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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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48/98

栄光なき推理

次話で章終わり。

「え」

「え?」

 お互いにおかしいとは思ったが着眼点は違っていた。鬼姫さんと顔を見合わせてもどちらかが思い過ごしだったとはならない。

「どういうこったよ」

「それはこっちの台詞なんですけど。何を言ってるんですか?」

「NGなんて呼び方が広まったのはNG殺人がきっかけだろ。だがどう考えてもこの日付だったらNG殺人が起きる前だ」

「いや、NGはもっと前からありましたよ。なんでNGって呼ばれてるのか分からない程度にはね。してはいけないからNG、それ以上の意味はない。あっても意味なんてみんな調べませんよ。NGを探られたら死ぬんですから」

「暗黙の了解の割には改めて釘を刺してんのはどういう理屈だろうな。NGを探らないのなんて今更だろ。むしろ自分のNGを言えなんて心臓を渡せっつってるようなもんだ。あ、脅迫っつうのはそういう事か?」

「いや、最初ですね。逆らったら生きていけないので逆らわないって……誓約書にしてはおかしいと思いませんか? そんなの自分のNGを会長に教えるだけでも成立します。というか暗にそう言ってるのが……そもそも暗黙の了解をわざわざ誓約という形で表に出すのも変です」

 NGはどんな人間にも通用する死の理論。条件は人それぞれでも、破ればその人間は死ぬ。生きていた痕跡さえ跡形もなくなってしまう。死体が無くなる以上は犯罪として取り締まる事も出来ないし、死体がないので科学的に殺人行為を立証する事も出来ない。法治国家にとって都合が悪いからNGは多くの人間が抱える物でありながら表向きには取り扱われない。こんなものを法案では制限出来る筈がないから。

「なあ、それだったら猶更変だな? NGって概念が私が知るより前からあったならこんな誓約書必要ねえと思うぜ。伝統は続くもんだ。行きつけのお店で『いつもの』って頼む感じだよ。こんな事わざわざ書くってのはまるで……こうでもしないと離反されるみてえに思っちまう」

「そもそも着服はいつから行われてたんでしょうね。町内会なんてそうは言っても法的に大した力のない団体ですよ。離反を恐れるなんてそれこそ自分が不法行為をしてる自覚がないと」

 毎年着服しているというのも変な話だ。会長はここ十数年で全く変わっていないし、代わっていたとしても懐に収めている人物が変わっているから慣例にはなり得ない。念の為に家中の物をひっくり返してみたが俺達の違和感は拭われなかった。

「なあ郷矢君。私はくわしかねえよ? だが『わざわざ強調しなければならないNGの存在』『汎用的に使うなら意味が被りそうなⅠとⅡ以降の文言』『逆らったら生きていけないという脅迫染みた書き方』。総合するに……」





「『逆らわせたらいけない』事が会長のNG……って言いたいんですよね?」





 鬼姫さんはばしっと俺の頭を掴むと乱暴に撫でた。

「そういう事だな! 意味が被ろうが、つまりはそんだけ逆らって欲しくないって言ってるように見えるぜ。逆らったら生きてられないってのは二重の意味だったんだ。NGは破った時点で死ぬからな。するってえと勘づかれないようにわざわざNGを探るなって書いたのかもしれないな。逆らうなってのは単なる高圧でNGが別にあるように見せかけたかったのかな」

 どうしてさり気ないように出来ないのかという件については比較的楽なNGを持つ者の傲慢だ。条件を破ったら死ぬのだぞ。待ったなしだ。死を身近に感じてしまうような条件ならどうしても意識せざるを得ない。俺が一人ぼっちになる事を避けるように、会長のNGが推理通りならどんな手段を使ってでも逆らわせたくなかった筈だ。

 NGを破らせたくないなら自分のNGを伝えればいいが、それは諸刃の剣になる。推理通りのNGならたとえ一言も喋らずともやりようはある。例えば拷問にかけて、痛いからやめろと言わせてしまうのだ。それを拒絶するだけで恐らくNGの条件は満たされる……俺が同じ立場でも教えない。

「そう考えると……告発は気が気じゃなかったとも考えられますね。逆らわれた判定になったら自分が死ぬんですから」

「この手の条件は具体性がないのがひでえよな! 私は同情しちまうよ……NGって奴はほんとゴミだな」

「いたいいたいいたいいたい! 鬼姫さん、頭撫でないで下さい! 俺はそんなガキじゃないつーか……頭撫でるの慣れてないでしょっ」

 女性の手は男性と比べたら柔らかいと言われても限度がある。力任せに撫でられるともうそれは撫でるというより擦過であり髪の毛が引き千切れそうだ。遥は喋れないが、俺と鬼姫さんのやり取りを下らなそうに見つめている。

「まあこんなのが分かったからなんだって話でもあるな。強いて言えば会長側に殺す理由しかなかったって事か。じゃあ会長がこの手で殺したのかっていうとそれも違うな?」

「そうですね。ついさっき見つけたメモとかも考えると、指示があって町内会ぐるみで殺されたと見るべきです。ただ気になるのは……わざわざ明衣を名指しで警戒してたのと、NG死を偽装した理由にはなってないって事なんですよね……」

 NGに見せかけるなんて、それ自体がもう挑発行為だ。ここまでの情報を総合すると会長は明衣に怯えている。なのに興味をひいたような真似をしたのは何故だ? 証拠もなく考えられるのは、NG偽装をしたのは別の人物という事だが……そんな隙間はあったのか?

「まあ、もういいだろ。生き残った一人には近づいてると信じたいが……ここにはこれ以上何もない筈だ。次だ次」

「鬼姫さん。これって会長を逮捕出来ると思いますか?」

「私らが見つけた証拠だけじゃ無理だな。だが会長様は明衣とやらに追い回されて証拠隠滅の暇もねえだろ。んな事よりてめえが気にすんのはどうやってあのガキを止めんのかじゃねえのか? 事故死に見せかけたつっても、実行犯は恐らく死んでやがるぞ。残った一人が実行犯の可能性もあるが、確率的には低いぜ」

「アイツは……NGに関与しようとする人物が居るってんで乗り気になったから、NG偽装をした奴さえ見つければ止まる……と思います。候補もまだ見つかってませんけど!」


























 明衣に殺された被害者を追っても、事件の真相に近づいている気配は全くしなかった。いや、もうそんな大層な事件じゃない。『逆らわせてはいけない』NGを持った会長が死を避ける為に告発を退けたのが真相だ。

 知りたいのは誰が明衣に関心を引かせたのか。会長側にとっても警察にとっても都合が悪く、俺達にとっても都合が悪い介入。一体誰がNGで死んだように見せかけた。何の為にそんな事をした。それだけが知りたい。

「…………ちっ。クソ」

「一歩遅かったか。そりゃあ残念だな」

 唯一の生き残り―――真相なんて幾らでも知っていそうな赤い服の男は変わり果てた姿で息絶えていた。それがNGによる死だとは疑いようもない。身体から生えた植物に栄養を吸い取られて真っ青に、背中から伸びた根っこがコンクリートを貫いて死体を磔にしている。

 死体が消えていないのは多くの目撃者が居るからだ。きっと警察が引き取るまでは無事に死体は残っていて、ふとした瞬間に消えてしまうだろう。

「こんな殺し方出来るのはアイツだけだ。会長は何処に……」


 ツンツン。


 遥が俺の肩を指で突っついたかと思うと、駅前に止まる大きな車を指さした。

「あ、あそこって……何で分かる?」

「…………」

「―――まあいい。どうせ当てなんかないんだ! 鬼姫さん! 行きますよ!」

「は? おい、何だよどうしたんだよ! 私にゃ何がなんだか分かんねえからな!?」

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