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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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58/98

アメノヒノメイキュウ

 雨という天候は涼しくて嫌いではないが、雨という状況は嫌いだ。傘を持ってくるのが面倒で、靴が濡れるのが面倒で、だがそれ以上に最悪なのは明衣の表情が物憂げに見える事だ。あいつは最低最悪の殺人鬼であり、NGを用いる事で殺人罪を逃れ(殺人罪は死の原因が誰かの行為であると科学的に証明されないといけない)、警察に何かしらをもちかけた事でそれ以外での逮捕を免れている。

 そんなアイツは慈悲の欠片もないゴミクズでないといけないのに、雨が降ると髪も萎れて目は伏せられ、この日々を悔いているかのような真っ当な表情を見せる事がある。そんな事はあってはならない。勿論口を開かせれば早々に鬱陶しくなり、まだ一言目でもその減らず口を今すぐ閉じろと言いたくなる。

「雨だからって気分まで落ち込んじゃ仕方ないよ助手。はいこれ、ハンディカム。現場を調べるなら取り敢えず映像でも残しておかないとね」

 待ち合わせをしようにもNGのせいで家の前にアイツを呼び寄せるか、もしくは妹に付き添ってもらって校門前まで行く必要がある。今回は後者を選んだ。彼女には悪いと思ったが、現場で待ち合わせと言われたら現場で待ち合わせする必要がある。助手の言う事なら少しは融通を利かせろとも思うだろう。言えば利かせてくれるだろう。

 ただ、もう分かる筈だ。アイツにNGに繋がる情報を与えてはならない。そこで文句を言ったら文句を言わないといけない理由があると勘繰られるから、文句を言う選択肢は存在しない。

「先輩を尋問した成果を聞いてもいいか?」

「いいけど、二人して校門前で傘さして立ってるんじゃ寒いよっ。中に入ってから話そっか。取り敢えず学校の鍵は持ってるから、楽に行こうね」

「……奪ったのか?」

「まさか! 名探偵はそんな事しません。それにこれはお悩みを解決する為の行動だよ。先生も快く貸してくれるに決まってるじゃん」

 決まっているのではなく、快く貸さないと何をしでかすか全くわからないだけだろうが……先生も命は惜しい。それは生徒の命を守るという使命があろうとなかろうと、己の命を犠牲にしたくはない。生物として当たり前の事だ。

 しかし言うとおりにしたとはいえ、明衣に関わるなんて命が幾らあっても足りないのだからそういう時は俺を頼って欲しかった。ピッキングでも何でもするのに。ハンディカムを構えて早速撮影を開始。撮影者の俺は……まあ映る必要はない。鍵を開けて校内に侵入する名探偵を背後から撮っている。

「一応聞くんだが……体育館に移動するより先に怪異と遭遇するなんて事は言わないよな?」

「お化けの事だよね。確かに前遭遇したねッ」

「お前が殺したな」

「別に大丈夫だよ! 体育館に行く為の通路として使うだけだし、こんな場所に噂なんてないから。へえ? 助手、もしかして怖いんだ?」

「暗い所でヤバい奴に会うかもってリスクを怖がって何が悪い。体育館に直で行かないのはなんでだ?」

「セーフティゾーンを作らなきゃ。もし何かあった時、雨に打たれたままは嫌でしょ。そうだ、何か飲み物でも飲む? 丁度自販機があるし」

「……奢りか?」

「名探偵の懐の深さを信じなさい!」

「じゃあ水で」

「…………おっけー」

 今の間は……?

 もしかして俺のNGを探ろうとしていたのか。それは今でもNGが特定されていない証拠と見るべきか、はたまた別の目的があったのか。今わの際に居ると思うと途端に喉が渇いてきた。貰ったペットボトルの蓋を開いて、まずは一口。

「じゃあ早速だけど、体育館にレッツゴー! 色々調べなきゃね!」

 セーフティゾーン扱いされる昇降口を抜けて、体育館に続く勝手口へ。貰った鍵束で体育館の施錠を開けながら、明衣が虚空に話し始めた。

「岩垣先輩に色々聞いた結果だけど、あんまり事情を知らないって感じだったね。何だか、真千子ちゃんがずっと尾けてくるからそれで事情を問いに来たみたいな話は聞きだせたけど……」

「俺もそれは聞いた。真千子はストーカーに悩まされてて、そのストーカー疑惑がある男なんだ。状況が二人共似てる事について説明がつきそうにないからお前に任せた」

「それなんだけど、ちょっと状況がおかしいよね。自分に付き纏う理由を問い質しに来ただけなのに恋人と勘違いして乃絃を殴るなんて」

「それは単なる短気……って思ってたけど、考えたら確かに変な話だ。もしかして嘘を吐いてるのか?」

 真千子から聞いた状況だけなら一致する。彼女に付き纏う元カレが、俺を今カレと勘違いして襲い掛かった。だがそこにもう一つの主張が加わると全てが矛盾してしまう。そうなるとまず最初に思いつくのは、普通に嘘を吐かれている事だ。

「嘘は結構だけど、あの状況でそんな嘘は吐けないと思うよ。だって嘘でストーカー被害の話をでっち上げられたならある程度そのストーカー? バスケ部に現れる怪人と関係あるかもしれない話についてある程度事情を知ってる事になるもん。私の調査術を掻い潜るくらい頭が回る人なら、そもそも乃絃に殴りかかる短気を見せないからね」

 体育館の鍵が開き、二人で足を踏み入れる。部活も清掃もすっかり終わった体育館には当たり前だが活動の痕跡はなく、屋根に打ち付ける豪雨の音だけが響いている。けたたましく鳴り響くこれらの音はまるで施設全体を包み込んでおり、幾ら雨で音が通りやすいと言っても、ここまで覆われていると中の音は聞こえそうにない。

「考えられるのは起きた事は本当だけど、それをダシに復縁を迫ろうとしてたか……いずれにしても話すきっかけが欲しかったんだと思う。つまり付き纏ってくる真千子ちゃんが偽物だって分かってたんだよ」

「成程な。まだまだ情報を持っていそうだ。先輩はどうした?」

「棺桶に入れて地面に埋めておいたから、まだ大丈夫! それよりどう、助手。カメラに何か映りこんだ? トレンチコートとかッ」

 明衣が体育館の中心で座り込んでしまったのを横目に、ハンディカムを片手に中から体育館の外周をぐるりと撮っていく。視界を集中させる必要はない。映像には映らなくても肉眼には映るなんて……そんな事が起きたらいよいよオカルト染みてくるが。一応ケアはしておきたい。

「……練習中に現れるって話だから、当然だけど俺達の前には現れないか。それとも俺達がバスケをしたら出るのか?」

「衣装持って来たけど、少し遊ぶ?」

「何で女子バスケ部のユニフォームなんか持ってんだよ…………いい。そう言うのじゃないと思う。お前に言ってなかったな。バスケ部が付き纏われてる事に気づいたのは最近の事かもしれないが、奴はそれより前からずっと付き纏ってることが判明した。ネットに上がってる画像だけでも、よくよく見たら一部分が映ってるんだ」

「へー? ……それじゃ校内新聞を漁ったら他にも証拠見つかるかな。因みに中には入ってきてた?」

「そういう写真もあった。丁度ステージのカーテンに足元だけが見える感じでな。ここまで来たらいっそ心霊写真だけど、お化けじゃなくて不審者扱いだからどうだろうな」

「鍵がないと中には入れないけど……中に入る事も出来る、か。状況は一概には言えないけど、外からアクセスしやすいルートがあるのかもねステージ袖の窓とか」

「変態が何処かから侵入してきて被害があるって話じゃないぞ。何でまたそんな話を」

中に入る事が可能って言うのが大事なんだよ助手。逃げる時、外にどうにかして逃れるんじゃなくて中に入ってやり過ごすって事も可能なんだから」

 それはまた、ゾッとする話。

「…………練習中だけって話だったが…………まさか、それ以外にも?」

「写真の件、貴方が自力で気づいたんでしょ。だったら当人が気づいていない状況だってまだまだあると考えても不思議じゃないと思うっ。盛り上がって来たね!」



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