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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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明衣宮入り推理

「おい、俺の財布知らね?」

「いやあ…………?」

「お、謎か? 出番だぞ名探偵。クラスメイトが困ってるなら助けるべきじゃないか?」

「んー? 確かに財布は大切だよねどれどれ……」

 財布は俺が盗んだ。勿論お金は明衣のグラビアで事足りているのでそういう目的じゃない。その証拠に中身は予めバッグに変換してある。ただ財布だけを隠したのだ。およそ人として正しい事とは言えないがこれも明衣の推理を遅らせる為。

 名探偵がもっと困るのは、複雑なトリックなんかじゃない。突拍子もなく行われる極限まで単純化された犯行だ。意図があって悪意があるからその道筋を悟られる。特にこいつは悪意の名探偵、誰かを傷つけようとする悪意においてこいつの右に出る者はいない。劇場型犯罪というとまた大きく意味は違ってくるが、自分が名探偵役で周りは全員引き立て役という考え方なら既にここは明衣劇場の中とも言える。

 俺がクラスメイトをターゲットにした事に理由はない。強いて言えば近かったからだ。通り魔的犯行は名探偵にとって天敵。何せそこには意味がない。悪意がない。用意周到さなど微塵もないから科学捜査には惨敗を喫するだろうが彼女は飽くまで推理をもとに証拠を探す。この事件で犯人として搾り上げられそうならその前に財布を返せば取り締まる意味もない。

 そしてそんな事をしているなら必然的に時間稼ぎは成功した事になる。これを日々繰り返している内に鬼姫さんと協力して犯人を特定すれば余計な被害は出ない。れっきとした殺人事件であると判明した今なら裁きをこいつに委ねる必要はなく、本来の警察の機能に期待しよう。

「お金が全部抜き出されてる。財布目的の犯行に見えるけど、それはちょっと不自然だね。地代君の財布は高級品でも限定品でもないでしょ。黒い革の普通の財布だ」

「お、おう。何で覚えてるんだよ……」

「探偵はいつ如何なる情報も見逃さないんだよ。だって推理で使うかもしれないし。で、財布は普通なんだから奪う理由がない。どうしても財布が欲しいならお金を抜き取ってそのお金で買えばいいもんね。それで、本当に一円も取られてないんだ」

「ああ。俺、五十円以下は全部募金に突っ込んじゃうって言うか。物臭だから管理が面倒だなって思ってて」

「そっか。じゃあ財布を盗んだ目的は……助手は何だと思う?」

「……まあ振ったのは俺だしな。考えられる事は幾つかある。これ自体が狂言という可能性。説明しなくても分かるよな。嘘を吐けば幾らでも難解事件なんて作れるんだ」

「おい、俺が嘘吐く訳ないだろ!」

「まあ最後まで聞けよ。状況から見た可能性の話だからさ。次に陽動の可能性。これを小さな事件としてお前の目を引きつけるデコイにしてるんだ。実は裏でもっと大きな事をやろうとしていて、そこで自称探偵のお前が邪魔だからこんな事をする」

「ふむふむ。筋は通ってるね」

 助手は推理の手助けをしないといけないが、俺の場合は誘導する。今まで自分勝手なこいつに振り回されて不甲斐なかったが今こそ助手の立場を悪用する時だ。何とでも言え。どうせ俺は犯罪者だ。明衣の被害を増やさない為なら財布を隠すくらい何度だってやってやる。

「面白いのは勿論陽動の方だけど、現実味があるのは狂言の方かな。ふーん……」

 明衣の視線が教室中に行き渡る。もしもこいつが品行方正な人物であるならば、気を引く為という動機が使えたのだが、残念ながら美少女であっても内面は排泄物に劣る。そんな動機はあり得ない。気を引いたら死ぬ事まで分かっていた気を引く奴が居るならそいつに嫁に出そう。それで解決。

「おい。まさか目を見れば誰がやったか分かるなんて言い出さないよな。自称探偵ならせめて証拠か推理の一つでも言えよ」

「推理って言う程でもないけど。彼と関係がある人物がそんな事する理由はあるのかなって思ったの。こういう時って関係ありそうなら地代君は関係者を当たりそうじゃない? 例えばそこにいる鈴木ちゃんと喧嘩してたら問い詰めるか決めつけて何かするのか。何にせよ誰か財布を知らないかどうかなんて曖昧な質問をするとは思えないよね」

「犯人は外部って事か?」

「外部なら他にも被害が出そう。うーん……」

 こんな事件の真相なんてどうでもいい。存分に悩んでくれ。そうしてくれればくれる程効果的だ。もし俺が犯人だとバレたならまあ……特に何もしていないが、財布を失った不安に対する慰謝料くらいは払おうと思う。

 だから今はとにかく役に立って欲しい。

「状況を整理しよっか。今は昼休み、財布がない事に気づいたのはこの瞬間だから、奪えたとすれば四時限目が終わった直後、もしくは三時限目終了後の休み時間。移動教室は無かったから時間が足りなさすぎる。って事は犯人はこのクラスの中の誰かだね。ねえ助手、貴方はそんな食い気味に人を助けるような人じゃないよね。どうして今回に限ってこんな真似したの?」

 む。

 流石に鋭いか。付き合いが長いだけはある。怪しまれないように時間をかける手も考えたがそれだと今度は彼女を引きずり出す方法を考えないといけなくなる。脈絡のない面倒見の良さを怪しまれるのは織り込み済みだ。

「何故って、簡単な話だ。俺とお前以外に味方を増やした方が良いと思った。少なくとも敵じゃない奴……恩を売るのは絞り込む上でも悪くないと思うんだがな」

「人を裏切らせないなら情より罰だよ。この程度の事で味方になるとは思えないね」

 地代は俺たちの会話の意味など分からないだろう。分からなくてもいい。分かっているならそれはもう助けられない。俺達は異常者でいいのだ。理解出来ない二人きりの世界で妄想を繰り広げているとでも思ってくれたら、嬉しい。

「ふむ……ここまで繋がりがないと衝動的な犯行とも言いたいけど、少し違うかな。犯行自体は計画的で人物がどうでも良かったとかかな。これは考えても無駄だね」

「…………何?」

「考えても無駄って言ってるの。これは多分陽動だね」

「狂言の方は」

「嘘を吐く意味がないよ。助手にはさっき言った通り、情より罰。分かるでしょ?」

 情より罰。明衣には地代を殺す力があるという意味だ。つまり彼女は彼のNGを既に把握している。もしも嘘を吐こうものなら躊躇なくそれを行える精神が名探偵にはあるのだ。

「……イカレ野郎。まともに推理もしない奴が名探偵名乗んなよ」

「ちゃんと推理したじゃーん。名探偵様は陽動なんかに付き合わないの。私を付き合わせたいならもっと大きな事件が欲しいね」

 ニタニタ笑うその顔は、まるで真相を分かっている様にも見える。それは俺が犯人だから? それともこの世で一番嫌いな女の知性を信じているから? しかし、大きな事件か…………確かにここまで小賢しいとお高くとまる名探偵さんには興味も示されないか。


 ―――はあ。


 己を明衣のような外道と知りながら、それでも善人である振る舞いは続けようとしたのに。どうにも今度ばかりはそんな理性を捨て去らなければいけない様だ。

















「こ、こ、こんな事していいんです……か……?」

「みんなを助ける為だ。これも仕方ない」

 などという思想はテロリストに近いので、皆は真似しない様に。





 俺は旧校舎の一室に火を放った。


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