価を下すよりも、間違いなく人生に必要な要素だ。自分という人間が嫌になる。無気力なくせに、普通の生活を羨むあまり厳しい目線を向けるゴミが一体全体何様のつもりだ。

「今度難癖をつけられたらその時は名前を聞くから教えてくれ。一度目は見逃そう。お前もチクった扱いされるのは嫌だろうからな」

「郷矢先輩は…………こういう時って、どうするのが正解だと思いますか?」

「知らないよそんなの。正解なんてあるとは思えない。ただ後悔しない選択をするべきだ。少なくとも詰んでる訳じゃない。今は俺と近いからそんな風に勘違いされてるだけで、他に好きな人が居るんだろ。ならその人の事だけ考えてればいい」

「迷惑じゃないんですか? 私と誤解されて……誤解じゃなかったら問題じゃないのかもしれないですけど」

「俺が一番迷惑を被るのは明衣と恋人関係にあると言われる事だけだ。それ以外は別にどうでもいい。そもそもな、関係を切ってもないのに他の奴と仲良くすると明衣の機嫌を損ねるんだ。だから他の奴と実際にそういう関係になる事はない」

「それって、明衣先輩が郷矢先輩を好きってことじゃ」

「言葉がいつも正確な表現が出来ると思うなよ。likeでもloveでも同じ好きだ。そしてアイツの場合、探偵助手として役に立つかどうかを求めてる。俺が他の奴にうつつを抜かしたら、仕事が出来ないとか何とか言ってきてきっと手を出すぞ。当たり前だ、犯罪を取り締まる抑止力がないんだからな」

 もしも俺に好きな人が居て。

 俺が好きになったせいで死んだりしたら、それこそ立ち直れない。

「だからもし好きなタイプってのを作るんだとしたら、死なない人がいいかな。なんて、すまないな。辛気臭い話をした。冗談も下手なんだ。人の話も大して聞かずに無条件で明るい奴とつるんでるとどうしてもこの辺りがへたくそになる。これは重苦しい雰囲気を避ける話題だから答えたくないなら無視でもいいけど、お前の好きなタイプはどんなんだ?」

「わ、私は」

 上目遣いに真千子が俺の顔色を窺う。嗤われるかと心配している? そんな心配はしなくていいと言いたいが、本人にその経験が多かったら俺の発言なんて何の意味もない。心なしか顔も赤く恥ずかしそうだ。やっぱりそういう経験があるのだろう。








「…………………甘えさせてくれる、頼りがいのある人。好、す、好きです」

 


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