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その47 ルール

 無線機の先の少女はさらに、一方的に告げた。


『ルールその1!

 人殺しはNG!


 ルールその2!

 先にチーム・リーダーの居場所を見つけて、攻撃した方が勝ちっ!


 ルールそのしゃん!

 降参した相手に攻撃しちゃダメ!


 ルールその4!

 普通の人を困らせるような作戦も、NG!』


 『いえーい! ひゅーひゅー』と、腰を振って踊るミソラさん。

 僕はというと、思い切り眉をしかめながら、この情報を吟味していた。

 ひとつひとつ言葉を選びつつ、慎重にキーボードを打って。

 僕が操作する豪姫が、口を開く。


『まけたら、どうなる?』

『所沢の縄張りを得る! つまり敗者は、ここから去るワケ! 以上!』

『……………………』


 つまりその場合、自動的に僕は死ぬことになる訳だが。

 とはいえ、それについてここで話す訳にもいかなかった。わざわざ敵に弱点を教えてやる理由はない。


『ルール4の、かくにんだが。……おとうとをおどして、ぼくのいばしょをききだす、とか……』

『それはしない! 紳士協定ってやつね!』


 確かに、もしそれをするならば、こちらも考えがある。

 こちらはいつでも、並木通りにいる避難民を攻撃することができるから。

 恐らく無線機の先にいる少女が口にした”ルール”とやらは、それをさせないための制限なのだろう。


――こいつら要するに、……敵を安全に排除したいわけか。


 なるほど、そこそこ公平な取引だ。

 とはいえまだ、向こうに有利な点があることは否めない。

 僕は少し考えて、――


『ルールその5。ゾンビどものしゅうげきのときは、きょうりょくしあう』


 念のため、このルールを提案しておく。


『それと、かったほうに、じょうけんをくわえたい。

 もし、なにかのトラブルで、シニンがでたバアイ、そいつのナカマの、めんどうをみる……』

『仲間? 仲間の面倒? だれ?』


 ミソラさんが不思議そうに首を傾げるので、


『おとうと、おんな3にん』

『ああ、にゃーるほど。……つまり、あたしにとっての……パパ、ママとか?』

『うん』


 少なくとも、彼女には両親がいるらしい。


『ふーん。……あたしはどっちでもいいけど。どーする、カナデちゃん?』

『……あちしも……どっちでもいい』


 どうやら、譲歩を引き出せたようだ。

 これでいい。

 これで今後、何かの理由で僕が死んだとしても、弟たちの安全は確保できるだろう。


『じゃ、きまりだな』


 彼女たちが持っている情報は、十分に引き出すことができた。

 どうもこの娘たち、僕のことを知っているようで、――それほど多くは知らないらしい。

 だいたい、こちらの正体と弱点を知っているのであれば、わざわざこのような条件を持ち出す必要もない。我が家を発見次第、建物を破壊してしまえば事足りる。


――なんとなく不気味なやつ。

――自分たちの暮らしを邪魔するやつ。

――さっさと縄張りから追い出したい。


 僕に関しては、その程度の印象なのだろう。


――では、状況によっては和解もありえるな。


 全体的に茶番じみたルールの提案を聞けばわかる。

 彼女たち、とにかくリスクを背負いたくないのだ。


『で、いつ、はじめる?』

『もうはじまってるよ! やろう、やろう! いますぐ!』


 満面の笑みで彼女が取り出したのは、――なんと、デパートのおもちゃ屋売り場なんかで売っている、市販の変身ステッキであった。

 どうも、それが彼女の使う武器らしい。


『いや、やらない。あすのひるまで、えんきだ』

『えーっ』


 ミソラさんが目を丸くして、ステッキをぶんぶんと振り回す。


『あたりまえだ。なかまに、せつめいする、ひつようがある』

『そんなぁ』

『ルールその4、だろ』

『むう』


 無線の先の少女は、ここにもあっさり譲歩した。


『んー。まあ、筋は通ってるでし。ミソラ、今日のところは』

『…………………』

『ルール違反は”悪”でしよ』

『しゃーないなあ』


 よし。

 これでとりあえず、岩田さんとココアを弔うことはできそうだな。


『とにかく。そっちもちゃんと、ルールは守ってよネ』

『そっちこそ』


 一応、脅しをかけるべきか。

 ……いや。

 彼女たちが遊び半分なのであれば、わざわざ本気にさせる必要もあるまい。


『では、でていけ。いますぐ、でていけ』



 闇夜においてもひどく目立つ、――ミソラの後ろ姿を見送って。

 僕は道路の真ん中で大の字になっているココアの死体を検分する。


「額に弾痕が一発。……まさか、銃火器を持っているヤツがいるのか」


 あの瞬間、少なくとも道路上に人影はなかったはずだから……つまり、狙撃手がいたということか。

 こんなにも銃の所有に厳しい国に、狙撃手(スナイパー)か。

 だが、ありえない話ではない。

 アリスは以前、このように言っていた。


――一人は”射手”、一人は”魔法使い”、一人は”剣闘士”の才能があった。


 と。

 たぶんこれはその、”射手”の才能があるとかいうやつの仕業に違いない。

 僕は、……結局、本名すらわからなかった女性の遺体の前で両手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と唱える。


「すまない、ココア。僕がもっとしっかりしていれば……」


 連中との会話中、内心ずっと、腹に据えかねていた。

 ミソラたちに取ってココアは、ただ一匹の”ゾンビ”に過ぎなかったかもしれないが……。


「いずれ、何らかの形で……代償を支払ってもらうぞ」


 僕にとってこの娘は、大切な仲間だった。


 それは、ある種のごっこ遊びに過ぎないのかもしれないけれど。

 僕は、彼女たちを愛しているのだ。


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