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その72 ミーティング

 家に帰って、変身といて。


 かくかく、しかじか。

 かくかくかく、しかじかじか。

 かくかくかくかく、しかじかしかじか。


 と、アキちゃんに事情説明。


「はあはあ。わかった。なるほどねー」


 納得してもらう。

 女の子一人、……捨て犬でも拾ってくるみたいに、連れ帰ってきたことを。


「……………………」


 いま、あたしの隣には、さっき救助した女の子が座っていた。

 さきほどまで煤と埃まみれだった彼女は、濡れタオルで身ぎれいになっている。


「まあ、うちは別に構わないけどサ。……あんた、あずきちゃんって言ったっけ?」

「……は、はい……」

「いろいろ大変だったね。好きなだけうちにいていいからね」


 さすが、アキちゃんは太っ腹だった。


「あ……っ。ありがとうございます……」


 そういうあずきちゃんの方は、明らかに元気がない。

 無理もないよね。ついさっき、ご両親を失ったばかりなんだから。


「それにしても、――厄介なのはその、一色奏って女だな」

「ん。やっぱりそう思う?」

「そりゃそうさ」


 インスタントのコーンスープが、人数分。

 食卓に、空虚な甘い香りが漂う。


「”魔女”の力を持つものが、複数人、か……」

「うん」


 アリスちゃんったらどうやら、あっちこっちで力を与えて回ってるみたいね。

 その目的は……しょうじき、よくわからないけれど。


「賭けても良い。きっとあんたら、喧嘩になるよ」

「……………………」


 実を言うとそれは、あたしも同感だった。

 あの、奏と名乗った小柄な女の子は、どうにも信用ならない。

 だってそうでしょ? あの娘、――拳銃を持っていたんだもの。

 ぜったいまともじゃないよ。


「あずきちゃんを隠したのは、正解だったね」

「うん。……下手すると、人質に取られるかなって、そう思ったんだ」


 《狂気》に囚われていても、愚か者になるつもりはない。

 強い立場の人間の愚鈍は……きっとそれだけで、”罪”になるから。


「一色さんのとこは、ウチの団地でも変わり者で通ってたから。……噂によると、親御さんが育児放棄(ネグレクト)キメてたって話」

「そうなの?」

「そ。あの娘、すっごい小柄でしょ。あれ、栄養失調が原因なんだって」

「そっか…………」


 アリスちゃんが求める人材ってどーも、「変わり者」が多いみたい。

 簡単に信用しちゃいけないのは、わかっていたけど……。


「とにかく、一色奏との付き合いは、十分に注意すること」

「ん」


 あたしたち、こくんとうなずき合う。


 とはいえ、奏ちゃんが嘘を吐いている感じじゃなかったのは、事実だ。

 ”冒険者ランキング”で予言された未来に、あたしの名前はなかった。

 この事実を、肯定的に受け取ることはできない。

 なんとかしなくちゃ。


「奏ちゃんとはしばらく、共同戦線でがんばる。……あたしたちが仲良くやれるかどうかはともかく、……この辺りから、危険を取り除かなくちゃいけない」

「そうね」


 はてさて。どーなることやら。



 んで、次の日。

 奏ちゃんの予告通り、ミーティングは公団地内の緑地公園で行われた。

 園内には、屋根付きのテーブルベンチがあって、団地住みの人なら自由に使って良いことになっている。


 とはいえ、……まだ、寒い時期の早朝。

 あたしたち以外の人気はなかった。


 あたしたち三人はそれぞれ、円卓を囲むように座っている。


 一人は、一色奏ちゃん。

 もう一人は、――”ロボ子”と呼ばれている、物静かな女の子だ。


「…………………」

「…………………」

「…………………」


 さて。

 予告通り集まったはいいものの、沈黙が続いている。


「…………………」

「…………………」

「…………………」


 どうも奏ちゃん、「何か」を待ってるみたいだけど。


「…………………」

「…………………」

「…………………」


 まだ、もうしばらくかかるみたい。


「…………………」

「…………………」

「…………………。えーっ……と………」


 ついにあたしは、自ら話題を提供した。


「ねえ、みんな。好きな芸人さんってだれ?」

「……好きな、芸人?」


 反応を示したのは、”ロボ子”ちゃん。


「うん。あたし、小っちゃいころかずーっと、ダウンタウンのファンなんだぁ。家に『ガキ使』のDVD、いっぱいあるよ! ……ちょっと古いかな?」


 人と打ち解けるなら、この話題が鉄板。

 一応、普遍的な人気者としてダウンタウンを挙げたけど、サンドでもオードリーでもノンスタでも、なんでも応えられるよー?


 ……なんて。

 そう、思ってたんだけど。


「テレビは観ません」

「あ、そう? じゃ、好きなゆーちゅーばーとかでも」

「ネット動画も、観ません」

「そ、そっかあ……」


 ……ううむ。危険サインだ。

 チームを組む以上、日常会話もできないのは、さすがに困る。


 とはいえ彼女、すこし上目遣いになって、


「私の陽電子頭脳には、感情を司る部分が欠けているのです」


 と、言い訳っぽく言った。

 いちおう、気を遣ってはくれてるのかしら。


「とはいえ、興味はあります。……『お笑い』とはなんですか? それを観賞することにより、どのようなメリットが発生するのでしょうか」

「めりっと……? メリットかぁ。考えたことないなあ……」

「是非とも、ご教授を。私さいきん、人間の感情を研究しているのです」


 はあはあ、そっかそっか。

 そういえばきみも、あたまのおかしい娘の一人だったわね。


 眉間を揉み揉み、彼女との会話に苦心していると、


「……ん。きた」


 ふらっとそこに、女の子が現れた。

 年齢は、十歳かそこらかしら? どこにでもいるような、ごく普通の女の子だ。彼女は人目を忍ぶように奏ちゃんに駆けよって、


「例のぶつは?」

「ここに」

「ありがと」

「これ、……報酬でし」

「ん」

「また、何かあったら、よろしく」

「こちらこそ」


 なんて、子供のスパイごっこみたいな会話を繰り広げた。

 その後少女は、一枚の紙切れとお徳用のチョコレート菓子を交換し、さっさと緑地を去っていく。


「………? いまのは?」

「とある……――チラシをもらう約束をしていたんでし」

「チラシ……なんの?」

「アリスから聞き出していた情報があってね。――それによると、この辺りにもう一人、”プレイヤー”がいるんだって」

「………」

「あちしたちの未来が閉ざされるとしたら、そいつが原因である可能性が高い。……わかる?」


 それは、まあ。


「だからあちしたち、これから協力して、その男を殺すの」


 そうして奏ちゃん、一枚の紙切れを、テーブル上に広げて見せたんだ。

 それは、――とある男の笑顔が大写しにされた、一枚のA4用紙。


 いかにも、「シロウトが作りました!」ってセンスのそれには、


『次世代を担う子供たちを、安全な場所で保護しませんか?』


 という一文と、簡単な地図が添付されているみたい。


「……あっ……この人………」


 その顔を見て、思わず声を上げる。

 なにせあたし、――その顔に、見覚えがあったから。


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