秘密を隠すなら社会の中
繁忙期につき、更新が遅れておりました。
「まさかこんな事になるなんてな……」
NGによる死に見せかけた殺人。これは本当に大事だ。普通に警察へ知らせるべき案件だが、ここにきて問題が浮上した。それは警察がこれをNGによる物と思った上で明衣が関与していると思い込んだ事だ。もう散々言ってきた事だがアイツが関わった途端に警察組織は無能になる。思想や立場によって無能無能と叫ばれる治安維持組織が真の無能になる瞬間だ。現行犯でも何でもとにかく明衣だけは例外と見逃し続ける税金泥棒が、そう思ったからには動くにしても中々重い腰を上げられない筈。
「…………なんか、妙です。この程度の偽装工作にアイツが引っかかるとは思えない。アイツなら気づいてたんじゃ……」
「私に聞かれてもだが、そりゃあお前、買い被りすぎなんじゃないのか? すげえ事した学生だとは思うがな、学生は学生だぞ」
「鬼姫さんはアイツを知らないからそんな事言えるんですよ。アイツがこんなミスするなんて絶対にあり得ない! 何か思惑があったんだ、俺は踊らされてただけで……」
「…………ま、当事者じゃないから理解は出来ねえよな。さあて、そうと分かればいよいよきな臭い。誰が何の為にやったのかを考えなきゃいけねえな」
明衣がこれをNGではないと知っててNGで死んだという事にした理由。それは何だ? 嘘を吐かないという建前の大嘘吐きなのは今に始まった事ではないにしても理由もなく嘘を吐く奴じゃない。嘘を吐きたい理由があった、嘘を吐かないといけない相手が居た。それは誰だ?
明衣に友達なんかいない。肉体関係だけ持ちたい奴は居るかもしれないがそういう奴も俺が追い払っている。これを独占欲とか抜かすクソバカアホも大勢いるが、明衣に関わった奴は死ぬ程不幸になる。碌な目に遭わないから、その被害を俺で食い止めているだけだ。これはもう、何度でも言う。何度でも言わなきゃわからない奴がいる。言っても分からない奴も居るがそんな奴は知らない。
「これからどうしましょうかね……」
「私は警察の動きをちょっと探ってみる。明衣って奴の影響力を私は知らないからな。人間、痛い目を見なきゃ理解出来ないもんさ。ここで君の発言を信じると言い出すのは簡単だが、身体が納得しない。二度手間でも自分で確認してみるよ」
「俺は…………明衣から話を聞かないと何も分からなそうなので、不本意だけどアイツに協力します」
「…………なあ郷矢君。こうして二度会えたのも何かの縁だ。お互い最低限は信用できる状態を築かないか? お前はその経緯を信じるにどうやっても他人を信じ切るというのは難しそうだ。だからお互い、絶対に信じられる方法で繋がろうじゃないか」
「それは?」
「お互いのNGを明かすんだよ。分かるだろ?」
果たして本当にその方法は予想出来たのか。聞いてみれば簡単というかそれしかない。NGの共有は命のやり取りだ。お互いに心臓を握っているに等しい契約状態。そういう間柄になれるのなら確かに最低限信用は出来る―――というか信用せざるを得ない。NGを明かした時点で信じないは無いのだ。
「言いたい事は分かりますけど、お互いの為にもそれはやめておいた方が」
「いーや、悪いが私はもう決めた。郷矢君よお、何か勘違いしてねえか? 私はこれを取引と言ったつもりはねえよ。これは警告、もしくは強制だ」
「は…………は?」
言っている意味が分からない。まさかこの人は俺のNGに気づいたとでも言うつもりか。それはあり得ない。NGを守ってここまで生き延びられるだけは会って、俺は人間社会から追放されない限りまず踏む事のない条件だ。行動を共にしているなら猶更気づく筈もなく、俺が単独行動を取った時点で死んでいるからやはり誰とも一緒に居なかった瞬間など目撃されない。
「てめえの妹はどうしててめえとしか喋りたがらないんだって言ったら……どうする?」
「…………っ」
「喋れないって聞いたんだが……そりゃ人見知りって感じじゃ無さそうだな。上からずっと見てたが、普通に話せてた。私にはどうもそれがNGに見えたんだが……郷矢君が違うって言うならいいさ。直接話しかければ済む事だ」
「ちょ―――待って! 待って、待てって! やめろ! 手を出すな遥に!」
年上だとか女性だとか。そんな事は関係なしに、口調が荒くなっていた。その反応こそ図星だろうという意見も分かるが、確かめられたらどうしようもない。明衣と同じだ。違うなら確かめさせてくれても問題ないよね? というスタンスはNGの禁忌を平気で踏み越える。
「……ってえ事は、成立か?」
「ま、待てよ。これじゃ俺が一方的に知られてるだけだ。そっちのNGを教えろって……フェアじゃない!」
「NGか…………そうだな。煙草関連とだけ言っておくぜ。煙草吸わなきゃ生きていけない身体って事だよ。酷い条件だろ? だけど恩恵もあるんだぜ。幾ら吸っても身体が腐らねえのさ。肺は綺麗なままだしニコチン中毒にもなったりしねえ。あ、でも吸わなきゃいけない時点で中毒よかひでえな! はっははは!」
―――何だ、この人。
自分のNGを教える事に何の躊躇もない。煙草を取り上げるなんてその気になれば簡単だろうに、そうならない自信があるみたいだ。それともこれが、信頼の証? 殆ど強引に手を繋がされたような物だが、気軽に遥を殺せなくするリスクとでも言いたいのだろうか。
確かなのは、鬼姫さんもまた危険人物という事だ。しかし明衣と違って話は通じるし、様子はおかしいが悪人ではない。成り行き上仕方なく、不本意、と色々枕詞はつけたくなるが、ともあれ協力関係になってしまった。
「あー笑った笑った。じゃあ今夜はこの辺りで帰るぜ。お前は妹の所へ戻ったらいい」
「鬼姫さん。貴方、何か隠し持ってませんか?」
「おー。察しがいいなー。何を持ってるかは、使う時が来てからのお楽しみだ。私は秘密主義なんでな」
「兄!」
「遥! ちょっとお前に話したい事がある! け、結構不味い事になった! あのな―――」
「それどころじゃないっ。明衣さんが放火してる」
…………はっ?
ほうか。
放課。
放火!?
「な、何で?」
「分かんない。さっき松明抱えて歩いてる明衣さんが居た。四軒目くらいで、消防車にも通報したけど……」
「―――さっぱり状況が掴めないけど、アイツがそんな簡単に捕まりそうな犯罪する訳がない! 状況を確かめに行くか!」
燃えている現場に赴けばその内本人と鉢合わせするだろう……そう思ったが、実際は運試しすら必要なかった。
『もーえろよもえろーよー。いかりよもーえーろー。ひーみつをまきあーげー、てーんまでこがせー』
拡声器で自身の声を垂れ流しながらほっつき歩いているのだから。
「何してんだ明衣てめえ!」
我慢ならない状況に俺も負けじと声を張り上げる。建物の燃える音と拡声器、それに集まる野次馬の喧騒が全てをかき消していたが俺の耳にはアイツの声以外の一切が届いていなかった。手に取るようにその位置が分かる。
「明衣! てめええええええええええ!」
「あ、助手。こんばんは!」
挨拶の代わりに渾身の右ストレート。彼女はひらりと身をかわすと勢いを受け止めるように身体を抱きしめてハグに持ち込んできた。
「どうかした?」
「なんで火つけてやがるこの犯罪者が! 今通報してやるからな! てめえのぬくぬく人生もこれまでだ!」
「…………? 私が火をつけた? どうしてそんな事しないといけないの? 消防呼んだの私なのに」
「自作自演かこの野郎! とことん腐ってやがるなお前みたいな邪悪は死んだ方がましなんだよおい! 一回焼かれるか? どっか適当な家に放り込んでやるよ!」
「落ち着いてよ助手。もしかしてこの松明を見てそう思ったの? 探偵の助手としては軽率な推理だなあ。私はこれを犯人から取り上げただけ。放火してたのは別の人だよ。もうNGで死んじゃったかもだけど」
「はあ!? じゃあてめえ何で拡声器でふざけてやがる! これなんだよこれ! 言ってみろお!」
「この町のどれだけの割合が繋がってるのか確かめたくて、ちょっと反応を見てるんだよね。ほら、町ぐるみで死体の隠蔽とかされたら流石の私も分からないからさ」
暫く更新を早める様に意識します。




