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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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現実悪夢現実悪夢現実悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢飽く無握矛

 みんなの輪の中に居たい。

 それは子供心に感じるちょっとした寂しさの発露でもあり、良し悪しを騙るような次元の話でもない。単にもっと仲良くしたかっただけだ。


 騒がしい所が好きだった。


 人が集まる様な場所に一秒でも長く居たかった。たとえ参加できていないのだとしてもその雰囲気が好きだった。一人ぼっちの時間は何よりも嫌いで、減らすべき瞬間だった。

「やだ! 隠れるのやだ! だって見つからなかったら俺を置いてくじゃん!」

 欲しいのは喧騒。

 求めるのは反応。

 子供が鬱陶しいのは特別珍しいような事ではない。ただそこに必死さが加われば話は少し変わってくる。



 俺のNGは『一人ぼっちになる』事。



 より厳密には『他人と一定距離(具体的な距離は不明)以上を空けてはいけない』というNG。試す事も憚られる世界で、安全な道とは誰かが寄り添うくらいに傍に居てくれる事だ。近くに居てくれれば間違いない。このルールは都会に生まれてしまえばそう大した難易度ではない。もしくは誰かに過剰に愛されてしまえば……見た目とは裏腹に難しくはない。他の、本人がどれだけ気を付けても回避しようがないリスクの付き纏っているNGと比べれば楽だ。金魚の糞と呼ばれようとも、誰かにぴったり張り付けば問題ない。家には家族が居て、外には友達がいる。


 ―――これ以上は何を求めようか。


 そう、何も求める必要はない筈だ。俺に必要なのは俺以外の誰か。それはもうとっくに満たされている。これ以上何を求める。無償の愛はとうに親から貰っている。どうして俺はこんなに納得していない。

『貴方は臆病なんだよ』

「…………毎回毎回、他人様の夢に出るんじゃねえってわっがんねえかなあ!? 何なんだよてめえは! なにがしてえんだよ!」

『そのNGは本当にそれだけの為? 思い当たる節はない? 例えばそれが無かったら貴方は一人で生きていられる?』

「……夢の中のお前に何言っても無駄だろうけど、俺のNGを比較に出してるからそんな仮説が生まれるんだよ馬鹿馬鹿しい。じゃあ歩くのがNGって奴が居たとしよう。居てもとっくに死んでるけどな。そいつはNGが無くても歩かないのかよ」

『成程。でも考え方によっては歩かないかもしれないよ。例えば……自分が不自由を被ってでも叶えたかった願いがあるとか。それとも貴方にもあるのかな? 誰かが傍にいないといけなくなっても問題ないと思えるくらいの願いが』

「…………なあ明衣。夢でもいい。教えてくれ。NGって何だよ。NGって何なんだよ。それのせいで俺は困ってる。皆が困ってる。何で全員がNG持ってる筈なのに誰も詳しくないんだ? 話題に出さないのは分かるよ、死に直結するからさ。でも誰か……なんかあるだろ。お前は知ってる筈だ! だってそうじゃなきゃお前だけがここまで不自然にNGを調べようとする訳がない!」

『んー。この私に聞いても答えなんか出ないよ。私は貴方。貴方が知らなきゃ私も知らない。ちゃんとそれは、現実の私に聞いてね』

 あの日、俺の運命は変わった。

 明衣さえ居なければこんな事には。


 引っ越すような事も。

 クラスメイトが死ぬ事も無かったのに。























「…………」

 両手をベッドの端に縛り付けて眠る事にも少し慣れた。寝るとストレスが溜まって仕方がない。脳にも休息が必要だから、不眠で居続ける事は出来ないのだ。手錠で拘束されていた時間は体感にして僅か。だが手すりの疵がどれだけ暴れていたかを如実に物語っている。引きちぎりそうな勢いだ。手錠のついた手首にも痕がついているどころか殆ど痣になっていた。

 これは俺が望んだ事だ。

 『妹』に迷惑をかけまいとして、自分からやった。いつもいつも首を絞められて大変なのは向こうだと分かっているのだが、俺だって本意じゃない。首を締めずに済むならその方がいい。事件を解決した直後は決まって悪夢を見る気がする。だからこうした。


 直後と言っても、一週間は経っているが。


 逮捕された会長だが、取り調べ中に死亡したらしい。そう言えば俺も、警察に逆らわれたらNGである事を伝え忘れていた。あの態度で、しかも明衣の事を知っているなら逆らうなんて馬鹿な事はしないだろうと思っていたのが俺の落ち度だ。人間、時間が経てば忘れる事もある。もしくは警察の取り調べが乱暴だったか。

「…………」

 アイツはひょっとするとそこまで見越していたから自分で手を下す事をやめたのかもしれない。俺の推理を褒めていたようで、会長の末路は変わらないと分かっていたなら簡単に引き下がった事にも説明がつく。思わせぶりな態度のせいで一体何処まで把握していたのか把握し辛い。とんでもないクソ野郎だ。

 鬼姫さんの存在に勘付かれたのは誤算だったが、関わろうとしなければ明衣にも狙われないだろう。電話番号の交換とかはやっていない。明衣に調べられたら困ると思ったからだ。俺はあいつを制御出来ているようで、その実思い通りには出来ない。ほんの少し矛先をずらすとかその程度の制動力。

「遥。起きてるか?」

「煩くて」

「……ごめん。悪いけど手錠を外してくれ。起きてる間なら大丈夫だ。少し一人で考え事をしたい。今日はもう寝ないから、頼む」

「……まだ深夜の三時だけど」

「寝たら大変な事になるからな。それなら多少無理してでも起きるよ」

 『妹』は眠そうな目を擦りながら棚に置いていた鍵で手錠の拘束を外してくれた。NGの性質上、俺は一人になる事が出来ない。部屋の隅に行って一人っぽくするのが限界だ。

「最近平和だね」

「いい事だよ。暇なら探偵はお役御免だ。このまま一生平和であってくれ。そこかしこで事件が起きてたら溜まったもんじゃない……火種はあるからな」

 NG殺人とやらは正体不明であり、その犯人は明衣ではない。だからそれ次第では大変な事にもなるが、今回の事件で明衣に対してビビってくれたのか何なのか続報がない。頼むからこのまま一生隠れていて欲しい。

「明衣さんが勝手に動くんじゃ」

「暇になれば俺を連れ回して歩くだろうけど、それくらいなら全然マシだ。前の事件はなんだかんんだ町内会を巻き込んだからこれでみんなアイツの恐ろしさを再認識しただろ…………話してるけど、お前は寝ていいからな。もう手遅れだけど、誰とも話さなかったらお前のNGは保険が効くんだから」

「…………時間、不明だし」

 遥のNGは一日に二人以上と会話しない事だが、この一日という感覚はざっくりとした物であり、厳密に何秒のサイクルなのかは判然としない。具体的に言うと二十四時間が経過しているか日付として0時を回っているという意味で一日なのかが分からない。試行回数を稼げないのは分かるだろう。破れば死ぬのだから。

 じゃあそもそもどうやって判明したのかという所まで考え始めたら泥沼だ。物心ついた時にはまだ何も意識して聞いていない筈なのになぜか両親の名前を知っているような感覚で、何となく把握できてしまう。少なくとも俺はそうだ。そして試行する事も出来ないならNGは自己申告が基本だ。

 だからNGについて嘘を吐く事も可能と言えば可能だが、人間の本能は誤魔化せない。自分の中で設定したNGと実際に存在するNGでは死に対する距離感が違い過ぎる故に嘘発見器の如く分かりやすい挙動を見せてしまう。

 本物は破れば即死。

 偽物は破っても問題なし。

 この遠すぎる距離に対して同じ挙動を維持出来る人間は非常に少ない。俺でも無理だ。だったら最初から嘘なんて吐かずに隠していた方が良い。

「保険とかどうでもいい。兄が死んだら意味ない」

「……俺が幸せになるのは世の道理に反する。お前の気持ちは嬉しいけど、真面目に答えるならその願いは聞いてやれない。地獄に堕ちるべき存在だよ俺は。自虐とかじゃなくて俺も大概だからな」

「親不孝者」

「あの虐殺を生き残っておいて、俺一人だけ幸せになるなんて死んだ奴が許さないよ。本来生きてちゃいけないんだ。明衣を止める為に仕方なく息をしているだけ。頼むからお前は、NGを明かしてもいいって思えるような人を見つけてくれよな。難しいかもしれないけど……いつまでも傍に居てやれないから。どうしてもそれが出来ないなら二人と幸せに暮らしてくれ」

「兄の馬鹿」

 遥はふてくされたように布団を被って、独り言のように会話を切った。






「そうやって死ぬ死ぬって、私の気持ちも知らないで。大馬鹿」


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