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その53 徹夜作業

 ……と、言うわけで。

 あーでもない、こーでもないと言い合う亮平たちに背を向け、僕は豪姫を、そっとホームセンター屋上に繋がる扉へ向かわせる。

 重たい鉄扉を開けると、月夜に照らされた、室外機がずらりと並ぶ空間に出た。元々は従業員以外立ち入り禁止だったところだろう。


「――……敵は……少なくとも、ここからは見えんな」


 街は、死んだようだった。

 ”ゾンビ”を恐れてか、どの家庭も明かりを嫌っていることがわかる。

 耳を澄ませば、遠く、連中のうなり声が風に乗って聞こえていた。


 僕は、恐らく休憩用に使われていた灰皿やベンチが並んでいるスペースに移動し、さっと岩田さんのノートに火を点ける。

 無論、証拠隠滅のためだ。


 なお、その内容はちゃんと、データ保存してある。

 ……いや、保存してあることについさっき気が付いた、と言うべきか。

 というのも、いま起動した録画用のアプリケーションがつけっぱなしになっていたのだ。

 ということでもう、ノートの内容を記憶する必要はない。すでに我がゲーミングPCのハードディスク内に高画質保存されている。


――余裕ができたら、先ほど行った戦闘についての検証も行わなければ。


 念入りにノートを灰にした僕はまず、嘆息混じりに、


「《死人操作Ⅵ》を取得する」


 この選択、あるいは優希たちを探索するに都合の良い能力を期待してのことだ。


――僕の場合どうも、戦力の増強したくとも運任せになりがちなのがな。


 と、ゲームの仕様に愚痴を言っても仕方ない。配られたカードで勝負するだけだ。


『《死人操作Ⅵ》を確認。新たな能力がアンロックされます。

・操作する”ゾンビ”が射撃する際のぶれが大きく減少します。

・移動指示を出した”ゾンビ”に、

 ”掃討”:指定した建物と、その付近に存在する敵を自動的に駆除します。

 ”回収”:指定した建物の物資を、持てる限り回収します。取得する物資は、優先度を設定できます。

 以上、二つのモードを追加しました。』


「……む。そうきたか……」


 前回が盛りだくさんだっただけに、ちょっといまいちなラインナップ。物資回収を自動化できるのには助かるが。

 特定のスキルばかり取り過ぎたせいか、少しピーキーすぎる能力がアンロックされた形だ。


――さて。残る二つのスキルは今後、どうしたものかな。


 このまま《死人操作》を強化してもいいし、《武器作成》を取ってもよい。

 あるいは、岩田さんのノートに書かれていた、《治癒魔法》を目指すべきかも。

 確かノートには、《自然治癒(強)》が《治癒魔法》を手に入れる条件だったと書かれていたが。

 それか、もしくは……、《飢餓耐性》を限度いっぱいまで取って、魔力の消耗を最小限度に抑えるべきかもしれない。


「うーむ………」


 この辺はゲームと同じで、どれ選んでもメリットとデメリットが発生してしまうな。

 正直こういう場合、「これだ」という普遍的な正解がないのが難しいところ。


 僕は大きく深呼吸して、――とりあえず、問題を先送りにする。

 スキルの取得は後戻りできない。

 方針は、慎重に決めた方が良い。


 とりあえず豪姫を狙撃を受けないスペースにまで移動させ、マップ機能を起動。

 所沢市内の状況は、……まあ、当たり前かもしれないが、先ほどチェックした時と大きく変わっていない。

 ”ゾンビ”どもはどうやら、なんとなく群れになる傾向にあるらしい。

 僕はいくつか、”ゾンビ”どもが群れになっているところを順番に触れていって、


「さすがに優希たち、この辺に逃げ込んでいないだろうな……」


 と、眉をひそめた。

 ありえない話ではない。

 だが、そこまで可能性を広げて考えても仕方がなかった。弟にはああ言ったが、僕にできることは、彼女たちの目的地である我が家を中心に、”ゾンビ”どもを可能な限り殲滅しておくくらいのことだ。

 もちろん、それでも十分、助けにはなっているはずだが……。


 僕はひとまず、”サクラ”と”ミント”に移動指示を出し、”追撃”モードにして、周辺の孤立した”ゾンビ”の狩りを命じておく。

 そして、しばらく放置していた”マッチョ”と”ツバキ”の二人の動向をチェック。

 一応、二人のダメージをチェックしてみたところ、


「……ふむ」


 ”マッチョ”に、ひっかき傷がいくつか。

 ”ツバキ”の方はほぼ無傷か。


 どうやら”ゾンビ”たち、放っておいてもそこそこ戦ってくれるらしいな。

 とはいえこれは、道中にいたまばらな”ゾンビ”たちを相手にした結果にすぎない。

 重要な検証となるのは、――これからだ。

 まず、遠征させている”ゾンビ”二匹の前にあるローソンを指定。

 そして”マッチョ”を”掃討”モードにする。

 敵の数はみたところ、十八匹ほどだろうか。

 武装は、父が愛用していたゴルフクラブを使わせてもらっている。


「よーしマッチョくん。がんばれ」


 PC前にて人知れず応援しながら、”ツバキ”視点にて彼の活躍を祈る。

 もし、このまま放置していても”ゾンビ”どもを駆逐できるようなら、今後の探索がかなり楽になるのだが。


『うううううううう…………?』


 こちらに気がついた”ゾンビ”が一匹が、よた、よた、という足取りでこちらに近づいてきている。台詞をつけるなら、「あれ? おまえ、敵? 味方? どっちなん?」という具合だろうか。連中、こちらほどには夜目が利かないらしい。


――物資を回収させるなら、夜か。


 と、学びを得た辺りで、


『うがああああああああああああああああああああッ!』


 マッチョくんのフルスイングが、”ゾンビ”の脳天を粉砕する。

 僕は、いちごジャムパンに噛みつきながら、ぼんやりとそれを観察していた。

 同時に、周囲にいる”ゾンビ”たちが皆、こちらの存在に気付く。


『がうっ、がうっ、がうっ!』

『きぃいいいあああああ!』


 知性の感じられない、動物めいた怒号が飛び交う。たちまちローソン前にて、”ゾンビ”同士の殺し合いが始まった。


「二人とも、頼んだぞ」


 無事、物資を持ち帰ってくれ。

 僕はからあげクンのファンなのだ。

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