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なにかが少しずつ変わりはじめる  作者: ゴルゴンゾーラ
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できるだけ伏せておくほうがベターなこと

ルイボスティをクマさんの前に置いた。


「たいした話じゃないですよ。ここは自分の実家ってだけです」

「実家?ここがか」

クマさんはソファに座り、クッションを抱きしめてキョトンとしていた。


「はい。ここで生まれ育ちました」

「そうなのか。で家族はどこに行ったんだよ」

「父は亡くなり、自分がこの家を相続。母は、結婚した姉の家族と京都に住んでいます」

「ふーん。家族で相続争いが起きそうなもんだけどな?」

「姉や母も、別のものをきっちり相続しました。均等に分けたので、争いは無いです」


ルイボスティを一口飲んだクマさんは「何だこの飲み物」という顔をしてカップを眺めた。


「う~ん、相続ねぇ」

クマさんは、リビングを見回した。

「けどさ、コレだけ広いと、掃除とか?維持管理もかかるし、固定資産税とかスゲーんじゃない?」


鋭いところをついてくる。

俺にそこまで答える義務があるのかどうか、疑問だが。

ついつい正直に答えてしまうのが自分の悪い癖だった。


「掃除とか維持管理なんかは、業者がやってます。あと固定資産税ですけど、自分もいくらかの現金は相続したのでそっちで払ってますね」


相続した現金がいくらなのか?

さすがのクマさんもそこまでは聞いてこなかった。

絶対に言うつもりはないが、家と現金のほかにも都内のオフィスビルや駐車場をいくつか相続していた。


口座には働かなくても一生暮らせる金があり、オフィスビルや駐車場から上がった収益は管理会社を通して毎月振り込まれた。その額は、会社の給料の数百倍を超えているはずだが、興味が無いので把握していない。


会社を辞めるつもりはなかった。

サラリーマンというこの立場が性に合っていた。

毎朝起きて、仕事をし、一定のストレスがあるからこそ休みの日が充実し、楽しく過ごせる。

辞めてしまったら、なにをして過ごせば良いのか途方に暮れてしまうだろう。


「いやはや、青山ってお坊ちゃまだったんだな。完全に住む世界が違うわ」

「そうでもないです。いまどき家の価値なんて下がる一方ですよ」

「でも、売却はしないんだな?」

「生まれ育った家だからですかね。なかなか踏ん切りがつかない感じです」


「ところで、クマさん、このことなんですけど、会社のみんなには内緒でお願いします!」

頭を下げる。

「え~っ!なんで?俺だったらこの家、自慢するけどなぁ」

「資産家であることは隠したほうがベターなんですよ」

「なんで?」

「なんでって、コネを使って製品を売れとか言われそうだし」

「へぇ!コネがあんのか?」

クマさんは目を輝かせる。


おそらく会社の人事部は俺の家系が資産家であることは承知の上だろう。

しかし個人情報の観点から漏らすことはできないはずだった。


大きなお金を動かせることは他人に知られるべきではない。

これは幼少期から親に叩き込まれた教育の一つであった。


と同時に、嘘はつくなという教育も受けたので、矛盾しているのだが。

すくなくとも、聞かれない限り「余計なことは言わない」

これが自分なりの処世術だった。


「とにかく!泊めてあげるんだから、このことは内密に!」

きつめの口調で言った。

「へいへぃ~」

理解したのか、してないのか。


「2階の好きな部屋つかってください。俺はいつも1階の和室で寝起きしてるんで」

この家の中でも一番、日当たりが悪くて狭い和室が俺のお気に入りだった。


クマさんに風呂やトイレの場所、冷蔵庫の中は好きに食べて良いことなどを伝えた。

子どもじゃないんだから、あとは適当にするだろう。



この2~3日後に分かるのだが、口の軽いクマさんは、俺が豪邸を相続し、優雅に暮らしているのだと会社で話してしまう。

話はすぐに社内中に広まってしまった。


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