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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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謎を梱って知明衣轟く



「ふふ、まさか助手に呼びつけられるなんて思わなんだ」

「勘違いするなよ。お前に用事があるんじゃなくて、お前の情報が欲しいだけだ……お前の方は犯人が分かったりしてるのか?」

「んー。貴方はどっちに見える?」

「助手に隠すのか?」

「今は言えない、って奴だよ。探偵はみんなそうしてる。憶測だけで話すのもほら、それでノイズが混じったら推理を外すかもしれないし?」

 こいつにとっての推理を外すとはNGを当てられないという事だ。謎の矜持によって一度外したNGには関わらない約束を立てる明衣は、だからこそ慎重になる。脳みそが腐っているせいで見るからにちゃらんぽらんに見えるが油断しては駄目だ。鬼姫さんにはこいつがどう見えている。俺は騙されないが……甘く見ていたら、最悪だ。

 後ろの方が気になってしまうが振り向いたりはしない。明衣に存在を察知させるなんて、事実上こいつの殺人に手を貸すに等しい。地獄に堕ちる事が決まっていても俺にだってやりたくない事はある。

 明衣は俺に会えたことを喜ぶように首に抱き着いて、ニコニコ笑っている。悍ましい笑顔だ。胸を押し付けられる程度で本能として興奮する自分の身体が嫌いになる。こんな奴を異性として認識するなんて異常性癖め。

「んー…………乃絃。さっきまで誰かと一緒に居た?」

「何だと?」

「煙草の臭いがする。家族の誰も煙草を吸わないよね」

「俺が吸ったんだ。興味本位で……んっ?」

 言い切るか言い切らないかの内に明衣は俺を壁に押し倒すと、腰に足を絡めて舌を入れながら唇を交わした。突拍子の無い気持ち悪さに俺も舌を押し返そうと努力をしたがかえって絡まってしまった。口内から聞こえる粘液の音は、まるで怪物の様に自立して聞こえる。自分が自分でないかのよう……口を凌辱されたような不快感はとても言葉には出来ない。

「うーん。煙草の味がしない。嘘は駄目だよ乃絃君。だって嘘って一度バレたらどうして嘘を吐くのかって所までバレちゃうから。私に会わせたくないの?」

 これ以上の言い訳に意味はない。直前に嘘がバレた奴の発言を直後に信じられるかという話だ。

「……犯人に繋がる情報を得たんだ。その人が煙草を吸ってたから多分臭いが映った。お前に話したくないのは犯人が分かってた時に無駄足だからだ! 分かったか!」

「確かに! パズルのピースは揃ってるのに今更同じパズルのピースを持ってこられても困るもんね! でも大丈夫、探偵は超能力者じゃないよ。だから犯人はまだ分かってない。それで、誰にどんな情報を聞いたの?」

「誰に、は重要か?」

「町の誰がグルか分からないんだよ? 嘘の情報かもしれないじゃん。私は騙せないから助手を通じてって。誰?」

 その怪訝な表情は楽しそうで、しかし笑ってはいない。泥のように濁った瞳は悪意など一切なく、ただそこには疑問しかないように振舞っている。

「…………殺さないって約束出来るか?」

「えー私は誰も殺さないよ。探偵には死神が付き物だから、死ぬ所には立ち会うけどね」

「―――分かってたけど、マジでその設定で貫くんだな」

「設定って何? 探偵が人を殺しちゃったら話がおかしいじゃん」

 そのクスクス笑いは余裕か嘲笑か。鬼姫さんを裏切るつもりはない。俺も精々利用するつもりだ。今回に限ってはあの人の協力がないと明衣より先に犯人を抑えられるとは思わない。

「後で説明するんだが、別の事件と繋がってそうなんだ。それを調べてる人と話した。怪しい人じゃない。だってこの町の人間じゃないみたいだからな」

「根拠として弱いなあ。口だけなら何とでも言えるよ。町の出身じゃないって絶対に言えるのは私と君と、君の家族だけでしょ。家族じゃないなら可能性はあるよ」

「悪魔の証明をさせる気か? そんな事言い出したらお前、誰も信じられないぞ」

「最初にそう言ったよね。誰が敵か分からないからって」

「目撃証言なんかも信じられないってのはおかしい。じゃ、まあ仮にそうだったとしてもだ。嘘は嘘なりに情報として役に立つだろ。まずは話を聞けよクソ探偵。遂に人から話を聞く事も出来なくなったなら今すぐ耳を削いでやろうか」

 鬼姫さんについては絶対に明かしたくない。煙に巻くような理屈でも話がズレているでも何でも言えばいい。俺は情報を引き出したいだけだ。明衣は少し考えるように空を見上げた後、ウィンクをして頷いた。

「じゃあ、どうぞ?」

「会長が町内会費を着服してる疑惑……いや、告発文があった。これをみろ、町内会の幹部達だ。若い奴らはお前が死体を目撃した時、一緒に居たメンバーで間違いないよな。聞きこんだ奴の顔なら俺も忘れない」

「うんうん。それで?」

 写真を渡して、見覚えのない顔に指をあてる。

「死体の目撃者はお前だけだ。お前の理屈で言わせるなら、信じられるのはお前だけ……死体は、こいつだったか?」

「うん、間違いないよ。この人だったね。そっか、同じ町内会の立場ある人で、それがたまたま偶然あの場に…………へえ」

「ああ、偶然じゃないよな。俺もそう思ってる。ただ死体について確定しなかったからお前に聞こうと思った。これ、犯人に繋がる情報だと思わないか? 死体が会長を告発しようとした奴って事は、会長が犯人について知っている筈だ」

「筋は通っているね! 流石私の助手、ここまで一人でかき集めるなんて凄いぞ! 私に頼る判断も正解。会長さんが何処にいるか見当がついてきた所なの」

「何? それはまたどうし………………」



 明衣はスカートの裾を摘むと、埃でも落とすようにばっさばっさと振り始める。



 するとどうだ。スカートの中から人間の目やら腕やら足やら、虫食いになった部位が次々と現れる。全身の皮だけが無造作に積もったり、逆に骨だけを抜き取られた、漫画のように綺麗な白骨が落ちてきたり。

「ばあっ 驚いた?」

「………………おま、これは」

「みーんなNGで死んじゃった。私、これでも回覧板はきちんと読むんだ。町でやってるボランティアにも参加してるし、こんな写真がなくても覚えてる人は覚えてるの。町の事を知ってるって言ったらこの人達だからさっきまで順に回ってた所。怪しかったならNGで死ぬのも仕方なかったんだね」

「お前は……疑わしきは罰せずって言葉を知らないんだな。いや、知ってたけどな。探偵なんて嘘だ。この殺人鬼め」

「行動の一貫性は何より信用に求められる。私が貴方を信じる様に、貴方も私を信じてる。疑ってないでしょ?」

「―――!」

 おちょくられていて黙っていられる様な男でもない。ためらいなく振り抜いた拳は、到達する前に明衣によって掴まれて止められる。その後も感情任せにラッシュを繰り出すが、心でも読まれているみたいに的確なブロッキングはついぞ崩れる事はなかった。

「もう、血の気が多いなあ助手は。そんなに暴れたいなら今から一緒に会長さんを探してみる? トラブルが起きたら頼ってみたいな」

「……断る。俺はな、人狼のローラー作戦みたいな事を現実でやる程頭がイカれてないんだ。ちゃんと証拠を集めてきっちり犯人を見つける。お前、殺してない奴を挙げろ。そいつを見つけてやる」

「お、乃絃君。随分やる気なんだ。ふふ、探偵としてそのやる気は嬉しいなあ。分かった、誰が何処で死んだかまで教えてあげるね!」


 明衣は無邪気に、笑っている。



 無邪気に。



 何とも思ってない。何人殺しても、その気持ちは変わらない。




















「生存者一人って、そりゃもう消去法でコイツが犯人だろ」

 明衣との駆け引きに冷や汗の止まらなくなった俺を労いつつ、鬼姫さんは呆れた様な声を上げた。

「マジいかれてんなアイツ。顔は笑ってても全く楽しそうじゃないのが伝わってくる。きもちわりい」

「…………でしょ!?」

「股の緩い女をビッチって呼ぶ事はあるが、真の性悪女(ビッチ)ってのはああいう女の事を云うかもしれねえ…………そうだな。お前にインチキマジック見せてる時だけは楽しそうだったな。驚いてくれて嬉しかったんじゃねえか?」


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