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その51 ペットショップ

『ちょwwwwwぽまいら、もちつけwwww自重汁wwwww』


 という、声。

 同時に、『きゃんきゃんきゃんっ』と、小動物的な何かが吠えた。


『ドゥフフフwwwwwくすぐったい、くすぐったいってwwwwww』


 とりあえず弟の声色から、状況がさほど深刻ではないことだけはわかった。

 ただ、安易に草を生やすような真似は感心しない。

 ネットスラングは、慎重に場の空気を読んだ上で使わなければ。


 暗闇の中、ホームセンター二階を覗き込む、と。


『なになになになに?』

『ふわぁあああああ……、ど、どーしたの?』


 少し遅れて、かさねさんと早苗さんが、僕に続いた。


『ああ、失礼。みなさんご心配なく……大した問題ではっ……うわ、ちょっとwwwwwアマガミwwwwやめーいwwwww』


 そこで、早苗さんが携帯用のカンテラで辺りを照らす。

 同時に、


『わあああああっ』


 女子二人の歓声が上がった。

 そこに見えたのは、……亮平の周りを元気よく走り回る、仔犬たちの姿だ。


『きゃんきゃんきゃんっ。うーっ……』


 マルチーズ(五十万円♂)にトイプードル(六十万円♀)、柴犬(三十万円♂)にポメラニアン(六十五万円♂)、チワワ(四十万円♂)、ミニチュア・シュナウザー(四十五万円♀)。それとミックス犬(平均三十万円前後)が数匹。

 その時は気付かなかったのだが、マンチカン(五十二万円♂)やペルシャ猫(三十五万円♀)、スコティッシュフォールド(三十五万円♀)を始めとする子猫たちも遠巻きにこちらを眺めていたらしい。


 生後一ヶ月かそこらだろうか。

 そこにいたのは、軽く片手に乗りそうなサイズの小型動物ばかり。


『ちょwwwwすっごいwwwwwふかふかするwwwww』


 口では厭がりながらも、弟はその場で大の字になり、わんこたちの無力な攻撃を甘んじて受け入れている。

 控えめに言って、ペット好きが見る夢のような状況だった。


『なにこの子たちーっ! うそ、かわいい! すごい! すき!』

『ほーれほれほれほれほれ! どしたのみんな? こわかったんかー? なんもこわくないよー?』


 さっそく早苗さんとかさねさんが身近な仔犬を抱きかかえ、お腹の辺りを重点的にわしゃわしゃし始める。


『どういうことだ、これは』


 豪姫の口を借りて、弟に問いただすと、


『岩田さん、どうやらこいつらと暮らしてたみたいでさ。さっきちょっとけつまずいて、ペット用の鉄柵を倒しちまったんよ。んで、このザマ』

『そうか』


 二階にペットショップが入っていることには気がついていたが……まさかこんなことになっていたとは。


「岩田さん、きっと、……こいつらを護りたかったんだな」


 独り言ちて、さすがに少し哀しくなる。

 悪いことをした、とは思わない。

 だが、護るべきものがあるなら、彼女はもっと、別の選択肢を選ぶべきだったのではないか。


『ところで、あに……カリバちゃん』

『なんだ』


 亮平は、急に声を潜めて、


『さっき見つけた。読んでくれ。岩田さんからのメッセージがある』


 差し出されたのは、ずいぶんと使い込まれた一冊のノートだった。

 その表紙には、マジックペンで『カリバゴウキへ』と書き殴られている。


「……?」


 暗闇の中、ぺらぺらとノートを捲っていく……と。

 その内容は、


『最初に私が駆け込んだのは、百均のコンビニで……。』

『避難民同士の争いが……。』

『その時、私の頭の中にも、不思議な声が聞こえていて……。』

『殺した、殺した、殺した、殺した! 私は人殺しだ……。』

『誰か助けて。神様、神様……。』


 エトセトラ、エトセトラ。


 とある1ページなどは、『死にたい』という文字がびっしりと書き込まれていたりなどしている。実際にその人を殺めた身としては、かなり複雑な気分だ。


 とはいえその内容の多くは、斜め読みで十分だった。すでに岩田さん本人から聞いた話の繰り返しだったためである。

 重要だったのは、彼女がコンビニを去った後に関する記述だ。


「む。これは………ッ」


 目を剥いて、モニター上に表示されているその内容を読む。

 そこには、これまで取得したスキルに関する情報と、彼女なりの考察がびっしりと書き込まれていたのである。


 その内容から推測するに、



ジョブ:魔法使い

 レベル:16

 《短剣の扱い(初級)》、《自然治癒(強)》、《皮膚強化》、《飢餓耐性(強)》、《火系魔法Ⅰ~Ⅳ》、《治癒魔法Ⅰ~Ⅲ》、《魔力制御Ⅰ》』



 以上が、彼女の能力の全てだったようだ。


『恐らくジョブチェンジが可能になる条件は、レベル15以上になること。それとどうやら、”カルマ”なるものが職業選択に影響を与えるみたい。』

『私は、生き残るためにひどいことばかりしてきた。だから、……盗賊とか暗殺者とか、そういうジョブしか選択肢になかったんだと思う。』


 その情報は僕にとって、今後の指針を大きく変えてしまうほど有用な情報だった。

 彼女の選択肢にあったジョブは四種類あって、


――“盗賊”は、人のものを盗み取ることに特化した専門職です。身を隠すことに秀でたスキルが多く、かがむことで半透明になることが可能になります。

――“暗殺者”は、暗殺に特化した戦闘職です。刃物を主軸に扱うスキルが多く、攻撃した相手を低確率で即死させます。

――“魔法使い”は、攻撃系の魔法に特化した戦闘職です。魔法攻撃の威力にボーナスがつき、また、魔法の使用による魔力の減少を抑制するスキルが充実しています。

――“奴隷使い”は、人間を“奴隷化”し、戦闘能力を強化することができる専門職です。


 とのこと。


 これを事前に知ることができたのは、とても大きい。

 何せこの四つのジョブ、……どれをとっても、僕にとってほとんど役に立たない可能性があったためだ。


 ただ一つだけ、”奴隷使い”というのは使える可能性はある、が。

 さすがにそんな、印象の悪い名前のジョブは選びたくなかった。


 まあ。

 とにかく。

 なんにせよ。


「ありがとう、――岩田さん。この情報、きっと有意義に活用させてもらう」


 両の手を合わせて、こう思う。


――これはあくまで、結果論だが。


 彼女を殺したのは正解であったな、と。

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