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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
1st Deduct イジメはペケ
18/97

天地神明衣に誓って

「身軽になった名探偵に怖いものなーし。きらん、きらん」

「ミニスカになった程度で良くもまあハイテンションで居られるな」

 惜しげもなく晒される健康的な太腿は男子の目に毒であるが、明衣の存在自体がフグよりも凶悪な猛毒なのであまり関係ない。本人がミニスカエディションを自称する通りかなり上にあげており、少し腰を曲げてお尻を突き出すだけでもうパンツが見えてしまいそうだ。

「で、何で俺に髪を結ばせてるんだ?」

「これから動き回りそうだから身軽な恰好にしておきたいなって思った。ねえ助手、そういえば全校集会のきっかけになったあれだけど……何か分かった?」

「あ、忘れてた。お前の変な報告と諸々トラブルのせいだけどな。『ぼっとん花子』についてちょっとだけ分かった。放課後に知らせるな。ここで話すと情報漏洩のリスクがある」

「ん。それならいいや。脈絡のない予想だけど、あの二人が目覚めないのは『ぼっとん花子』が何か悪さしてるって思うんだよね」

「お化けはデマなんじゃなかったか?」

「一日中眠ってて今も問題のタネになってる方がデマっぽい不自然でしょ。幾ら名探偵でも相手が話せないんじゃ情報を得られないから、何とかして目を覚まさせないと」

 髪は女の命だが、幾ら明衣の髪に触ったって彼女が死ぬ気配は微塵もない。特別注文も無かったのでシンプルにポニーテールでまとめると、明衣は自分の首回りを触って、何やら手応えを得たように頷いていた。

「ありがとう。授業が早く終わって放課後になってほしいな。またそれまで寝るのもいいけど」

「てめえ頭引っぱたくぞ。幾ら楽だからって授業くらいは受けろ。それが出来ないなら退学しろ」

「学校は点数が全てなんだよ助手。平常点なんて必要ない。テストで点数が取れてるならいいんだ。だからおやす―――」

「ねーるーなー!」


「あの……そろそろ授業始まるんですけど……?」


「ああ、すみません。先生、授業中寝る馬鹿がいるんで、俺の机はこいつの傍に置かせてもらいます。いいですよね」

「え、あの……は、はあ」

 数学の先生は気弱だが、明衣の異常性を担任から聞いている。だから俺もある程度自由が許されているし、実際授業は真面目に受けてもらった方がいい筈だ。割れ窓理論とは少し違うが、一人眠っていたら次々に眠りかねない。誰もが誰も明衣みたいに頭がいい訳じゃないから、単に本人が損をする。

 高校にもなるとそれぞれの机が等間隔で並べられているから小学生みたいに相方になるという事は普通有り得ないのだが、こうでもしないとこいつは寝るから仕方ない。「羨ましいなあ」という声に心の中で反論を決めながら彼女の隣に席を置く。

 早速、肩にしなだれかかってきた。

「俺を枕にするな。起きろ」

「大丈夫、寝ないよ。隣同士っていいよね。凄く安心する」

「寝る前フリじゃねえか。俺はお前の監視で黒板見られないからちゃんと板書しろよ。後で見るんだから」

「ビジネスライクな関係は嫌いじゃないけど、助手はもっと素直に頼ってくれていいんだぞ?」

「はいはいじゃあ頼るよ。見せてください、その為に真面目に授業を受けてください名探偵」

「うんうん、分かった。じゃあ特別に真面目に聞いてあげる」

 条件を付けられた覚えはないが左手を恋人の様に握られて、身動きが取れなくなる。手錠で二人の手首を繋いだに等しい。鍵はない。


 ―――やれやれ。


 ここまでしないと真面目になってくれないか。

 本当にこいつという奴はNGを暴く事しか興味がない殺人鬼だ。脳に下半身がついているなんて表現は、たいてい煩悩塗れの人間に言われる事だがある意味明衣だってそうだ。人間的な関わりや知識に興味を示さない。本当に人間かどうかも怪しい。こいつでエロい妄想をする奴は一度考え直した方がいい。俺は収入源が途絶えるけど、別にいい。

「言っとくが、俺以外にこんな頼み事するなよ。どんな目に遭っても知らんぞ」

「やだー。こわーい」

「くだらな」

 こいつの被害を最小限にとどめる方法、それは俺以外との関わりを絶つ方法。束縛でも何でもいいからとにかく俺に被害を集中させる。だから気持ちとしては嫌でも、俺一人に関心が集中している現在は願ったり叶ったりだ。

 さて、監視の都合上黒板には目を向けず延々とこいつの人形みたいな横顔を見つめている必要がある。これなら交差点を行き交う人の数でもカウントしている方がまだ面白みがある。こいつを眠らせない様にしているのに、もう俺が眠たい。

「…………」

 注意深く精緻な顔を観察していると、きょろっと明衣の右目が動いた。

「ねえ助手。もし私が体調崩したら、どうしてくれる?」

「看病する。お前に他の奴は頼らせない」

「馬鹿は風邪を引かないって言うかと思った」

「仮にも名探偵を馬鹿にするかよ。でも体調崩したりするなよ。俺にまで感染しそうだから」

「…………それ、どういう意味?」



「いつも傍にいるって言う意味だよ」



 じゃないとNGについて探られる。これは全部仕方のない事。最終的にこいつを殺す為なら全てがコラテラルダメージ。

「……いつも?」

「そうだ。絶対に離れたりしない」

「私を守ってくれる?」

「お前に死なれちゃ困る」

 何故なら俺が殺すから。

 そんな事は助手になった時から分かっているだろうに、何の再確認だ。恋人同士でスキスキと言い合ってるんじゃないんだから―――あれ。

 まさかと思うが、そういうやりとりなのかこれは。

「……ふふ。そっかそっか。助手、いつも有難う。この世の理を暴くその時まで、ずっと一緒に居ようね」

「プロポーズはお断りします」

「照れたっ」

「照れてない。そんな言葉に一々返事する必要がないってだけだ」

 こんな奴に関わった時点で俺の末路なんて碌なもんじゃない。でもそれでいい。それで殺せるなら何でもいい。復讐は何も生まないが、終わらせる事は出来る。これ以上の被害を止める事が出来るなら、誰に感謝されなくても。

 俺が気持ちいい。







 













 放課後までワクワクが止まらない明衣を抑え込むのは大変だったが一度終わってみればむしろ大人しくなって不気味だった。『ぼっとん花子』の本当の詳細について共有すると、明衣は俄然興味を示して捜索を開始した。オカルトはともかく、学校が隠したかもしれない部屋というのがロマンを感じるらしい。

 聞きこもうにも昔すぎる情報なので、第三者からの情報提供には期待できない。自分達の勘だけで探すしかない。と言っても―――間違い探しをやっているのとは訳が違う。不自然な場所を探せばいいだけだ。

「不自然な場所ってどんなのだ?」

 誰も居ない教室。明衣はチョークを握って黙々と何かを書きだしていた。途中経過を見れば嫌でも分かる。これは校内の地図だ。彼女の空間把握能力は中々逸脱しており、一度通った場所は絶対に忘れない。その為、町中の通路が頭に入っている。

「今まで不自然って考えた事もないけど、特別棟一階の女子トイレ横、二階の防火扉の横。後は理科室と技術準備室の間が候補かな?」

「……変な場所が候補に挙がったな」

「壁が良い感じに広いんだよね。トイレの入り口くらいだったら入りそうな感じ。外から見た時も部屋があったっておかしくない厚さがあるんだよねー」

「……覚えてないな。それで、どうやってドアを開ける? 塗り潰されてるなら―――」

 明衣が窓の外から指を指している。覗き込むと、体育倉庫のシャッターを指していた。





「体育祭で杭を埋める時に使うハンマーあるでしょ? あれで壊せたりしないかな?」

 

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