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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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冥府の道に連れ要らず

「わ、私に家とか教えちゃって大丈夫なんですか……?」

「俺は何か、潜入捜査官的な奴なのか? 後輩に家を教えたからってどんな問題がある。それとも真千子がストーカーするのか? 自分がやられてるみたいに」

「い、いえ! そんな真似は……しません! 郷矢先輩に嫌われても困ります!」

「ストーカーの気持ちになってみれば分かる事もあるだろうが、良識的な判断に感謝する。じゃあ今度はそっちの家を教えてくれ。家と家との道筋が分かってれば緊急避難も出来るだろ」

「は、はい!」

 ストーカー自体は、正直困るどころか有難い限りだ。勝手についてきてくれるなら明衣から離れて行動出来るようになって、アイツに俺のNGを悟られにくくなる。問題は本当に四六時中近くにいてくれるのかという所であり、距離が離れた瞬間に俺は即死する。やっぱり、駄目かも。そんなついてきてくれるかも分からないストーカーに命は懸けられない。そいつは適切な距離なんて知らないし、教えてしまったら俺は奴隷になる。

 それなら今まで通り明衣の傍に居た方が確実だ。俺が勝手についてきているのではなく、望んで助手を欲しているのだからストーカーよりは確実性がある。

「少し踏み込んだ事を聞いてもいいか?」

「は、はい」

「おい、そんなに緊張しなくていいよ。そっちが不義理を重ねても、まあ事件解決の為なら俺は離れない。真千子は円満に別れられなかった。他に好きな人が出来たからと言ってたな。その……悪いな。俺は明衣とつるんでるせいでまともな感覚が養えてない。いや、アイツは俺が抑えとかないと何をするか分からない。だから正直想像がつかないんだ。お前の事が好きじゃなくなったって言えば円満に別れられると思うんだけど」

「…………元々私もその、押し切られたみたいな形で交際してたんです。断ったら後が怖そうっていうか、強面って訳じゃないんですけど、凄い不気味な雰囲気があって……あ、仲が悪かったとかじゃないんですよ! 友達としてなら全然……ただ、恋人関係はやめたいなっていうだけで」

「成程? 向こうからの熱烈なアプローチの末に始まった関係だったから、お前がそっぽ向いた事で破綻するのは当然だ。で、円満に別れられないというのはどんな状態だ?」

「家に押し掛けてきたり、寝ようかなってくらいに電話が鳴ったり。やめてって言っても、こういう話をする前は私も歓迎してたから……」

「別れる事に納得してないから今までと同じ事をしてくるのか」

 ここまで聞いておいて何だが、俺の思う平和な暮らしなんてものは案外存在しないのかもしれない。明衣が介入しない様な生活にもそれはそれで面倒が付き纏うか。誰かが死ぬ危険がないという意味では素晴らしいが、痴情のもつれは他人事でも聞いていられない。とても醜いと感じた。

「警察は……その程度じゃ無理か。見回り強化ぐらいはしてくれるんだろうが、そんな状態じゃ遠ざけようとするだけ逆効果に見える。顔を見てないなら確かにそう思っても不思議じゃない」

 俺も話を聞いている内に犯人はそいつかもと思うようになってしまった。同情的なだけで、推理は介入していない。こういう感覚は探偵助手としてはよろしくないのだと思う。ただ、俺から求めたとはいえそれを話す真千子の顔は苦しそうで、不意に悪夢でも思い出したように苦々しく歪んでいる。

「…………嫌な事を話させたな。これ以上は踏み込まない、悪いな」

「ご、郷矢先輩。手、繋いでも良いですか……?」

「―――まあ、なるようになるさ」

 護衛をするのに手を繋ぐ行為は必要ない。わざわざそれを求めて来たという事は考えられる理由は一つだけだ。



「あ、朱砂野……!」



 目の前の庭付きの一戸建てが彼女の家で、その前に陣取る男子こそ元カレなのであろう。同じ高校の制服―――しかし俺には見覚えがない。遠いクラスの人間と見た。もしくは先輩だが、俺より少し低いくらいの身長だとそうは見えない。

 立ち方はやや猫背で体型は細めというかガリガリだ。足を痛めているらしく、誤魔化しているようだが右足の動かし方がぎこちない。不気味な雰囲気というのは分からないが、雰囲気がそもそも個人の主観なので気にしなくてもいいか。

 男は当初明るい顔を覗かせたが、隣で手を握る俺を見て、顔つきが鋭くなった。

「…………てめえ、郷矢乃絃だな」

「俺を知ってるんだな」

「朱砂野、お前の好きな男ってコイツの事なのか? やめとけよ、一年生にゃ分かんねえだろうが、こいつは彼女がいんだ。明衣っていう、デカパイのな」

「仮にも元恋人の前でそんな下品な表現はするもんじゃないが、それより訂正しろ。明衣は彼女じゃない。俺はあいつの助手だ。明衣を知ってるなら話が早い。あんなろくでなし女を誰が彼女にしたいんだよ」

「うるせえ! 朱砂野を俺から取るな! 先輩の言う事は聞くもんだぞ!?」

 胸倉を掴まれる寸前、真千子から手を離して壁に追いやる。

「郷矢先輩……!」

 筋力はそれ程でもない。短気っぽい事がストーカーの性質と噛み合わないが、そこはどうとでもなるか。口より先に手が出るタイプは分析が楽で非常に助かる。

「まあ落ち着け。あ、落ち着いてください。貴方は誤解をしている。俺は真千子が……」

「舐めてんじゃねえぞ!」

 ガツン、と頭突きが一発。

「先輩には敬語だろうが! 朱砂野奪って調子乗ってんのか!」

「女子バスケ部が不審者に悩んでるってんで相談に乗ってる所です。それとは別にストーカー被害もあるらしい。恋人だって言うなら勿論知ってると思いますが、何か知らないですか?」

「うるせえ! 犯人はお前だ!」

「岩垣先輩! やめてください!」

「黙れ!」

「きゃあ!」

 完全に頭に血が上っているようで、話を聞く事は不可能か。騒動を止めようとしてくれた真千子が突き飛ばされて床に尻餅をつく。ついでに俺が殴られた。さて、その衝撃が血管でも傷つけたか、鼻血が噴き出してしまう。

「真千子の恋人だって言うならせめて解決に協力して欲しいですね。もう勘違いは好きにしてくれて構いませんけど、自分が恋人に相応しいってとこを見せるべきでしょう」

「名前呼びを―――するなっ!」

二発顔を殴られた所で、俺より先に真千子が泣き出してしまった。何も出来ない無力さ故か、それとも護衛が頼りないからか。

「この様子じゃ何も知らないんですね。恋人って言うから情報を期待したのに聞いて損しましたよ」

「何だと、この―――!」



「そろそろ痛えんだよ」



 無抵抗からの不意打ちは綺麗に決まったようだ。脇腹を強めに打ったら、岩垣という男はそれだけで悶絶してしまった。

「俺がろくでもない男なのは同意する。だから何発殴られようと別にいいんだけどな。恋人に手を出すってのは違うんじゃないか?」

「ぐう…………ううううう…………」

「喧嘩が強くても女性にはモテないと思うけどな。しかも無抵抗の奴を殴るなんて論外だ。そんなのを好きになる女はよっぽど趣味が悪い。真千子はそういう後輩なのか? そんな事ないと思うけどな」

 道の上でぺたん座りをしたまますすり泣く真千子に手を伸ばす。立ち上がらせると、ポケットのハンカチで涙を拭いた。

「ご、郷矢せんぱ……ぐずっ。大丈夫ですか……?」

「自分の心配をした方がいい。こんな事で泣いてたら心が持たないぞ。そら、少し動くなよ。土埃を払うから」

「え、あっ」

 大した量ではない。腕やお腹や腰やらお尻やら。あんまり強く叩いても痛いだろうから、撫でるように丁寧に払うだけだ。

「ひゃうっ」

「変な声出すな。制服汚して怒られるのはそっちなんだから……いいか? すぐ家に帰って鍵をかけろ。今日はもう俺の仕事は終わりだからな。いいな?」

「は、はい……!」

 真千子は言われるがままに走り出して家へと逃げ帰ってしまう。後に残されたのは俺と、その場で崩れ落ちたままの先輩。意趣返しの不意打ちは望むところだったが、どれだけ反撃が効いたのだろう。これに懲りたら暴力を控えて欲しいものだ。学生だからって許されない事もある。明衣じゃないならこれは傷害事件だ。

 携帯を取り出して、いつもの番号に電話を掛ける。


『―――もしもし、明衣か? 悪いけど今から引き渡したい証人が居る。重要な情報を持ってるかもしれない。俺には聞きだせなかったから探偵様に頼りたいんだ』

『凄い乃絃! もうそんな重要参考人を見つけたんだっ。ふふふ、やっぱり助手として育て上げた私の手腕は間違ってなかったんだねっ。場所は?』

『俺の家の前にしておこうか。悪いけど怪我させられてな。今日はこれ以上業務に従事したくない』

『へー。乃絃に怪我させるなんて最低のクソ野郎だね。うん、分かった。顔を拝みに行くよ』

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