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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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百鬼夜行の調

 明衣の悪口を他人に聞かせて、その感想が『萌える』なんて初めて言われた。

 もしかしなくても鬼姫さんもまともとは言い難い女性なのかとも思ったが、そもそも考えてみたら出会いが深夜の公園だ。まともを期待するには不審者が過ぎる。

「……それはともかく、話は大体分かった。君には妙な友達がいるんだな。NGに特別関心を持った子か……少し疑問なんだが、そいつは一緒じゃないのかよ?」

「普通は一緒ですけど、今回はなんか、他に用事があるらしいんで解放されてます。アイツを一人で野放しにするのも怖いけど、だからってそれを調べようとするのも怖いなって……元々NG殺人に興味を持たせたのは俺のうっかりミス、いやそもそも鬼姫さんが余計な事言ったのが悪いんですけど」

「急に人のせいだな。郷矢君、私に対しては妙に当たりが雑になるな。気を遣わなくて済むのはこちらとしても助かるが……」

「とにかく興味を持たせちゃったせいで大変なので、出来れば先に解決してしまおうっていう。それに、本当にNGで死んだかどうかも気になりますし。アイツはNGで死んだって言ってたけど、それにしてはどうも状況がおかしいっていうか」

「というと?」

「NGで死んだ人間の死体は目を離すと消えます。原理はともかくこれは絶対ですね」

「例外がないってどうして言い切れる? まるで大量に見た事がある言い草じゃないか」

「……あるから言ってるんですよ」

「何だと?」



「俺は明衣に目の前でクラスメイトをNGで皆殺しにされて、引っ越した経緯があります」



 そこまで言うのは、と遥が袖を掴んでそれとなく制止してくるが、ここまで話したらもう何処まで話そうが一緒だ。むしろ俺がどれくらいアイツを憎んでいるか分かってもらった方がいい。仮に話しても俺のNGが特定される訳でもないし、明衣のNGについて判明する訳でもない。事態の凄惨さに目を瞑れば、なんてことのないエピソードだ。

 鬼姫さんは気まずそうに俯いて、煙草を吸う動作だけを行った。

「……悪かったな、続けてくれ」

「明衣は言い方からして最初の目撃者じゃない……まあ仮にアイツが最初の目撃者だったとするなら犯人も目撃する筈なので。こうはなってない。みんなに死体を見せつける趣味もないですしね。死体が少し目を離した隙に消えたならNGで死んだと断言してもいいですけど、アイツはよりにもよって途中で帰った。だからここにあった死体がNGによって殺されていたのかそれとも誰かにただ殺されたのかが分からないんです」

「事故という可能性は考えないんだな」

「……事故ならアイツが興味を持つ筈がないですね」

 それに性根は腐っていても頭は回る。名探偵を自称するくらいの観察眼は持っている女だ。それが事故だと分かったならわざわざ俺に対して調査を持ち掛けてこないだろう。もう何年も助手をやっているから、これくらいは分かる。

「―――嫌っているのに誰よりも理解度が高いと来たか。また難儀な関係性だな。進捗はどうだ? 私が水を差したのが悪かったか?」

「えっと……俺は鍵を見つけて、妹がそこの隙間にガラス片が入ってるのを見つけました。ただ、手が入らなくて。近くで硝子ッぽいのと言ったらその酒瓶しかないからその破片かなって思うんですけど」

「……成程。死因は撲殺だったのか?」

「いや、死因は聞いてないって言うか話してなくて……NGで死ぬ時って大抵あり得ない死因になるからまともな死因だったらそれはNG死じゃないんですよね」

「本当に詳しいな君は。先輩風を吹かせてみたがこりゃ期待出来そうもないな。NG殺人についても君に聞いたらすぐわかりそうだ」

「……そうだ! そうそう、それを聞きたかったんです。元はと言えばそれをアイツに問い質したせいでおかしくなったんですから。NG殺人って何ですか? 学生が被害者ってのは聞きましたけど」

 鬼姫さんは俺の肩に手を置くと、持っていた鍵を強奪。

「この鍵には心当たりがあるんだ。確認がてら話してやるよ。ついてきな」

「……遥、待ってるんだぞ」

 喋れない妹をこの場に残して、鬼姫さんの背中についていく。去り際、妹が手話で忠告をしてきた。



『その人、服に何か隠し持ってる。注意して』



 ―――何かって、何だよ。

 真意は遥のみぞ知る。

「何処から話すかな。まずはざっくり概要だけ言うか。NG殺人ってのは―――」
























 NG殺人。

 それは正体不明の殺人鬼による連続殺人事件。一人なのか複数人なのかも、男か女かも分からないこの事件は当たり前の様に警察によってもみ消され、報道も隠蔽されている。噂にはNG殺人について広めようとする存在が狙われるようになるらしく、事件当初は特ダネと囃し立てていたメディアがある日を境にだんまりを貫いているのはこれが原因だとか。

 ただ一つ明らかなのはNG殺人のターゲット層であり、基本的には無差別なのだが一度定まった層から数えて十人殺すまで切り替わらないとされている。だから今は学生ばっかりという文脈だ。

「まずその初期の騒動を知らないんですけど」

「当初はNG殺人って名前もついてないし、そもそもNGで死んだとは報道されないからな。君が知っているとは思わねえさ。何で警察も隠蔽するかは分かるな?」

 NGによって生まれた死体は目を離すと消えていく。

 じゃあ目を離さなければいいのかと言われたらそれを徹底するのは中々難しい。瞬きも、一瞬の寝落ちも許されない。明衣が俺のクラスメイトを殺した時も、グラウンドの監視カメラが全てを証明してくれる筈だったが全滅するまで映像が乱れて使い物にならなくなっていた。

 そして一度死体が消えると、当たり前だが事件としてはどうにもならない。死体がないのにどうやって殺人事件を立件する? 厳密に消えているのは死体というより一切の生体情報だ。だから突然、指紋や足跡が消えたりもする。

 これじゃ捜査どころじゃない。それでも明衣が一度連行されたのは俺が中心に居たのと死体の数が多すぎて現場では事件を認識出来たからだ。あの頃はこんな性質なんて知らなかったから俺は保護されて、保護されている内に死体が消えて。連行中もしくはその後に何かが起きて明衣は帰って来た。以来警察は明衣が関与していると知ると知らぬ存ぜぬを貫こうとする。

「科学的に証拠が消滅したりしてまともな捜査が出来ないからですね」

「そうだ。NGは生命の禁忌……大切な人以外には絶対に教えちゃならない急所だ。その急所が世間に混乱を巻き起こしてると分かったら、無関係の市民の生活にも影響が出るだろ。そもそもNG殺人は死体こそ確保できないが異様な殺され方の通報ばかり入ってくるからそう呼ばれてるっていう奇妙な状態で…………ざっくりした話、色々面倒だから手を出さないのが実情だ」

「鬼姫さんは警察なんですか?」

「いいや、私ぁフリーの……何でも屋? 警察情報は知り合いにサツが居てその情報が横流しされただけだ」

「それ、まずくないですか?」

「まずいも何も、そいつは恐らくNGで死んだよ。ある日を境に行方不明だ。この町には確実に犯人が居て、何か目的があるんだと思ってるが、それが分かったら苦労はしねえな」

 

 ―――概要を聞いたら、また疑問が浮かんだ。


 あの明衣が、この事件について知らない筈がない。

 アイツは商店街で死体が見つかったという話の時も聞き込み調査の際平気で騙しにかかった。だから嘘を吐く事自体は何でもないが、知っていて知らないフリをした理由は? それで俺を追いつめた? 何で? 

「さあて、私の話はこんな所だ。鍵を使う前に話せて良かったな」

「ここは……貸しロッカーですか?」

 駅まで歩かされたと思ったらここのロッカーの鍵だと鬼姫さんは言う。そんなわけない。番号のタグもついてないし、大体商店街と駅の間は結構な距離だ。別に持ち歩く事はあるだろうが、それを何故捨てる? 隠し続けたいなら悪手だ。時間が過ぎればその内回収されるのだからいつか中身は晒される。

「ここの鍵なんて事ある訳ないと思うんですけど」

「や、物は試しだ。それにここのロッカーはそこまで利用率も高くない。都心でもないのに見栄張っちゃうからだろうな。だから……鍵が最初から刺さってない場所……ほうら、あった」

 しかも、鍵穴はきちんと対応している。見てここの鍵だと分かったという事は鬼姫さんも利用しているのだろうか。というか利用していないと利用率なんて気にもならないか。

「さ、何が出るかな…………おっと」

「…………これは」

 コインロッカーに入っていたのはビニール袋で囲われた酒瓶だ。底の部分が割れており、破片には血痕が付着している。


 NGが死因……じゃない!


「…………めんどくせー事になったなこりゃ」

 その意見に賛成だ。

 NGが死因じゃないと分かったのは良かったが。

 そう見せかけようとした事が問題で、事実警察も騙された。




 そいつは明衣と同様に、NGを積極的に悪用していやがる。

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