表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/300

その65 はじめての変身

 家に帰って、正座して。

 かくかくしかじかと、アキちゃんに。


「――ってことになりました」


 すると、あたしの幼なじみは、つるつるおでこをぴしゃりと叩いて、


「ほらああああああ! いったじゃん、ろくなことにならないってぇえええ!」


 と、叫んだ。

 そんな風に言われたらあたしだって、反論の言葉が湧いてくるよ。


 いいもんいいもん。

 魔法の力が与えられたのは、本当だもん。


 だけどアキちゃんに言わせれば、それすら疑わしいみたい。


「それで? その、不思議な力っての、具体的にどういうものなの?」

「ん」


 それであたし、後生大事に握りしめていた、”ウィザード・コミューン”を見せたんだ。


「うわ。いまどきガラケーって。……どーいうセンスしてんだろ」


 それはぶっちゃけ、あたしも思った。


「なーんか私、騙されてる気がするけどなぁ」

「でも、アリスちゃんの力は本当だった。嘘を吐いてる感じもなかったし」

「……やれやれ、だわ」


 アキちゃん、肩をすくめて笑う。

 「じゃあまぁ、茶番に付き合ってやるか」って感じだ。


「じゃ、さっそく試してみよっか。……その、魔法の力、とやらを」

「うん」


 そーしてあたし、部屋の真ん中に立って、こほんと咳払いを一つ、した。

 アキちゃんったら、手品に興じるような感じで、にやにや笑ってる。


――あんた昔っから、簡単に手品に騙されるからなあ。


 とでも、言わんばかりだ。

 たしかにそうかもしれないけど! 今回のこれは、本当なんだから!

 あたしはムッとして、コミューンのボタンを押して、


「それじゃーいくよ……――変身(メタモルフォーゼ)!」


 叫ぶ。

 その、次の瞬間だった。


 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!


 という得体の知れない音とともに、あたしの着ていた服の繊維が解け、空気に溶けていったのは。


「――え?」


 思わず、身体を見る。肌が、非現実的な虹色の輝きに包まれているのがわかる。

 身体のラインが、丸見えになっていた。


「やば、やば、やば!」


 けど、焦る羽目になったのは、ほんの一瞬だけ。

 気がつけばあたしは、いかにも魔法少女系アニメのキャラクター! って感じのコスチュームに着替えていたんだ。


 一拍遅れて、髪の毛を引っ張られているような感覚がして、――頭を撫でると、髪型まで変わっていることがわかる。

 鏡を見たところ、……なんていうか……すごく、増えていたんだよ。毛量が。

 頭の高い位置にくっついた、でっかいツインテールに、王女様がつけるみたいな、色とりどりの宝石が嵌まった、金のティアラ。


――わあ。すっごい肩、凝りそう。


 っていうのが、初見の感想。

 けどまー、おおむね、悪い気分ではなかった。


 なんでかわかんないけど、その時のあたし、不思議な多幸感に包まれていたんだ。


「大いなる正義の戦士、魔法少女ミソラちゃん! ここに見参ッ!」


 気づけば、そのようにハシャいだセリフまで口にしていた。


 ………………。

 …………。

 ……。


 笑われちゃうかな?


 なーんて、少しだけ思ったけれど、杞憂だったみたい。

 アキちゃんったら、驚きのあまり煙草を胸元に落としちゃって、それどころじゃなかったみたいから。


「あっ…………あっ……………あっ………………あ………」


 言葉を失っているアキちゃん対して、あたしは唇をふにゃりと歪ませる。


「――どや?」


 訊ねると、アキちゃんはようやく、反応を示した。


「ええと、……あなた、本当にみーちゃん、なの?」

「もちろん」


 こっくりと頷く。


「すっごぉ……」


 そして、たっぷり間を置いて、


「すっごおおおおおおおおおおおおおおおおい!」


 と、あたしの手をぎゅっと握りしめ、満面に笑みを浮かべた。


「手品じゃない! ほ、本物の魔法じゃない!」

「だから、そーいったじゃん」

「うわうわうわうわ! なんかしてみせて! なんかしてみせてよ!」

「ふっふっふっふ。いいでしょう」


 ……と、その場ですぐ魔法を使うほど、あたしは馬鹿じゃない。

 きっと与えられた力は、とんでもなくすごいパワーに違いない。

 ここで魔法を使ったら、大変なことになっちゃうに決まってるもの。


「そんじゃ、とりあえず屋上に行きましょっか♪」



 ってわけで、屋上へ。

 あたしたちの団地の屋上は、住民のふれ合いのために解放されていて、いつでも出入りできるようになっていた。

 すでに、辺りはすっかり暗くなっている。

 平常時はちらほら人気のあったその空間に、あたしたち以外の姿はない。


 あたしは、アキちゃんを安全なところまで避難させたのち、コミューンを弄る。


「えっと……魔法について……調べるには……と……」


 あれこれ弄くっていると、各種スキルの説明が、コミューンの画面に表示されるようになっていた。




《狂気(弱)》……ちょっぴり頭がふわふわするけど、そのぶん強くなるよ!

《正体隠匿(弱)》……あなたの正体が、ほどよくわかりにくくなるよ!

《自然治癒(弱)》……怪我の治りが、そこそこ早くなるよ!

《皮膚強化》……皮膚が頑丈になるよ!

《骨強化》……骨が頑丈になるよ!

《火系魔法Ⅰ》……火の魔法だよ!

《水系魔法Ⅰ》……水の魔法だよ!

《風系魔法Ⅰ》……風の魔法だよ!

《地系魔法Ⅰ》……大地の魔法だよ!




「ふむふむ……」


 その内容をチェックして、腕を組む。


「そんじゃ……とりあえずやってみよっかな! 離れてて、アキちゃん!」

「がんばれー!」


 遠く、アキちゃんの声援が聞こえる。

 あたしは大きく息を吸って、


「それでは……まず。……ふぁいあっ!」


 《火系魔法Ⅰ》を発動する。

 するとどうだろう。


 ぼっ。


 と、あたしの指先からほとばしりでた炎は、”ガスコンロ・中火”くらいの威力だったの。


「……………………………」

「……………………………」

「……………………………」

「……………………………」


 気まずい、沈黙。


「…………………えーっと。…………それだけ?」


 アキちゃんが、渋い表情で訊ねた。


「そう、みたい」


 こういう、間抜けな姿を見せられる幼なじみって、偉大だ。

 あたしその時、ちょっぴり泣き顔になっていたんだもの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ