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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
1st Deduct イジメはペケ
14/97

聡明衣叡知のオンナ仕草

「兄。ご飯」

「有難う……二人共起きてたのか?」

「お母さんだけ。無理言って作ってもらった」

 遥との会話相手を務める関係から、この部屋には二人きりで食事する用の机がある。ただ話せないだけで家族仲は悪くない、だから普段は二人共リビングで食事を摂っているが……場合によりけりだ。別に持て余している訳ではない。

「それで……『ぼっとん花子』についてだけど」

「色々調べたけど。多分、そもそもが違ってる。ぼっとん花子は確かにあるけれど、どんなに調べても兄のとは一致しない。兄のは、物をぼっとん便所に入れたら声が聞こえるみたいな……合ってる?」

「大体な。何が違うんだ?」

「だから、全部。『ぼっとん花子』はもう三〇年も前から伝わってるみたいだけど、その頃と中身が違う。何でかは…………これ見て」

 食べ物の隣に出すと何かしら零す可能性があるのでベッドの上に。それは新聞の切り抜きだろうか。ちょっと読みにくいが、学校に不審者が侵入して当時中学校として扱われていたあの学校で女子が殺されたという記事だ。それも首を切られて。記事の写真は単なる校門前の写真だが、しかし中身では死体を見た子供にインタビューをしている様だった。

「そもそもぼっとんは擬音。『ぼっとん花子』はぼっとん便所に居るからそう呼ばれてるんじゃなくて」

「首が『ぼっとん』落ちたからそう呼ばれてるって事か」

「ん」

 つまりもし本人が登場したならそいつは首がないという事か。あの状況で出てこられたら更に混沌と化し明衣は大喜び、透歌はあれの比ではないくらい取り乱していただろうから不幸中の幸いか。全く嬉しくない偶然だけど。

「しかし噂に尾ひれがつくならまだしも全く変わってるなんて妙だな。しかも実際の事件が元ネタなら猶更そう思うよ」

「新聞、続き」

 仮に『ぼっとん花子』事件と呼ぶが。それから半年を境に次々と同じ場所で生徒が死ぬようになっていた。五人目を契機として学校はトイレを封鎖。それ以来事件は確認されていないが、それまで面白おかしく報道していたマスメディアにつけ回されて、当時の校長は自殺したのだとか。

「……噂の中身が違うのは多分。被害があまりにも大きすぎたから」

「噂がそのまま残ってると真似する奴が出て大変だから噂自体捏造したって訳か。五人も死んでるならある意味当然か。よくもまあ奇跡的に学校として継続してるもんだ。その辺りは時の運か。で、やり方は?」

「分からない。でも兄の学校に不自然な空間とかない? 多分、入り口を隠したんだと思う。入れないように」

「不自然な空間か……探してみるよ」

 遥のお陰で噂の調査は思わぬ進展を迎えた。すると今後俺達がしなければいけないのは噂の再収集。もとい本来あるべき『ぼっとん花子』の解明だ。そう考えると少しは探偵っぽくなってきた。心なしか楽しんでいる自分が居るのもまた事実。名探偵に対するアンビバレンツを自覚するように俺もまた救えない。

 外道に堕ちたこの身は、端から善を名乗るつもりもない。

「ご馳走様でした。学校に行くまでゲームでもしようや」

「もう少しで食べ終わる…………今日もちゃんと、帰ってきてね」

「俺の事を心配するより、自分の事を心配しろ。あんまり学校に顔出さないからそろそろ担任が様子見に来るんじゃないか? 一応喋れない設定だけど、お前の場合死ぬんだから注意してくれよ」

 もっと言えば学校にあまり顔を出せないでいるから今後が非常に心配だが、俺以上に先のある未来に不安を煽るのは良くないと思って口を噤んだ。まともに働く事さえ難しい筈だ。NGのせいで喋れないだけで障碍者雇用は使えない。

 お互い成人したら、俺が養う事になるのだろう。


 勿論、生きていたら。

 

「……お前、何やりたい?」

「パズル」

 生きていればいいな、なんて言わない。俺が生きているという事は明衣もまた生存しているという事だ。それは本意ではなく、致命的な不本意。名探偵の助手になったその時から、この胸にかかる望みはアイツを殺す事だけ。

 遥には悪いが、誰かを殺してまで生きていたいとは思わない。刑務所は犯罪者が更生する場所だが、俺自身が更生を望んでいない。今の俺が変わる事は人格の自殺に等しく、明衣が死んだとしてもそこにかつての面影はない。

「…………無理な話だと思うけど、お前好きな人とか居ないのか?」

「学校行ってないのに、居る訳ない」

「…………結婚するならお見合いだな」

「―――そういうの、やめて」

 正直、彼女だけが心残りだ。

 結婚して、NGによる依存先を切り替えてくれればそれでいい。思い残す事はない。大丈夫、どんな手を使っても、高校を卒業するまでにアイツは殺す。ちょっとこれ以上の悪行は見逃せない。我が道を突き進むその背中を、誰かが突き落としてやらなければ。

「そういう兄は、相手は」

「俺か? 明衣じゃないか?」

「馬鹿」




「本当だよ。アイツ以外の人間関係は文字通り死んでるからな。候補で言ったらアイツしかいない。旅は道連れって言うだろ。冥府魔道を進んでも、伴侶は必要なのさ」
























 

「おはよう、乃絃君」

 約束通り、明衣が玄関前で俺を待っていた。妹から名探偵へ、俺のNG依存が引き継がれる。今日も今日とて助手人生の始まりだ。ちゃんと家に居る内に収穫は用意したので探偵様は喜んでくれるだろう。

「良い報せがあったりなかったりする。聞かせてやろうか」

「お、気が合うねえ助手。私も報せがあるよ。良い報せと悪い報せ。どっちが聞きたい?」

「良い報せの方だけ聞きたい」

 明衣は大袈裟な動きで腰に手を当てると、胸をわざと大きく揺らして張ってみせた。

「久しぶりにバストサイズ測ったら二センチ上がってました!」

「うわ、聞かなきゃ良かった。悪い報せだけ聞かせてくれ」




「透歌ちゃんが学校で死んでたみたい」




 うわ。

 聞かなきゃ良かった。

「…………どうやって知ったんだ? まさか一年生のグループに潜入してたって訳でもないだろ」

「簡単な話だよ。乃絃君をわざわざ迎えに来てあげる前に学校へ行ってたの。そしたら見つかっちゃった。あーあ残念。私がNG見つけたかったのになー」

 何事もなく肩を並べて歩き出す。助手を始めてそれなりの年数が経っているが、真意の程は良く掴めない。ただNGが判明しなかった事には残念がっている事だけが真実だ。それ以外は全て無いものと考えていい。あの時の不愉快仕草も、俺の為という大義名分が欲しかったのだろう。

「死に方は?」

「それが、蛹山君と同じ」

「縊死? じゃあNG死か? 死に方が被るなんてよくある事だけど、そんな都合よく被るのか?」

「まだ死体残ってると思うし、見に行こうよ。彼のは消えちゃったし」

 何か妙だ。

 死に方が都合よく被るなんておかしい。たまたま偶然そうなったという可能性はあるのだが、よりにもよって『ぼっとん花子』に付き合った二人が同じ死に方……偶然と考えるのはあまりに楽観的だ。

「なんかさ、最近気持ちよくないよね。NGを見破ろうかなと思った矢先にみんな死んじゃって」

「お前が気持ちよくなる為にみんな生きてるんじゃない。死者を悼め」

「そう言えば、意識が目覚めない二人が居たでしょ? あの二人のせいで夜間侵入が明るみに出たから、今日全校集会だってさ」

「話を聞けよ」

「凄い良い機会だよね。みんなの反応も見られるし。だから乃絃君、悪いけど全校集会の時は私の傍に並んでくれない? 助手が傍に居てくれないと不安で怖いの」

 思ってもない事を、言ってのける。

 手を繋いで妖艶な微笑みで以て問いかける明衣。その奇妙な空気は高校生ではなく最早化生の色気に達していた。多くの男子はこんな風に頼まれたら断れないだろう。幾ら明衣を危険視していても、特に俺からコイツの写真を買っている男子は。

「………………俺以外を頼るなよ」

「うん♪」

 別に断っても良かったが、そうなると他の男子を当然のように当てにして、手駒にするだろう。そいつのNG次第では一瞬で見破られて命を握られる。そうなったら助けられない。

「ただ後で先生に怒られた時は諦めろ。どうせ俺も共犯だから助けられない」

「うーん。そうは言うけど、元を辿れば夜に私達より先に侵入してた子と目覚めないあの二人が悪いんだし、怒られる謂れなんてないよね。それに蛹山君と透歌ちゃんのNG死は違和感しかない。もしかしたら殺人かも。殺人だったら他の生徒にも危険が及んじゃうし、先生が止める訳ないよ!」

「お前と違って先生はまともなので止めます。勝手な論理を展開しないで下さい」

 とは言ってみたものの、先生が止めてくるなら俺は全力でその先生に付き纏わないといけない。明衣は確実に仕留めにかかる。コイツより先にNGを見破らないと。

「……あ、そうだ。今日髪を梳かすの忘れちゃった。乃絃君、後で梳かしてくれる? 櫛は貸すから」

「休み時間でいいか?」

「うん、ありがとねっ」




 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 明衣がゴミクズかわいい。 乃絃も、不本意な中で強制的にツンデレキャラをやらされてるところが、なんかカワイらしく見えてきました! 明衣がどこまでわかってるのかはともかく、言動だけ客観的に見…
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