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その54 実績報酬①

 PC画面越しに、戦闘を見守りつつ。

 僕は、小さくため息を吐いた。


――結論。”ゾンビ”の自動戦闘は、そこそこ役に立つ。


 最悪、狂った犬のように突っ込んでいくだけのコマンドかと思っていたが、さすがにそこまで酷くはなかった。


『ぐるるるるるるるる……!』


 肉眼ではまともな歩行すら難しいであろう闇夜にいて、”マッチョ”くんはまるで、深海魚の如く自在に動くことができた。

 その足元には今、”ゾンビ”どもの死骸がごろごろと転がっている。


――勝った。一切の損耗なく。


 とはいえ、完全には安心できない。

 というのも自動戦闘は、その”ゾンビ”の生前の性格が反映されているように思えるためだ。


 戦っては退き、少し迷った様子を見せながらも、時に積極的に”ゾンビ”と対峙する。

 まるで、自動行動の間だけは、生前の知性を取り戻しているようですらあった。

 だからこそ、少し不安ではある。

 人間味があるということは、それだけ失敗する可能性が高いということだから。


――マッチョくん、生前はわりと慎重な男だったのかな。


 ()()()()()

 そんな感じがする。


「じゃ、次。物資の回収、だな」


 キーボードを叩いて、カートの中に物資を積んでいく。

 一応、なるべく腐りやすいものを中心に確保して、後はこの辺りの生存者のために残しておいたつもりだった。

 案外、それで永らえる命もあるかもしれない。


 僕は、帰還予定の場所を念のため近所の空き家に設定し、そこでいったん、マッチョたちの観察を中断した。



 物資回収作業も、一段落。

 今夜の僕にはまだ、やるべきことが山ほど残っている。

 少し疲れていたが、……他ならぬ、自分の命が掛かっているのだ。残業もやむを得まい。


 その後、岩田さんのノートを精査したところ、


『実績報酬について。

 我々”プレイヤー”は、人助けしたり、ゾンビを殺したり、その他様々な行動を取ることにより、”実績報酬”と呼ばれる特別なアイテムを獲得することができる。』


 という情報が得られたためだ。

 ゲーム的に語るなら、『クエスト報酬』『ミッション報酬』とでも呼ぶべきものだろうか。


――特別なアイテム、か。


 にわかには信じがたい。

 実際この機能、岩田さんのヒントがなければ、ずっと放置していた可能性もあっただろう。


――だが。


 なんとなくそれ、アリスの考えそうなこと、ではある。

 あくまでなんとなく、ではあるが。


 なお、現時点で僕が取得した”実績”は、以下の七つだ。


――”人殺し”

――”ターミネーター”

――”はじめての安全地帯”

――”修復”

――”死後の善行”

――”神域へ到る一歩”

――”ジャイアントキリング”


「結構、溜め込んでしまったな」


 自嘲気味に笑う。夏休みの宿題を前にした気分だ。


「ええと……なんだっけ。『実績報酬を獲得する』……と、言えばいいのかな?」


 呟くと、


――実績“人殺し”の報酬を選んでください。

――1、聖剣エクスカリバー

――2、アルテミスの弓

――3、グングニルの槍


 という、アリスの声が聞こえてきた。


「よし。ノートの情報通りだな」


 ありがとう、岩田さん。

 改めて、彼女に感謝しておく。


「しかし、……エクスカリバーにアルテミス、グングニル、か」


 いかにも、強力無比な武器シリーズ、って感じのラインナップだ。

 とはいえ僕は、その効果が期待外れであることを知っている。


 岩田さんのノート(攻略本)に、


『悪事によって得られた報酬は、悪ふざけの産物みたいなものが多い』


 という一文があったためだ。


 実際、その効果を確認したところ、


――“聖剣エクスカリバー”は、アーサー王が持つとされる魔法の剣……を模したミニチュア。十分の一スケール。プラスティック製。

――“アルテミスの弓”は、狩猟の女神アルテミスが使ったとされる弓……を模したミニチュア。十分の一スケール。木製。

――“グングニルの槍”は、戦争と死の神オーディンが手にしたとされる槍……を模したミニチュア。十分の一スケール。塩化ビニール製。


 とのこと。


「……”人殺し”の報酬だと、こんなものか」


 嘆息しつつ、”グングニルの槍(塩化ビニール製)”の獲得を選ぶ。

 すると、どうだろう。


――では、アイテムを支給します。


 という声と共に、何もない空間から、ぽいっと一本の槍のミニチュアが出現した。


「へえ。こんな風に現れるのか」


 終末が訪れてのち、不思議なものをたくさん見てきたつもりだったが……この現象もその一つ。


 何となく、弟を蘇生した日のことが思い出された。

 あの時も、唐突にAmazonのロゴ入り段ボールが出現したのだったな。


 僕は、しばらくその玩具の出来を観察したのち、


「って、遊んでる場合か。……次、”ターミネーター”の報酬を」


 と、呟く。


――1、レベルだま

――2、スキルだま(格闘技術)

――3、スキルだま(魔術)


 ほう。


「では、効果を」


――“レベルだま”には、割ることで即座に次のレベルに上昇する効果があります。

――“スキルだま(格闘技術)”には、割ることで五分間《格闘技術(強)》《必殺技Ⅰ》のスキルを得る効果があります。

――“スキルだま(魔術)”は、割ることで五分間《火系魔法Ⅴ》《水系魔法Ⅴ》《雷系魔法Ⅳ》のスキルを得る効果があります。


 あー、こういうタイプか。

 一時的にかなり強くなるアイテムと、恒久的に少し強くなるアイテム。


「いつもの僕なら、”レベルだま”を選ぶところだが……」


 今は、いつ少女たちの襲撃を受けるかわからない。

 いったん保留が正解だな、これは。


「そんじゃ次、行ってみようか」


 選ぶべき報酬は、あと五つ。


 これが、一話二~三千文字の連載小説なら、この作業だけで二話分はかかるな。たぶん。


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