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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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明衣肌鏤骨の事件簿

 学校は何も変わらない。

 先生がNGで死のうが昏睡状態から二人が回復しようが何も変わらない。『ぼっとん花子』によって眠らされていた二人は夢の中でいつまでも首を捜索していたらしく、目覚めた時には夢の中での状態と現実の状態が一致せず、病院に暫く入院する事になった。人づてに聞いた話だと夢の中ではいつまでも追いかけ回されて栄養失調に陥り碌に動けなくなったのを、夢特有の都合の良さで無理に動き続けた結果あちこち身体をぶつけて骨折。だから夢の中では両手足がまともに使えなくなっており、特にそこがギャップで大変な事になっていたと聞く。

 そんなのはいつもの事だ。明衣が関わると決まって碌な事にならない。誰も幸せにならない存在がこいつという女だ。明衣について写真だけと言わず直接手に入れようという愚か者は考えを改めた方が良い。NGによる死は触れられないにしろ、全校集会でどんなイカレ行動をしたかは記憶に新しいだろう。


 ―――どんだけ言っても、減る事はないんだがな。


 白一色の髪なんて珍しいけれど―――否、珍しいからこそ、優れた容姿も映えるというものだ。明衣の写真さえあればグラビアの写真集なんて要らないという奴もいる。水着姿を提供した覚えはないが、他の人間にはアイツがそれだけ魅力的に映るようだ。

「で、NG殺人って何?」

「そういう話を聞いたんだよ。詳しい話は知らない。ただ分かるだろ。NGは誰も触れようとしない。お前がやったんだって早合点しただけだ」

「うんうん。言いたい事は分かるよ。名探偵は一人だけだもんね。だけどさ、おかしいよね。NGは確かに誰も触れないよ。でも詳細不明でも乃絃君が私を疑ったって事は私以外に誰かが触れたって事だよね」

「あ…………」

「それは誰なの? 君もおかしいと思ったならその人の名前くらい聞いてるんじゃないの?」

 無関係な人を巻き込みたくなくて単なる与太話という結論に着地させようとした。ところがNGは誰にも触れたがらない絶対の禁忌である為に触れる事自体がおかしいので、結果として墓穴を掘ってしまった。早合点した俺が全部悪いが……どうしよう。鬼姫さんの事は言いたくない。

 だって、興味を持つに決まってる。話の流れで分かるだろう。

「あー…………何だったかな。夜に一人で歩いてる時に……聞いたんだよな。商店街の方だったかな。煙草吸ったおっさんだか何だか……誰が言ってたかまでは分からないな」

「ふーん。夜に、商店街。一人で」

「……何だよ。助手だって名探偵が仕事ないならフリーになるだろ。一人になる事がそんなにおかしいか?」

「そりゃ珍しいよね。乃絃君はいつも私の傍に居てくれるから。へー。一人で、夜に」


 ―――こいつ、やっぱ気づいてるんじゃないか?


 一人で出歩くこと自体は不自然な事ではない。それがNGとして設定されているのでなければ疑う様な状態でもない。警察がアリバイを聞いているのとは訳が違う。まず容疑者も居なければ被害者も居ない。ならば一人で居る事には何の問題もない。

 俺のNGがそれを禁じていなければの話。

 そして明衣が俺のNGを知っているなら、この嘘は嘘と呼ぶのもおこがましい出鱈目だと分かる。それならこの反応も納得だが……?

「じゃあ今夜探してみようか。その噂してる人。噂って言うくらいだから少し歩き回れば見つかるよね」

「待て。揚げ足取りにも程がある。探偵様はいつから推理じゃなくて重箱の隅をつつくようになったんだ? 俺はたまたま耳にしたから噂と言ったまでだ。実際噂になってるかどうかはお前も分かるだろ。NGについては誰も触れたがらない。何故かな」

「あ、それもそうだね~。じゃあその話をした人を探さなきゃ。今夜調査に行くよ乃絃君。長丁場も覚悟して、ちゃんとお昼寝してくるといいよ」

「見ず知らずの人間を探すなんて難しいと思うけどな」

「見ず知らずなんてとんでもない! だって私も昨日の夜。商店街の近くに居たんだよ」

「えっ」

「乃絃君とはそういえば出会わなかったね。あーあ、夜の逢瀬みたいでロマンチックだったのに」

 こいつは不自然にニコニコしている癖におかしな所で無表情になるからいまいち真偽が分からない。が、今のでハッキリしたと思う。仲良く話しているようで、やっぱり駆け引きが生じている。俺が本当に一人でそこに居たなら当然察知している筈では? と反応を見ているのだ。

 こと明衣の所在となると敏感になる性質まで把握されている。

「……そうか」

 明衣は自分で嘘が嫌いと言っているくせに平気で嘘を吐くので、実際商店街に居たかどうかわからないのも厄介だ。例えばこれが嘘なら俺は突っ込まないといけない。それが本当に居たという証明になる。だが実際は公園に居たのでそれが出来ない。

 回避する方法はたまたま偶然お互い出会わなかったという幸運を捏造する事くらいだが……それも一時しのぎだ。

「お前はどうしてそっちに居たんだ?」

「ええ、だってあんな事があったら見に行くよね。居たなら分かるでしょ?」

 ほら、駆け引きが続くだけだ。そして何があったかを言わない辺り、やはりこいつは俺の言葉を信じていない。試している。当然、商店街には居なかったのでイエスかノーかも運だ。実際に居たなら分かっただろうが、本当に居たならまずこの問答自体発生していないような。

「…………いや、そんなの知らないな。そもそもお前、何で俺があそこに居たか知らないだろ」

「うん。でも用事なんてないよね。シャッター閉まってるし」

「決めつけんな。妹がふらふらと夜に出歩いたっきり戻ってこなくなったから探してたんだよ。時間なんて覚えちゃいない。寝る時にたまたま気づいたんだからな。最終的に妹は公園で一人遊んでたよ。だから商店街で何があったかなんて知らない。何があったんだ?」

「んーと―――」


 

「おいお前等。いつもは注意しねえんだがせめて聞く姿勢だけは見せてくれ。俺の授業のやる気が出ん」



 言い忘れていたが授業中だった。明衣があんまりにも平然とした態度で聞いてくるから俺もつい熱くなった。担任はコイツのイカレ具合を知っているから普段は干渉したがらないのだが、教師も仕事だ。ここまであからさまに無視されると対応するしかないのだろう。

「あー……残念。休み時間に続き話そっか」

「…………」

 御覧の通り品行方正でも何でもないのに、どうしてこいつがモテるのかは不思議だ。顔だけが全てなんてそんな事は言いたくない。同級生だけが相変わらずドン引きしているのが救いだ。

「…………続きは昼休みで頼む」

 明衣に堂々と嘘を吐いた手前、一人になっても動けるという事を証明しておかないとかなりまずい状況だ。アイツを連れにするのは簡単だが、それだとやっぱりNGが気掛かりになる。幸い、休み時間は十分と言えども生徒の流動性が期待出来る。流れに乗って、後はどうにか。

 行きたい場所があるのだ。





















「ふぅ…………」

 一年生も二年生も三年生も俺にとってはかけがえのない命綱だ。何とか明衣を頼らずここまでやってきた。保健室には先生も居るし、居なくても問題ない。そこには俺の会いたい人物が居るから。

「日入、大丈夫か」

 日入真子ひいりまこ

 今更だがそういう名前らしい。興味が無かったので知らなかった。彼女は明衣に吹き込まれたNGについ魔が差して多田先生を殺した張本人だ。勿論NGによる殺人は咎められない。そもそも死体が残らないし。

 だがそれと殺した事実は話が別。後輩は精神を病んでしまい、だが家族に理由を話す事も出来ない為に理解を得られず学校に来ては保健室で過ごしているらしい。以前来ていた日入の友達がそう言っていた。

「先輩…………」

「様子を見に来た。昨日と変わらないな。太腿の字は消えたか?」

「…………」

 太腿に刻まれた『正』の字は低俗の証。後輩の方から布団を捲って股を開くとは思わなかったが、内腿に刻まれた字にはその名残も見えない。

「……悪いな。慰める方法が分からないんだ。傍に居てやる事しか出来ない。自力で立ち直ってくれ」

「…………先輩。私、自分が。怖いです」

「何?」

「そんなつもりなかったのに。誰でも簡単にあんな風に殺せるって分かったら……少し嫌な気分になるだけで、殺したくなってきて! お父さんを殺したいなんて思っちゃった! やだ…………何で…………? 私はもうあんなの懲り懲りなのに……!」

「まあ気に入らない奴を殺して咎められないならそういう気持ちになる事もあるだろうな。大丈夫だ、それを異常だと思う心があるならまだ大丈夫だ。お前だけでも生き残ってくれて良かったよ。大丈夫、お前は生きてていいんだ。悪いのは全部アイツだ」

 ベッドに体を乗せて、優しく抱きしめる。

「う、うぅ…………ひぃ~ん…………!」

 たかが人が一人死んだだけ。それも最低最悪の教師が殺されただけ。たったそれだけでも善良な人間はこうなる。俺だけがアイツを制御出来なくもないなら頑張るしかないのだ。今更一人二人死んでもどうとも思わないこの心にも正しい使い道はある。


 ―――本当は俺と関わるのを辞めて欲しいんだが。


 今の日入にそれは酷だ。 

 せめて立ち直るまでは、一緒に居てやらないと。

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