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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
1st Deduct イジメはペケ
6/97

模倣ビジネス

「え」

「ひっ……!」

 反射的に透歌は俺の後ろに隠れ、それを反射的に庇ってしまう。断面から血は出ていないが生首は本物だ。その死に顔は悍ましい物が迫っていた事を示すように歪んでいる。明衣はこんな生首の事などどうでも良さそうにして、俺に投げつけて来た。

「えい☆」

「投げんな! お前これ…………」

「告白して来た子だよ。なんか何処で知ったんだろ、自分のNGを外したら付き合ってみたいに言ってきたから当てたの。そしたら死んじゃった」

「だとしたら潔すぎるだろ。お前が破らせたくせに」

「え、そんなあ。信じて欲しいな、私は手を出してないの」

「じゃあどうして生首なんて持ってきた!? 見ろ、話を聞きたいのに怯えてそれどころじゃなくなったぞ!」

 背中に隠れて泣き出す後輩は、中尾程ではないが話が聞ける状態にない。心を開けとは言わないが明衣相手に心を閉ざされると何が起きるか分からない。本当にとても難しいお願いをしてると知った上で……少しは仲良くなって欲しい。

 苛立ちから生首を明衣に向かって蹴飛ばすと、ひょいとよけられて階段の下へ。たまたま通りがかった生徒が目撃すると「ぎゃあああああ!」と悲鳴を上げて先生を呼びに行ってしまった。

「ちょっと、乃絃君」

「俺が悪いのこれ? どう考えても告白断った上に殺してきたお前が悪いだろ。人のせいにするなよ」

「誰が悪いって言い出したらあの子が悪いよね。名探偵を試す真似をするなんて無謀だよ。私には分かるんだから」

「――ー場所変えるぞ。お前のせいで騒がしくなる」

 振り向くと、透歌は腰が抜けて動けなくなっていたので背負って移動する事になった。女性に体重の重さを嘆くのは失礼だと言われてきたが、重いもんは重い。仮にその体重が三〇キロで、まあ三〇キロはガリガリなのだが、だからって軽いは無理がある。人間は骨と肉と血の塊だ。重くないはもう、日頃から重いものでも持ってないと。

 静かに話せて誰にも聞かれないならどこでも良かったが、図書室が御誂え向きの状態になっていた。司書代わりの図書委員会がおらず、元々誰も寄り付かない場所であった為だ。殆どの教室から遠いし、そこで本を読むくらいなら駄弁るという発想だ。

 俺だったら明衣から逃げられるだけでもここを選ぶ価値があると思う。NG的には許されていないが。

「ひぐ……あ、あれぇ……だっ! ふう……」

「あーあ。おい、大丈夫か? 泣くなよ。ここには死体なんてないから」

 ハンカチで涙を拭っても効果は薄い。透歌は俺の胸にしがみついてわんわんと激しく泣き出してしまった。これはあれだ。優しくしたからかえって涙腺が緩んでしまったのだ。昔の俺もそうだったので気持ちは分かるが、こうなると対処法が難しくなって困る。

 かの名探偵様は自身の非を一切認めず、泣き止ませる事は助手の役目だと言わんばかりに本を読んでいた。それでこそ名探偵だ。人間の事なんてその辺の石くらいにしか思ってないからNGを暴けるし、破らせる。

「大丈夫だって。大丈夫だから、取り敢えず泣き止め。危ないから泣き止んでくれ」

 背中を撫でれば落ち着くのだろうか。見様見真似、出たとこ勝負でやってみると意外にも効果はあった。透歌はまだ腕にしがみついていたが、泣き腫らした瞳を離して頭を下げる。

「……も、もうだいじょぶです。私……」

「…………頼むよ。まともに会話出来るか? はろー? あいふぁいんせんきゅえんどゆー?」

「ば、馬鹿にしてますかッ」

「おお、その反応が出来るなら十分だ。明衣、もう大丈夫だぞ」

「待ってましたー。助手の人たらしに期待した甲斐があったね。女子だから、この場合は誑かしかな」

「弱みに付け込んだみたいな人聞きの悪い事を言うなよ。虐めの背景を聞きたいんだろ」

「そうそう。もう困っちゃったよね。中尾ちゃんの手が狂暴だったから話が聞けなかった。でも貴方なら大丈夫そう。それで乃絃は何処まで聞いたの?」

「名前は長ヶ良透歌。本当はもっと聞く予定だったけどまだ精神的に不安定だったから安心させるのに時間が掛かったよ。だからそれ以降は聞いてない。正直自分でも無能だと思ったよ。でもさっきみたいに泣かせる更に無能な奴が居たから、正解だった」

「え? 誰だろそんな人いる? 控えめに言って最低だよ!」

「そうか。図太いんだなお前。うざ」

「じゃあ改めて聞かせてもらおうかな。透歌さんって呼ぶね?先輩後輩だけどそこは気にしないで敬語は使わなくてもいいよ。貴方はどうして虐められてたの?」


 ―――助手の役割は推理の補助。


 もとい、誘導だ。あんまり露骨でも明衣に勘付かれるからあからさまな誘導は出来ないが、後輩の答えを誘導するくらいは出来る。

「そう言えばあの時も脱がされてたな。それに関係してるのか?」

「は、はい。その…………び、ビジネスって」

「ビジネス?」

「わ、私の裸とか……は、恥ずかしい姿を撮って男子に売るみたいな。私嫌がったんですけど隣に居た二人が……と、友達で。騙されてあそこに連れ込まれたんです!」

「………………」

 それ。

 

 誰かが明衣の写真を売り捌いて金を稼いでいるから思いついたビジネスだったりしないか?

  

 すると発端はそいつという事になる。どうしよう。凄く話を聞きたくなくなってきた。だが帰れない。近くに人が居ないからそんな真似をするとNGを踏む。ここが地獄か。

「へー。そんな事思いつく人が居るんだ。何処かの誰かさんみたい。ねえ乃絃」

「知らん」

「この間十万稼いだんだよね確か。お金になるならいいんだけど、このビジネスモデルに対する分析とかないの?」

「え?」

「俺はお前のヌードもグラビアも一切売ってない。せっかく心を開いてくれたのに脛に傷のある変態みたいにするな」

「確かに。私が脱ぐ時は乃絃君と二人きりの時だけだよね」



「俺は、童貞」



 明衣と肉体関係にあると誤解されるくらいなら自分から打ち明ける。それはあまりにも看過しがたい誹謗中傷だ。透歌の俺に対する視線が冷ややかになっていくのを感じたが気にしないったら気にしない。明衣との関係さえ否定出来ればいい。

「……誤解が解けたので評価してみると、まあ普通に金にはなるだろうな。ガッツリ犯罪だと思うけど」

「うんうん。犯罪はバレなければいいだけだからね」

「お前が言うと味があるな」

「でしょ? そういう隠れた犯罪を解き明かすのも探偵の役目……って言いたいけど、警察の方が得意分野だよね。中尾ちゃんが死んじゃったからそれも解決してるんだけど……中尾ちゃんとは何か関係があるの?」

「と、友達の先輩みたいな。あの二人はそれぞれ。柊真由ひいらぎまゆ坂月万梨阿さかづきまりあって名前で。か、かっこいい先輩が私を呼んでるって連れ出されたんです」

「かっこいい先輩? …………二年には居ないね。贔屓目だと乃絃君が一番かっこいいけど」

「お前にも言われても嬉しくないけど、そんな顔で注目されてる奴いたっけな。まあイケメンは居ると思う。男目線では。しかし結局そのイケメン先輩とも面識がないんだろ? なんでついていくんだよ」

「と、友達でしたし……カッコイイって言うから、顔見たくて」

 成程、面食いか。

 見た目至上主義を批判するつもりはないが、透歌が女子で助かった。これが性別がひっくり返ると途端にリスクを孕むようになる。男なのに。男だからこそ、明衣という特大地雷を踏みかねない。

「そっかそっか。それで中尾ちゃんは死んじゃったけど写真とかは撮られたの? それともまだだった?」

「ど、動画にするか迷ってたみたいで……撮影はされてないと思います。郷矢先輩に助けてもらいました……から」

「…………気になる事があるんだが、聞いていいか?」

「はいっ。何でしょうか」

「この図書室もそうだけど、人が寄り付かない場所には理由がある。あのトイレも使われる時は使われるけど、まあ怖がられる場所だ。そもそもこの学校は人も多いからそれだけ痛ましい事件事故があるのも当然でな。こいつみたいな異常者が殺したり殺されたり、色々あるんだよ。あのトイレには『ぼっとん花子』さんが居た筈だ。昼にお化けは出ないが、女の子を虐めるなんてどう考えても逆鱗触れてる。怖くなかったのか?」

「信じてないんじゃないの?」

「信じる信じないは個人の勝手だが、お化けはそれこそビジネスになるだろ。本物のお化けを撮影出来たらそれだけで盛り上がるぞ。俺の真似をするような奴が知らないってのは微妙に考えにくいな」

「そ、それは……その通りで」

 透歌は俺の手を握りながら、震える声で言った。

「あんまり嫌がるならここに閉じ込めて……夜に、お化けの検証をさせるみたいな脅され方、されました。は、花子さん知ってます。私。卒業したお姉ちゃんが話してて……死ぬんですよね?」

「私、詳しくないな。助手、頼んだ」

「頼まれたが、お化けはお前の専門外だろ」

「探偵としての本懐の為なら気にしないよ。それに、至らぬ探偵を補佐する為の助手だから」

 意訳すると、透歌のNGを見破る為ならお化けについて知るのも吝かじゃない。でもまどろっこしいから詳しいならお前が教えろと言っている。

  本当にしようのない奴だが、NGを見抜く力だけは本物だ。警察にダンマリを決め込む以上、最後までこの件には関わるつもりだろう。俺も透歌の信頼が欲しいし、利用されてやるとしようか。

「…………じゃあ、まあ。七不思議なんて今時流行らないけど、あるもんはあるからな。確認の為にも話させてもらう」

 

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