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その58 武装ゾンビ

「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおお…………ッ!」


 特に意味のない雄叫びを(近所迷惑にならない程度に)上げながら、”ボルトアクション式小銃”を作り出す。

 同時に、


「あっ、なんかあたまクラクラする。すっごいクラクラする……!」


 もの凄い勢いで、全身の血糖が失われていくのがわかった。

 めまいがして、眠気が強くなり、気が遠くなってきて、この世の中には夢も希望もないような気がしてくる。

 餓鬼のようだった腹が、風船から空気が抜けるようにしぼんでいく。


――もってくれよ……っ。


 目の前ではすでに、一丁の銃が組み上がっていた。今回はあえて、細かい仕様変更などは行っていない。いや、行う余裕がなかった、というべきか。今は、身体の負担を最小限度に抑えるべき時だ。


 ちらりと、客間に座らせている”ゾンビ”たちを見る。

 彼らは大人しくソファに座っていて、変な気を起こしている様子はない。


 その時、ぐきゅるるるるるるるるるる…………と、怪物が唸るような音がして。

 一瞬だけ、”サクラ”がこちらを向いた気がした。


――気が変わった。そこにいる眼鏡野郎、食っちまおう。


 そんな台詞が聞こえてくるようだ。


「……怖っ」


 低血糖症が見せた幻覚だったかもしれない。

 さすがにだんだん、気が滅入ってくる。


「頼む。さっさと完成しろ」


 文句を言うのと、ほぼ同時だった。

 腹の中身を全て使いきって、ぎりぎり小銃の作成に成功したらしい。

 がちゃん、と食卓に銃が落っこちると同時に、引っつかむようにして傍らにある菓子パンに噛みつく。

 あんパン、メロンパン、ハムサンドの順番で食らいつき、それらをリンゴジュースで胃の中に流し込み、


「ふう……危なかった」


 ようやく人心地着く。


「何とかなったか」


 この調子だと僕のMP、100もないかも知れないな。

 自分の能力を過信する余り、少しぎりぎりの賭けに出てしまっていた。


――この分だと、自動拳銃に手を出せる日は遠いな。


 あと、三つか四つ、レベルが上がった後になりそうだ。



 しばらく、リビングのソファで一息ついて。

 決死の思いで作り上げた銃を、しばし検分する。


「うーむ。かっこいい」


 ストックからハンドガードは古びた木製で、少し濃いめ茶色がクラシックな味を出していた。

 あまりモデルガンなどに興味がなかったが、これを見ているとガン・マニアの気持ちがわかる気がする。

 ただ、残念ながらスコープの類はついておらず、照準はアイアンサイトで行うしかないらしい。


「ちょっとだけ、……自分で撃ってみたい気がするな。これ」


 オタク心がうずく。

 さすがにそんな危険な真似はできないが。


 その後、十分な休息とMP補給の後、小銃用の弾丸をとりあえず百発、クロスボウ用の弓を三十本だけ作成して、――その夜の《武器作成》作業を完了とした。


 そうして、待たせていたみんなへの感謝の意を込めて、《ゾンビ飯》の箱を空ける。

 《ゾンビ飯》は、どう見ても犬猫に与えるドライフードにしか見えない形状をしていて、ご丁寧にも一食分ずつ、ちゃんとパックに分けられていた。


 それらを全て、ちゃんと人間用のお皿に入れて”ゾンビ”たちに出す。

 一応、餌を与えるのは”マッチョ”くん以外の全員、ということにした。

 たぶん”マッチョ”くんは放っておいてもどんどん強くなってくれるだろうという計算込みの作戦である。


「はい。めしあがれ」

『……………うう』

『……………ぐるる』

『…………おげー』


 『ゾンビまっしぐら』とか書いてたし、勝手に食べるのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。ちゃんと僕が操作して食べさせないといけないようだ。


――仕方ないな。


 二階のPC前に戻って、それぞれを順番に指揮下に置き、”ゾンビ飯”に向かってFキー。

 そこまでしてようやく、”ゾンビ”たちは目の前の食事をムシャムシャと食べ始めるのだった。


『…………ぐるるるるる…………』


 食事は手づかみだったが、みんな意外と、こぼさず行儀良く口に運んでいく。

 そこで初めて、気がついたのだが。

 こいつらって他に食事すること、あるのかな。

 考えても仕方がないことだが。


 その後、全員の持ち物を見直したところ、――我が”ゾンビ”軍団の武装は、以下のようになった。


なまえ:マッチョくん

レベル:5

ぶき:てつのつるぎ

あたま:ヘルメット

からだ:ぴっちりシャツ

うで:せんしのたて

あし:あんぜんぐつ

そうしょく:なし

もちもの:なし


なまえ:ツバキちゃん

レベル:3

ぶき:クロスボウ

あたま:なし

からだ:みどりのパーカー

うで:なし

あし:うんどうぐつ

そうしょく:ヘアピン

もちもの:クロスボウのや×30


なまえ:ミントちゃん

レベル:2

ぶき:むしうち

あたま:なし

からだ:がくせいふく

うで:きぬのてぶくろ

あし:うんどうぐつ

そうしょく:ハートのゆびわ

もちもの:ほうちょう


なまえ:サクラちゃん

レベル:2

ぶき:ライフル

あたま:なし

からだ:がくせいふく

うで:なし

あし:かわぐつ

そうしょく:ニャッキーのうでどけい

もちもの:ライフルのたま×100、ほうちょう、そうがんきょう


 一応、

 ”マッチョ”は周辺の”ゾンビ”掃討用。”ツバキ”はその補佐に。

 ”サクラ”を我が家付近のどこか、なるべく周囲を見渡せるような建物に潜ませて、今後は基本、”ミント”を直接操作して探索を行う予定だ。


 敵に居場所を知られている豪姫は、しばらくホームセンターに匿ってもらうつもりでいる。


 なお、さらに仲間を増やす案に関しては、今のところ保留中。

 できれば”簡易銃”の試射役が欲しいところだが、現状の僕のステータスでは、同時に複数の”ゾンビ”を死なせてしまった場合、即座にMP切れになってしまう。不意に身動きできなくなるリスクは可能な限り避けたい。


――まずはこの布陣で、しばらくやってみよう。


 あとは、僕たちの敵――あの、奇妙な娘たちの出方次第だが。

 さて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どっかで見た書き方だと思ったらJK無双のさくしゃさまでしたか、とても面白いです、頑張ってくださいね。 [気になる点] そういえば、主人公の名前は、まだ出てない気がする……
[良い点] 一気読みしました ゾンビものの小説で感じていた、なろうらしい能力で活躍する作品を読みたい→なろうらしい能力に対してゾンビが弱すぎるのでゾンビものから逸脱する、みたいな不満があり大抵の作品が…
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