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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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そこにいる

 ストーカーなんてモンじゃない。バスケ部の面々が映る写真を―――ネットに公開されているモノだけでも探ってみた。そうしたらその写真の全てに、よくよく見ればトレンチコート姿の変人が映りこんでいた。そこまで露骨ではない。活動中のワンシーンを撮影した物なら見切れるように入っていたり、距離が遠くて一瞬でそれとは判別出来なかったり。

 全身が映る事は決してないが、確かにそこに居る痕跡がどの写真を見てもある。見る度に怖気が走ったのは内緒だ。これから調査をするというのに情けなくて仕方ない。極端で無情な話をすれば、俺が恐れるよりも遥が怖がるべき話だ。被害を受けているのは女子バスケ部。俺は男子。

 縁がないものを怖がるなんておかしな話。それならこういう言い方はどうだろう。気持ち悪すぎる。

「……遥。お前もしこんな奴に付き纏われてたらどうする」

「兄に頼る」

「賢明な判断だ。こいつはちょっと不気味すぎる」

 ストーキングの目的は様々だが、ここまで存在を意識してようやく見つけられるかどうかのギリギリに必ず映りこむ不審者。三か月以上前からそれは始まっていたのにバスケ部が気づいた様子はない。という事はそれまで実害すらなかったという事だ。存在を意識させるような行動に出たのはここ最近の事で、それまではただ映りこんでいるだけだった。

 ちょっと、目的が見えてこない。

「これ、人間?」

「…………俺と明衣が侵入経路の調査をした時、その痕跡は全然なかった。まあ上手くやった可能性もまだ否定できないが、怪異の類って可能性はあるかもな。そりゃそういう奴に遭遇した事はあるけど、詳しくないんだ。出来れば……辞めてほしかったよ」

 写真なんて誰の目にも触れるんだから俺達より先に誰かが気づいてもおかしくないだろう。そうはならなかったという不自然さが、よりこの男が怪異である事を証明している気もする。問題は学校に伝わる怪談はあっても体育館にはなく、女子バスケ部自体にもそんな曰くは存在しない。

「そもそもその手の話があるなら不審者云々という前にお化けだと言い出す奴が一人くらい居てもいいだろ。みんな不安になってるんだ。普段信じてなくても錯乱して言っちゃう事もあるだろ。それがないって事はやっぱり人間なのかと思いつつ、人間だったらそれはそれでヤバい奴だ。まだ方向性は絞れないな」

「不登校になる」

「まだ周りをうろちょとして気味が悪い程度だからそうはならないだろうけど……誰か一人にでも何かあったらすぐにでもそうなるだろうな―――弱ったな。怪異だったら打つ手がないぞ」

「一応整理する」


・依頼の始まりは明衣が設置した相談箱から。不審者を捕まえて欲しいという話から始まり、話を聞くにその出没区域は体育館近辺。現れるのは練習中であり、部活が終わって帰る頃には居なくなっているらしい。


「気になる事はあるか?」

「現れるのはそこだけ?」

「話を聞く限りはな。練習中って所がミソだろう。探しに行くに行けない……まして担任が事なかれ主義な感じで、あんまり生徒を守ろうって気もなかったからな。そういう意味じゃバスケ部への理解度が凄く高いとも言える。人間だったらな」

「お化けだったら?」

「練習中にピンポイントで現れて消えるだけの怪異なんて意味が分からない。ただ、俺はやっぱりそっち方面に詳しくないからな。詳しかったら説明がつけられるのかもしれない……やっぱりまずは調査方針から決めるべきなんだろうな。それはどうせ今夜辺りにでも電話してくるアイツと決めるよ」


・服装は季節外れのトレンチコート。背は高く、窓越しに姿を見ようと思っても顔が見えないらしい。


「厚着をしているなら、痕跡くらい残ってそうなモンだ。よっぽど隠し方を把握してるか……怪異か。人間なら仮にうまい事抜け出せても外で目撃されて目立つと思うんだけどな。世の中合理性ばかりじゃ回らない。単なるうっかりミスが原因で起きた事故なんかもあるしな。何で目撃情報がないのかは、例えば家が近いからでも十分説明出来る」

「珈琲淹れてきた」

「ありがとう」

 一口飲んで、一段落。遥がホワイトボードに書きこんでいる束の間を休息とする。悪い予感ばかり当たるようになるのは、良くない傾向だ。精神的に疲れている。だから面倒を引き寄せる。


 ―――不審者の話はここまで。


 ここからは真千子に付き纏うストーカーの話に移る。


・朱砂野真千子はストーカーに悩まされていた。他に好きな人が出来て円満に別れられなかった元カレを疑っている。元カレの名前は三年の岩垣。向こうの強烈なアプローチに押し切られる形で交際が始まったようだ。かつてはコミュニケーションとして成立していた電凸や家凸も、別れた状態である今も続けられて困っているらしい。

 

「岩垣先輩は短気だった。あんな人がストーキングなんて出来るとは思えないな。それも実害なく、悟られる事なく。現に今日も家の前で待っていた。それについては事情があったんだが……どうだ遥。お前は体育館に現れるトレンチコートの怪人とこの短気な彼氏、同一人物だと思うか?」

「事情ってのは」

「どうも岩垣先輩の方もストーカーに悩まされていたらしい。相手は真千子。自分が近づくと嫌がるのに何でもない時に付き纏ってくる事に困惑して、今回に関してはそれの事情を聴きたかったんだろう。でも俺を見てつい血が上るくらいには破局に納得いってないのも事実と」

「なんか嘘っぽい」

「嘘っぽい?」

「そういう理由があればやっぱお前も別れたくなかったんだって言い訳する為に聞こえる」

「はー……そういう考え方もあるか」

 嘘を吐いている様には見えなかったが、もし嘘なら納得が行く。真千子は本気で怯えていた。殆ど交流の無かった俺に助けを求めるくらいには。それを出来れば信じてあげたい。女の子に弱いなんて言われそうだが、そもそも自分をしこたま殴ってくれた男の発言なんぞよりは信じられる。当たり前だ。

「明衣の取り調べ次第だな、そこは。ちょっとボード見せてくれるか」

「ん」

 情報はまだまだ少ないが、どうだ。全体の情報を見て、真千子と体育館の怪人に関係はあるだろうか。

「その真千子って人は、彼氏持ちなの」

「いや、彼氏が居るなら俺なんか頼らないと思うぞ。それこそ彼氏が良い気持ちしないだろうし、好きな人が出来たってだけだ。片思いだろうな」

「その人が無関係とは思えない」

「……ふむ?」

「その人がストーカーって可能性もある」

「―――凄い真千子に執着してるとか、元カレのストーキングを復縁とみなして証拠掴もうとしてるとかか? その可能性は確かに……否定は出来ないな。ただ彼氏が居る居ないってのが気軽に生まれるならいずれにしてもこの学校の人間だ。放課後は部活動に勤しむのが学生の基本。練習が終わってからなともかく一々抜け出してたら簡単に特定出来ると思う。はあ、課題が沢山あるな。遥。珈琲もう一杯頼む。夜は忙しくなりそうだ」

「…………外」

「ん?」

 思考に没頭していて気が付かなかったが。






 雨が、降っていた。


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