表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/98

刹那に収まる君は永遠

 この件を俺一人で抱える訳にも行かないので、ひとまず明衣に相談した。こいつは信用ならない奴だと他人には散々言って聞かせるが、論理的に考えてこいつにこんな事をする理由は全くない。確かにこいつは犯罪が見逃されるからってやりたい放題するが、無関係な人物に付き纏う程暇人でもないからだ。

 もしもバスケ部の何れかが俺と接点を前から持っていたなら、或いはこのような監視をしていたかもしれない。だが初対面だ。幸運にも、今回の相談があって初めて知り合った。だからやっぱり、あり得ない。

「………………」

 不審者が現れたとのことで不安になる部員達を慰めに行くべきという気持ちはあったが、まずは明衣に相談する所から始まるだろう。俺は助手だ。勝手な行動をするにも順序がある。しすぎると、いざって時に鎖を繋がれかねない。

「これは、そこで拾ったの?」

「保存状態が草むらに紛れてたにしては綺麗だろ。不審者がこっちの方向に逃げたって言うなら普通はそいつが落としたものだと考えるけど……俺にはそいつが分からなかった」

「居ないよそんな人。私は外側から校門の方まで戻ってきて、ずっとそこで人の動きを観察してたの。体育館の叫び声はこっちにも聞こえてたよ。校門から校舎を見てれば人の動きは全部把握出来るからね。そっちから逃げてくる人は居なかった」

 明衣をどうして今は信じられるのか。それはこいつがあまりにじゃじゃ馬過ぎて手綱を握れるのが俺しかおらず、その俺が事情を知らないならまず誰の入れ知恵も受けていないと断定出来るからだ。握れていると言ったって、別に行動その物は変えられない。相対的な評価だとしても、俺以上に干渉出来る人間が存在しないのもまた事実だ。

「じゃあこれは……誰のだ?」

「写真を見る限り女子バスケ部全員が映ってるね。こういう盗撮って大抵は映像だと思うんだけど、写真って事はタイマーでも使ったのかな。犯人が部外者の可能性は低いと思う。男性教師でも入れないような場所に男が仕掛けられるなんて思わない。そもそもこの手の手の活動は上手く行ったら大胆になるのが常だよね……ふぅ。色々推測はしてみたけど、確認してみよっか。助手はここで待っててくれる? 私なら問題なく入れるよね」

「……何をするつもりか知らないけど、ついでにバスケ部の面々を安心させてやってくれ。俺はもう少し考えてみる」

「任されよ~」

 更衣室の盗撮写真をまじまじ見つめるのはあまり良い気分はしないが、これも調査の為だ。別に、こんな事で興奮はしない。俺が事件と無関係の人物に興味を持ったらそいつはきっと明衣に目を付けられる。だから、初めから最低限以上の興味は持たない方がいい。仮に好きな人が出来たとしても、本当に幸せを願うなら猶更そうするべきだ。


 ―――角度はそこまで手慣れてないな。


 全員が映りこむようにしているが、盗撮写真とするなら見たいのは下着がはだける直後かそれその物だろう。下着は見えているが、背中しか見えていない部員がちらほらと。常習犯ならもっと上手くやる筈だ。写真だとタイミングが難しいから映像がベターであるという理屈は置いといて……初犯だとするなら、明衣も言ったようにバレないように設置するなんて難しいのではないだろうか。女子だけが仕える部屋に造詣の深い男子はそういない。単に入る機会がないからだ。

「よう乃絃。何見てんだ?」

「高元。お前確か新聞部だったよな。女子バスケ部付近……あーいや、女子部がある部活に出没する不審者の情報ってあったりするか?」

「普通に犯罪じゃね? 多分記事にしてる場合じゃないと思うぞそれは」

「御尤もで。だけど犯人が判明して独占インタビューしてるとかじゃないんだ。噂とか、タレコミなら載せられるんじゃないのか。そういうの扱う配信者とか新聞とか、その辺り無責任なもんだろ。明衣が知りたがってる。嘘はやめてくれよ」

「いや~ないと思う、けどな。情報は一旦部長の下に全部集められるんだ。だけど集まった情報からどれを記事にするかは話し合うから……うん、ないと思う。何だ? もしかしてそういうのを調べる依頼が出てきたか?」

「…………そうだけど、もう明衣が手を付けた案件だからな。俺からは余計なちょっかいをかけない方がいいとだけ言っとく。よく、明衣は俺の言う事しか聞かないって言われるけどそれは絶対に間違いだからな。お前が勝手に怒りを買ったりしたら……助けてやれない」

「分かってるよ! ……なあ、お前の方から明衣の弱みとか提供してくれてもいいんだぞ? 勿論、内部告発みたいな扱いで匿名にするからさ! な!」

 高元のこれは取引をしているようで、実態は単なるお願いだ。自分の足で稼がず、他人からの提供で安易に情報を集めようとする。それ自体を非難するつもりは全くない、が。



「お前、簡単に俺を売るよ。断言する」



 俺と高元は同学年という以外に関わりがなく、信用がない。心からのお願いを無碍にするには十分ではないだろうか。

「その方が関心を稼げるからな。明衣はあの性格の悪さを知らない奴にもビジュアルだけで結構人気なんだ。三年にも狙ってるって人はたまにいるよ。命知らずだけど。そんな奴の情報なんてあればあるほどいい、別に嘘でも構わない。仮に俺が嘘を言っても、お前は掲載するだろうな」

「ま、まあ判別する方法がないからな」

「嘘にしろ本当にしろ明衣は新聞部を問い詰めに来るだろう。そうなったとき、情報が嘘でも本当でもお前達は俺を売り得だ。一人でも道連れにしてやろうって精神だな。以上の理由から明衣の事は占い。俺の知ってる事は俺しか知らないから掲載された時点で割れるしな」

「く~! やっぱ駄目かー! 乃絃は優しいって聞いたからいけると思ったんだけどなー!」

 

 ……俺が優しい?


 それはまたとんだデマ情報を掴まされているようだ。本当に優しい奴は犯罪行為に加担したりしない。俺が優しいように見えるのは明衣に殺される被害者は少ない方がいいという真っ当な倫理観の残滓によるものだ。

 彼が一体何処からそんな戯言を拾ってきたか分からないが、情報の真偽を見抜けないようでは新聞部もなんというか、情熱に欠けている。

「情報についてはよく精査する事だな。お互い得るものがなかったんだし、もう行った方がいいんじゃないか?」

「あー…………いや、待った。その写真はなんだ? 俺と出会った瞬間に隠したよな?」

「お前に見せる意味がないと言ったらどうする?」

「そんなもん無理やり―――」




「こらこら、私の助手に嚙みつかないでよ。NGもろくに探れないような人が探求心を自称して新聞を書くなんて片腹痛いんだから」




 暴力に頼る事を厭わない。中身が中身なので一発腹でも殴って追い返そうと思ったが明衣がやってきた。手には何も持っていないが、彼女は軽く校舎を指すと、高元に向かって首を傾げる。

「早く回収した方がいいよ。今さっき、貴方のNGについて印刷して廊下にばらまいたところだから!」

「は……………は?」

「『両手を開いて合わせる』事だよね! 匿名で全校の皆さんに周知させてもらいました! …………調査の邪魔だから、早い所行ってよ」

 何処か人を舐めたような態度を取っていた高元も、これを聞くと態度を豹変。動揺を隠せないばかりか顔面蒼白になりながら慌てて明衣が指定した場所まで走っていった。フォームが滅茶苦茶だからか途中で靴が脱げたが、気にせず走り去っていく。

 ……だから言ったんだ。

 こんな事をされたらどうにもならない。自分のNGは違うと言い張りたくて無視を貫くなら誰かしらに試されるし、今みたいに急いで対応するようなら真実だと教えているに等しい。彼が誰からも敵視されない聖人であれば生き残れるだろうが―――もう長くはないだろう。

 明衣は端役の出しゃばりを気にも留めず、俺の前でにへらにへらと笑っていた。

「やっぱり設置したのは女子更衣室の諸々に詳しい人だと思う! カメラが置いてある位置は完全に物置みたいになってたけど、初見であそこを誰も見ないって確信は出来ないと思う。更衣室全体が映るような位置なんだから、注目度が少しでもあれば誰かが気づくと思ったかな。遮蔽物を多く置いたらそれだけ不自然な物も増えるからやっぱり気づくし……置いたのは女子バスケ部の誰かだと思う。みんなの視線が普段何処にあるかを把握してないとあんな場所には置けない。ちょっと話を聞いてみたけど、部員のみんなは着替え中にもおしゃべりするくらいには交流があるしね」

「……真千子以外って所か?」

「さあ、それはどうだろう。だんだん込み入ってきて楽しくなってきたね! いつもいつもこれくらい複雑だったら、貴方と調査する楽しみも増えるんだけど!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ