その55 実績報酬②
――実績“はじめての安全地帯”の報酬を選んでください。
――1、やくそう
――2、どくけし
――3、せいすい
――“やくそう”は、飲むことで軽傷を即座に回復します。
――“どくけし”は、“ゾンビ”に噛まれた際、飲むことで毒を中和します。
――“せいすい”は、身体にふりかけることで数分間“ゾンビ”を寄せ付けにくくなります。
「うーん…………」
これもとりあえず、保留だな。
実績報酬アイテムの取得はいくらでも後回しにできるようだから、もし必要になったときに、その場で取得するのが良いだろう。
少なくともこれで、感染を一度は防げる。気の利いた救済措置だ。
「次」
――実績“修復”の報酬を選んでください。
――1、バックラー
――2、ガントレット
――3、戦士の盾
――“バックラー”は、小型で扱いやすい鋼鉄製の盾です。
――“ガントレット”は、腕にはめる鋼鉄製の篭手です。
――“戦士の盾”は、円形の盾です。重量があるので、非力な者には向きません。
これは、”戦士の盾”をマッチョくんに持たせることにしよう。
慎重な彼にぴったりだ。
「次」
――実績“死後の善行”の報酬を選んでください。
――1、”ゾンビ毒”
――2、”ゾンビ飯”
――3、”ゾンビ肌”
――”ゾンビ毒”は、小瓶に入った”ゾンビ”の体液です。一滴で対象を即座に”ゾンビ”化させます。無味無臭。
――”ゾンビ飯”は、使役している”ゾンビ”のレベルを即座に上昇させる食糧です。三食分。
――”ゾンビ肌”は、使用することでその”ゾンビ”の肌の色を変更します。
「……ううむ。では、そうだな……。”ゾンビ飯”にしようか」
でん、と目の前に現れたのは、コーンフレークの箱……のような何か。
『ゾンビ用食品』
『ゾンビまっしぐら』
『低糖質で太らない』
『飼ゾンビちゃんレベルUP』
『メチャうま』
などとという、ふざけたうたい文句と共に、アリスがぐっと親指を立てている写真が添えられている。
「はあ……」
訳のわからんところに凝らなくて良いのに。
「まあいい。次だ」
――実績”神域へ到る一歩”の報酬を選んで下さい。
――1、蟲撃
――2、無敵バッヂ
――3、試作型複製機
これまた、得体の知れないアイテムばかりだな。
――“蟲撃”は、弾丸が自動的に補充される、非致死性の拳銃です。
――“無敵バッヂ”は、あらゆる攻撃から装着者を一度だけ守ってくれるバッヂです。
――“試作型複製機”は、実績によって取得できるアイテムを無限に複製することが可能になる機械です。ただし試作型なので、レアリティの高い一部のアイテムは複製できません。また、複製にかかる時間は、アイテム毎に異なります。
どうも、ややこしいな。
たぶん長期的には”試作型複製器”なのだろうが。
「ま、ここは”蟲撃”だな」
と、わりかし直感的に答えを出す。
無限に撃てる、非致死性の拳銃。
今の僕にとっては、渡りに舟、とでも言うべき武器になるかもしれない。
――それにしても、”神域”か。
岩田さんも、その言葉を意味ありげに使っていたが。
やはりこれ、そういうことなのかな。
”プレイヤー”を殺しまくれば、やがて”神の領域”に至れる、と。
今度アリスに会ったら、直接聞いてみても良いかも知れない。案外、何かヒントをくれるかもしれないし。
物思いに耽る僕の目の前に出現したのは、子供が絵に描くような、玩具のレーザー銃、といった感じのもの。
口径が妙に広く、少なくとも3センチもある。
――これで非殺傷って、本気か?
この口径通りの弾丸が発射されるなら、機関砲のような火器でなければ釣り合いがとれない。
装甲戦闘車両でも相手にするつもりだろうか。
――ひょっとするとこれも、ハズレアイテムかもしれない。
そう思いつつ、一応、銃は”ゾンビ飯”と一緒にして、一階の客間に置いておくことにした。あとで”ゾンビ”に回収させて、試し撃ちを行うつもりだ。
「では、次」
――実績”ジャイアントキリング”の報酬を選んで下さい。
――1、トリフィドの苗
――2、稀覯本『多重人間原理』
――3、メイドロボ・よし子
――”トリフィドの苗”は、歩行性の肉食植物”トリフィド”の苗です。腐乱死体を栄養とする習性があり、”ゾンビ”と敵対しています。
――”稀覯本『多重人間原理』”は、こことは異なる次元の認識、物理法則についての考察が書かれた一冊です。この本を使用することにより、”怪獣”の動きを一時的に封じることができます。
――”メイドロボ・よし子”は、メイド型のロボットです。ロボット三原則に則り、①人間に危害を加えない。②人間の命令には服従する。③前の2項目に反しない限り自己を防衛する。……という特性を持ちます。
一応、順番に考察していくと、
”トリフィドの苗”は恐らく、”ゾンビ”を自動的に迎撃するための道具だろう。
とりあえずこれは、選択肢から外れる。
”ゾンビ”を使役する者が、その敵をわざわざ作り出す意味がない。
”稀覯本『多重人間原理』”については、正直よくわからない。
”怪獣”というワードにも聞き覚えがなかった。
――ゲームで言うところの、ボス敵か何かだろうか。
ありえる。アリスの考えそうなことだ。
彼女は……僕たちプレイヤーに、様々な試練を与えるつもりでいる。
”怪獣”もその一つだろう。
そして最後のやつが……
「メイドロボ、ね」
頭を抱える。
ふーん。
そうか。
メイドロボか。
あの。
男の夢の。
僕は人生の大半を、この無駄に広い屋敷の中で一人、暮らしてきた。
正直、人よりもよっぽど孤独を苦にしないタイプだという自負がある。
だが。
そんな僕ですら、――この欲求を撥ねのけるのには強い自制心が必要だった。
「ちなみにそのメイドロボ、えっちなご奉仕的なサービスは行いますか?」
その問いかけは、深夜の静寂の中へと消えて行く。
「参ったな……」
こんなのどうやったって、決めかねてしまうじゃないか。