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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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迷信に揺蕩う

 全く驚くべき事に、明衣の出鱈目と思われた発言はしっかり証拠が残っていた。証拠を残す為のハンディカムで確かにその映像を撮影した。これで後日見返して何もなかったら―――それはそれで、大きな証拠になる。

 逆に明衣が最初に言った『違う傘』にはそれがない。濡れているが、濡れているだけだ。傘の大きさでその人物の年齢について測れるような事は、余程小さな子供でもない限り不可能だとして―――何故この傘にはそれがないのだろう。元々なかったからと考えるのは簡単だ。肝心なのはもう一歩先の疑問であり、『誰の傘なのか』。

「それを知るには情報がなさそうだ。なんだか変な感じもするし今日の所は帰るべきだ。これ以上探しても証拠は見つからないと思う。お前はどうだ?」

「私も同意見だけど……うーん、ここに来た人、まだいるんだよね。気になるなあ。カメラでも設置出来れば良かったけど、今回は持ち合わせがないんだよね」


 …………助けるべきかな。


 相手が誰かも分からない。もしかすると犯人の可能性もある。だが犯人でない可能性もある。何故ここに来たかの事情は知りたいが、後々そうなった時の為に今から恩を売っておく事も視野に入る。

「持ち合わせがないなら帰るべきだ。それともこの雨の中、帰ったフリをして延々張り込むか? 学校全体を一望出来る場所なんてないからな。何処か一部分を監視して、そこに誰かが? 通る保証もないのに? 潜伏する? コストに見合わないな。やるべきじゃない」

「そう相手も考えるからこそ引っかかるとも考えられるよね! 私は貴方と一緒なら、何時間でも雨の中に居られるよっ」

「俺はごめんだな。お前と何時間も目的一つでじっとするなんて正気じゃない。雨で風邪も引くだろう。傘一本じゃ全部限界がある。幾ら真相の為でも体調崩してまでやる訳ないだろ。そこまでする理由は、ない!」

「言い切るねえ。それじゃあ助手は帰っても……うーん、でもそれは都合が悪いか」

 一方的な感覚だが、気まずく不穏な気配が二人の間を満たしている。やはり、バレているのか。バレているなら素直にそう言ってくれた方が楽なのに。俺をストレスで圧死させたいかのように明言はしない。

 昇降口の鍵を確認する。不思議な力が働いて出れなくなっているというような展開は起きていないようだ。逃げるなら今。怪異にしろ人にしろ、情報が手に入る見込みは低く、これ以上こんな場所で世界一嫌いな存在と共に居たくない。

「仕方ない。今日の所は引き上げよっか。助手、そのデータはいったんそっちで預かってくれる? 私はもう記憶領域に保存してあるから、自分で見た光景なら多分大丈夫。後日共有しよっ」

「…………お前、もしかして気づいてるのか?」

「何が?」

「犯人の事とか、色々」

「私が幾ら名探偵でも流石にこの時点では何も分からないよ! ここで誰が来たのかハッキリすれば話は変わるけど、まあ焦っても仕方ない。今日までに解決しないと誰か死ぬって訳でもないし。それじゃ、帰ろ。沢山の収穫をどう活かすか。一人前の探偵になるには考えるのを止めないことが重要なの。助手の成長に期待してるよ」

 持ってきた傘を差して、帰路に就く。神はどうして俺のNGをこんなしょうもない条件にしたのだろう。子供の頃に神社で遊んでたのが不敬だった? 神様なんて信じたくないけど、科学的に説明出来そうもないNGが世間にまかり通っている時点で神様のせいにするしかない。これがあの町にだけある呪いとかだったら……どれだけ良かったか。

 調査はともかく、反省点はある。あまり強く彼女の行動を否定すると単独行動しかねない点だ。それ自体は願ったり叶ったりでもあるが、究極の無責任。一応、俺なら手綱は引ける。従うかは分からないけど。

 だがそれよりも何よりも離れられたら保険を用意していない限り俺が詰んでしまう。だからいつも推理を間違った方向に誘導したりしてやんわりと方向を変えていくのだが……今回は雨のせいか何なのか。苛立っていて危ない橋を渡った。

「……明衣。この調査長引いたら、死人が出ると思うか?」

「さあ、分からないけど。出たら面白くなるね!」

「探偵が事件を面白がるな、クソ野郎」

「面白くなかったら続かないでしょ? モチベーションは大事だよ!」




















 


「兄。お疲れ」

 遥に迎えられ、俺は学校であった事を簡潔に報告した。彼女は『妹』として何もなかった事を安堵しつつ、ハンディカムの映像をパソコンに移して、共に鑑賞する。誓って言うが、見ていた時には何も見つからなかった。真千子以外は、特に何も。

「そもそも何か居たら俺より敏感なあのアバズレ探偵が気づくだろ。あの瞬間はいなかった。カメラにだけ映ってたら……怪異が相手だとしたら気が進まない。人である事を祈る」

「兄。煩い。人が相手でも見落としてるかも」

 映画の上映会のようなつもりで気軽に構える。冷蔵庫にポップコーンがあったのでせっかくだから持ってきた。疲れて疲れて、正直これ以上緊張するのは無理だ。兄としての威厳なんて欠片もない。許されるならその場で寝転がりたいが、そういう隙が致命的な瞬間を産む。今の俺にはこれが限界だった。

「外は雨だから、映像も霧がかかってるみたいに薄いな。しかし今更だけどよく壊れなかった。濡らさないように頑張っても限度はあるからな。まあ壊れてくれても俺は良かったが」

「この祠は」

「お前もそう見えたか? 見たけど良く分からないんだ。だから今は考察を保留してる。情報もないのにあれこれ考えるのは時間の無駄だ。全部憶測にすぎない」

 それから映像を眺めているが、俺が見た通りの流れとしか思わなかった。持っているカメラを視点とするなら俺の両目とは当然位置関係が違うのだが、その程度の些細な違いから何か生まれたりはしない。映像は地窓から明衣を映している所である。

「…………」

 遥がボタンを押して、再生を止めた。

「どうした? 見てる感じ何もないと思うけど」

「体育館の入り口」

 言われた通りに見ると、カメラの角度が悪くてほんの数コマくらいしか映っていないが、体育館の入り口に足が見える。ブレて分かりづらいがコートの怪人ではないだろう。細い足だ。

「真千子か?」

 映像を進めていく。俺が慌てて昇降口を経由して戻ろうとしている所だ。呑気に体育館で突っ立っている明衣と会話中、また再生が止まった。今度は分かる。さっきまで俺が居た地窓に足が見えているではないか。


じゃあそれも真千子かと言われると、コートを着ている。あの怪人だ。最初の目撃通り、外に立っているではないか。


「兄は気づかなかったの」

「気づいてたら明衣と追い回してるぞ! これは…………なんだ? どういう方向で考えたらいい? 真千子に聞いてみるか? 俺は……ストーカー? いや、待て。意味が…………」

「思考が漏れてる。混乱してるの」

「混乱するだろこんなの。真千子の偽物が怪異とかそうじゃないとか、コートの奴がストーカーとかそうじゃないとか。二極化で考えられる案件じゃないのか……?」

 明衣にどう伝えればいいだろう。情報は少なくとも、方向性くらいは明確にしておきたい。捜査の進展もそれ次第で変わってくる筈だから。

「じゃあ、面白い仮説出す」

「ん?」










「怪異と人の共犯の可能性について」



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