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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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二人で一人の名探偵

「………………」

 蒸し暑い夜は最悪に嫌いだ。けれどどうしてもしないといけない事がある。俺が一人で勝手に阿呆な事をするのはいいが、これでいつも妹を付き添わせるのはどうにかならないのか。ならないからこうなっている。

 代わりにしても両親を、というのは嫌だし、唯一連絡先を好感している日入も呼びつけるのはまずい。アイツは明衣に唆されたせいで心の方がまだ深い傷を負ったままだ。俺を介してでも死神探偵に接触させるのは精神衛生上よろしくない。

 

 だからいつも、遥が犠牲になる。


「ごめんな、用事が終わったらすぐに帰るから」

「気にしない。私は兄の『妹』だから」

 兄妹関係をいい事にこちらの都合を振り回すのは違うだろう。血が繋がっているとか居ないとかの話じゃない。遥と血が繋がっていたら許されていたかと言われたらそれは絶対に違う。いつもいつも、申し訳ないと思っている。妹だって年頃の女の子だ。自分の部屋でゆっくり寝たいだろうに、俺のNGが誰かに依存しているせいでいつも隣で寝る事になって、挙句最悪の寝相故に首を絞めてしまう事もある。

 今まで生きてきた経験として、すぐ隣に部屋がある分には問題ないのかもしれない。しかし、かもしれないでは困る。何かほんの少しでも条件を破ればその瞬間に死ぬのだ。イエローカードはない。誰も警告してくれない。

 遥は最悪誰とも話さなければ回避出来るのに、俺にはその最低限すら許されていないのだ。もはや今更の悩みではあるけど、こういう、必要もないのに条件を回避しないといけない時はずっと罪悪感が付き纏う。

「所で、私は何も聞かされてないけど」

「いや、うん。用事があるとは言ったけど、直接連絡を取る方法がないんだ。期待値の高い場所は多分ここだ……もしかしたら居酒屋とか探した方がいいかもしれないけど、でも最初に会ったのはここの筈だ。NG殺人について調べてたんだったかな。それで、俺に目を付けた」

 NG殺人とは結局何だったのか、俺には分からない。少なくとも明衣が犯人ではないのに、アイツと同じようにNGを悪用するとんでもない奴である事は分かる。何故それを追っているのか等の詳しい事情はお互いに詮索しない事を条件にあの時は引いたっけ。

 それからNG殺人について教えてもらったり、捜査に協力してもらったり、誰も信用出来ない中、あの人だけは相対的に一番信頼出来る大人だ。遥のNGを見破られてしまって信用せざるを得ないとも言えるけど。

「あの時公園に来た理由は何だったか見当もつかないけど、お願いだから今日は来てくれると本当に助かるんだけどな……」

「夜の逢瀬にしちゃあロマンもエロスもない場所だなあ。郷矢君よお、やっぱり連絡先くらいは交換した方がいいんじゃねえのか?」

「それは駄目なんだ。連絡先を交換するのは…………うわああああああ!」



 遥の割には声が大人っぽいと思っていたら、滑り台の上で鬼姫さんが座り込んでいた。



 未慧は滑り台の下で相変わらずスケッチブックを開いており、何かを書いている。足元には鬼姫さんが捨てたであろう煙草の吸殻が、まだ煙を吹いたまま複数打ち捨てられている

「うわ。モラルどうなってんだよ。捨てるのもそうだけど火も消してないとか」

「はっはっは! 土に火はつかねえし、後で消すつもりだったよ。考えてもみろよ郷矢君、滑り台でたばこを潰してたら痕が残っちまう。ガキが遊ぶ時にどう思うかな?」

「未慧だって子供でしょ。煙草を吸うのもどうかと思いますけど、こういうモラルの欠如は別ですからね」

 それに煙草は鬼姫さんのNGに関わる事らしい。それならどんな行動でも直接咎めようという気にはならない。俺の好き嫌いとは無関係に命を守る行動だから、それにケチをつけるなら俺がおかしい。

「………そうだ。私を探すんだったら煙草の吸殻を探すってのはどうだ? 私がわざと捨ててやるから、やたら吸殻が落ちてる場所があったらそこが最近私が居る場所って事だ? 連絡先の交換は探偵様に見られるリスクがあんだろ? 傍から見てアイツはだいぶ頭のネジが緩んだ奴だ。だけどこれならお前だけが私の痕跡を探れるだろ」

「上手い事いってポイ捨てを正当化しようとしてませんか? その手には乗りたくないですけど……」

 だけど、名案ではある。世の中にポイ捨てされた煙草なんてごまんとあるが、集中的に落としてくれればそれは痕跡だ。ポイ捨て場所で有名なスポットなんて物もないだろうし、仮にそんな物があったとしても広範囲に渡って捨てられているからそう呼ばれているだけで、例えば局所的に山のように積まれていたら? いや、流石にそこまで行くとミステリーサークルくらいには怪しい物体になる。明衣も気づくだろう。俺と居ない時は常に街中を歩き回っているようだし。

「…………吸殻戦法についてはまた後日。それよりも鬼姫さんに頼りたくて今日は会いたかったんです」

「ああ、待て……要件はなんとなく分かるぜ。お前学校をあの探偵ちゃんと調べてただろ。そんで随分私達を追い回してくれたなあ? 大変だったんだぜこっちはよお」

「え……あ、あれ鬼姫さんだったんですか!?」

 まさかまさかの問題解決。明衣が与り知らぬ所で俺だけが把握出来る情報が増えるのはいい事だ。後で幾らでも誤誘導出来る。鬼姫さんを殺されるといよいよ協力者の目がないから、守るなんて言い方は傲慢だけど。でも俺が食い止めないと。

「何で学校なんかに……生憎ですけどNG殺人は起きてませんよ。そんなの起きてたらもっとやる気出してますからね」

「だが面白い事は起きてる筈だ。何やらカメラ持って動いてたじゃねえのよ。なあ郷矢君、お陰様で声をかける事も出来なかったが、何をしてた? お姉さんに教えちゃくれねえか」

「…………元々協力を仰ぐつもりだったのでいいですよ。俺の手には負えなそうな可能性もあるんです。とりあえず、さっき聞いた『妹』の仮説を……先に言います。興味を持ってくれるんだったら調べてもらいたいです」

「おう。もったいぶんじゃねえ、教えろよ」




「今回の事件は怪異と人の共犯の可能性があります」




「……………………」

 鬼姫さんは俺の知る女性の中では一際粗野な言葉遣いとモラルの欠如が著しいが、それでも常識的な感性は持ち合わせている。目を点にして、彼女は何も言わずに滑り台から飛び降りた。

「怪異なんてもんを私はそんな信じちゃいねえが、興味は沸いた。概要を聞かせろよ」

「鬼姫。お化けなんて嘘だよ」

「ガキは黙ってろ。郷矢君が調べてて、あの狂った探偵様も取り組んでんだろ? じゃあ真面目に聞く価値はある。科学的じゃないからあり得ないなんて言い出しちまったら、NGはどうなるっつう話だよ。あれこそ最も科学的じゃない、現実的じゃない。んだけど、私らの中にあるんだ」

 未慧は乗り気ではなさそうだが、彼女はこの際無関係でもいい。単に鬼姫さんの連れ子だから事情を共有しているだけだ。本人も関与する気はなさそうだし、そもそも小さな子供をこんな頭のおかしな話に混ぜる意味はない。

「――ー―――っていう感じなんですけど、どう思いますか?」

 俺が話したのはこれまでの調査結果だ。それと、遥の考察理由。


・映像を見る限り人がやったにしては不審な痕跡があるが、不審と呼ぶには人為的な痕跡もある

・全てを怪異の仕業とするなら、そもそも依頼の時点で匂わされたり情報が手に入るのではないか

・逆にすべてを人の仕業とするなら、それにしては痕跡も残らなければ目的も曖昧で最終的な結果が見えてこない


 まだまだ情報が少ないので、遥の仮説も方針に過ぎない程度には弱い。鬼姫さんは聞いている内に新しく煙草を取り出して火をつけている所だった。

「………普通に煙草は好きじゃないから副流煙もやめてほしいんですよね」

「おっと、そりゃすまねえ。話が退屈だからつい手が伸びちまったよ。言いたい事は分かった。運がいいな郷矢君は。普段は相手にもしねえんだが、私らが学校に来た理由とも関係してくる。いいぜ、手を貸してやるさ」

「―――その理由を、話してほしかったんですけど!」

 鬼姫さんはその場で大きく伸びをすると、表情をごまかすようにそっぽを向いた。






「なに、大した理由でもねえさ。間近に見た事であの名探偵に興味が湧いたのさ。お前の過去については軽く調べた。その限りじゃ、お前とあの探偵様は最もNGに詳しく、呪われてるって言われても不思議じゃねえ。おっと、オカルトじゃなくてちょっとした比喩だぞ? NGにやたらと関わってるって言いたいだけだ。詳しく知りたいなら捜査に協力するのが手っ取り早え。早速だが打ち合わせと行こう。私達は共に、二人で一人の探偵だ。お互いの弱みも握っている事だし、精々仲良くやろうや」

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