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その49 情報共有とレベル上げ

 かくかくしかじか、と。

 ざっくりとした現状を、弟に話し終えて。


『ちょっと待ってくれ。マジか』


 ただでさえ落ち込んでいるところに大量の情報を詰め込まれて、亮平は頭を抱えた。


『い、……岩田さん、死んじゃったのか』

『ああ。ころした。ぼくがころした』


 少なくとも、弟に責任逃れをするつもりはない。

 全てを嘘で覆い隠すにはリスクが高すぎるし、そもそも大したメリットがないためだ。


 ただ、一点。

 どうにも今日、僕は、人を殺しすぎている気がする。

 それが、弟の目にどうに映るか。


『……そうか』


 亮平はやはり、少し泣きそうな顔になって、


『それ、絶対に必要なこと、だったんだよな? 避けられなかったんだな?』

『ああ。せいとーぼうえいだ』

『正当防衛。……そうか』

『みんなへは、おまえから、はなしてくれ』

『わかってる』


 弟は、自分の役割を重々承知していた。

 同じ事実でも、誰の口から話されるかで印象は大きく違う。

 女たちを引き留めたければ、ヤツ自身の裁量に委ねるしかなかった。


『しかも、新しい敵、か。……どうも今朝とは、大きく状況が変わっちまったな』

『ああ』


 持てるだけの物資を手に入れ、今日中には戻ってくるつもりだったのだが、――人助けが絡むと、寄り道が増えて困る。

 ただ、その全てが無駄だとは思いたくなかった。

 僕たちの行動全てが無意味なら、その道程で奪った命の価値をも否定することになってしまう。

 英雄と呼ばれる人たちがその大義のために殉ずるのは、自分が奪った命への贖罪であるのかもしれない。……もちろん、僕がその領域に至るにはまだ、ほど遠いが。


『まとめてくれ。指示をくれ、兄貴。……これからの方針は?』


 以下、僕が入力したチャットの内容は、三つ。


・亮平と女たちは、しばらくこのホームセンターで過ごすこと。

・その間、ここを避難所に改良する。

・避難民の受け入れは積極的に行うこと。


『……それだけでいいのか? 他にもおれに、手伝えることはないのか?』

『なみきどおりに、ていさつにいく。そのとき、てつだってくれ』

『わかった』


 こういうと言い方が悪いかも知れないが、弟の存在は盾に使うことができるかもしれない。

 彼女たちがルールを守る限り、攻撃をためらわせることはできるはずだ。


『それと、カクゴしておいてくれ。イエにはしばらく、かえれない』

『……ああ』


 自らルールを宣言したのだ、連中が弟を脅したりする心配はないだろう。

 だが、尾行される危険はある。


『なるべくはやく、テキをたおす。それまで、がまんだ』

『優希と綴里の救出は、どうする?』

『ぼくが、てをうつ。しんぱいするな』

『わかった。信じたぜ』


 マウスを縦に振って頷く。

 もうこの時点で今夜は徹夜作業になることが確定していたが、不思議とまったく眠くなかった。むしろ奇妙な多幸感すらある。


『それと、みせのにかいを、たんさくしてくれ』

『店の二階……岩田さんが出入りしてたとこか』

『そうだ。なにか、やくにたつものが、あるかも』

『りょーかい。一時間後に報告する』

『たのむ』


 案外、僕はこの、命がけのゲームを楽しんでいるのかも知れない。

 アリスの思う壺なのが、どうにも尺だが。


 相談を終わらせた僕たちは、さっと便所を後にした。



 ポットでお湯を作りながら、我が家の見回り。

 念のため、全ての窓と全てのカーテンをぴっちりと閉めていくにしている。

 我が家は高い塀に囲まれているため、恐らくここまでしなくとも周囲の目に触れることはないだろうが、今度の相手は”プレイヤー”である。用心に越したことはない。


 全ての窓の点検を済ませた僕は、大量のクリープと砂糖をぶっこんだインスタントコーヒーを作って、口に含んだ。


「…………あまーいッ」


 コーヒーと同質量の脂肪が身につきそうな味だ。

 もちろん好みではないが、これもエネルギー補給に必要なこと。

 甘くなった舌を、辛めの味付けのスナック菓子で誤魔化しながら、僕はとりあえず、上がったレベルの処理を行うことにする。


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《死人操作Ⅵ》

――2、《拠点作成Ⅱ》

――3、《格闘技術(初級)》

――4、《飢餓耐性(中)》

――5、《魔法スキル選択へ》

――6、《自然治癒(弱)》


「――ん?」


 少し、眉をひそめた。

 魔法? なんだこれは。

 これも《拠点作成》と同じく、追加で派生した力、ということだろうか。


――では、取得する魔法スキルを選んでください。

――1、《火系魔法Ⅰ》

――2、《水系魔法Ⅰ》


「……効果を」


――《火系魔法Ⅰ》は、任意の呪文を唱えることで魔法を使えるようになります。

――《水系魔法Ⅰ》は、任意の呪文を唱えることで魔法を使えるようになります。


 なるほど、と、コーヒーカップを持ったまま手を打ちそうになる。

 岩田さんが使っていた術は、こうして憶えたのか。

 《火の一番》~《火の四番》。

 これがそのまま、《火系魔法Ⅰ》~《火系魔法Ⅳ》に当てはまるのであれば。


《火系魔法Ⅰ》……たぶん三番と組み合わせて、武器に火の力を付与する魔法。

《火系魔法Ⅱ》……火球を投げる。火球は”ゾンビ”の身体を焦げさせる程度の威力。

《火系魔法Ⅲ》……謎が多い。火の力を武器に付与する?

《火系魔法Ⅳ》……手から強力な火炎放射。


 と、こうなるわけか。

 この分だと、水系の魔法もこれに似た能力なのだろうか? だとすると、あまり強くなさそうだが。


「……なんにせよ、僕の場合はほとんど必要のないスキルだな」


 我が家は木造の洋風建築である。火事を起こすわけにはいかない。


 僕はとりあえず、手元のコーヒーをごくごくと一気飲みにして、……ちょっぴり、考えを整理した。

 そして高台から飛び降りるくらいの気持ちで、こう宣言する。


「《拠点作成Ⅱ》を、習得します」


 そうした理由はいくつかある。

 まず、停電に恐れながらPCを操作するのが不安なこと。

 そしてもう一つ。――いっそ、屋根の上にある太陽光発電システムを取り外してしまおうという目論見があったためだ。

 正直あの、ソーラーパネルは目立ちすぎる。

 ひょっとすると、それ目当てに妙な輩に絡まれないとも限らない。

 そうなると最低限、生活に必要な電力の確保が必要だった。


 さて、どうなる……?


――拠点『先光家・邸宅』の性能が向上します。

――拠点内の電力が強化されました。(20Aまで)

――拠点内に留まることで回復する魔力量が、少しだけ増加しました。

――拠点内に留まる仲間を登録可能になりました(3人まで)

――拠点内にいる仲間は、位置情報を共有します。


「……ふむふむ」


 まあ、おおよそ想定通りだな。

 魔力の自動回復量が増えたのは思わぬ僥倖、といったところか。

 と、油断していた僕が真に驚かされたのは、次に解放されたスキルを知った時であった。


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《死人操作Ⅵ》

――2、《拠点作成Ⅲ》

――3、《武器作成(初級)》

――4、《格闘技術(初級)》

――5、《飢餓耐性(中)》

――6、《魔法スキル選択へ》

――7、《自然治癒(弱)》


「武器、作成だと?」


 恐らく、《拠点作成Ⅱ》の取得がトリガーとなって出現したものだろうが。


――平均的にスキルを取得していくと、こういうメリットもあるのか。


 それにしても、……これ、あるいは。

 本格的に、亮平をホームセンターに向かわせた理由がなくなるかもしれない。

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