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その39 《死人操作Ⅴ》

 屍山血河を築いた日の夕食としては、亮平たちは実に楽しく過ごすことができたと思う。

 あるいは全員、無理にでも笑わなければいけないところまで追い詰められていたのかも知れない。


『――ねえねえ、ごうきちゃん!』

『――あのあの、ごうきちゃん?』

『――えーっと……ごうき、ちゃん?』


 それにしても、たびたび豪姫に話を振られるのには困った。

 こちらから、女たちに話しかけることはできない。

 いずれその日が来るとしても、いまはその時ではない。


『す……すんませんねー。彼女、ほーんと人見知りで……!』


 亮平のフォローがなければ、さぞかし怪しまれたことだろう。



 今のところ、亮平に心的外傷の症状が見られないのは幸いだった。


 心の折れた人間は、――場合によっては重傷者よりも始末が悪い時がある。物理的なダメージに対して、精神のダメージは時に、仲間へと伝染する場合があるためだ。


 みんなはその後、それぞれホームセンターで手に入るものの中では最高級のテントを与えられ、美春さんたちは一階、岩田さんは二階、亮平のみ従業員用の休憩室という割り当てで就寝している。

 ちなみに、時刻はまだ七時過ぎ。

 目をつぶってはいるが、ちゃんと眠れている者は少ないだろう。


 僕は、休憩室に隣接した喫煙所の堅いソファに豪姫を座らせて、


――できれば僕も一杯、やりたいところだが。


 などと思いながら一人、熱い紅茶を飲んでいる。

 さすがにこの状況、安易にアルコールへ逃げるわけにはいかなかった。今抱えているストレスの回復を丸ごとアルコールに頼ってしまったら、依存症への第一歩な気がする。


 災害時におけるストレス・マネジメントは非常に重要だ。

 ストレスというのは、生活上の刺激に対する精神の適応反応である。これは平時にも常に起こっており、コップの中に水を注ぐように、少しずつ溜まっていく。

 ストレスに対し、過度な忍耐を試みてはいけない。それではやがて、コップから水が溢れてしまう。大切なのは、時々コップの中の水を捨ててやることだ。


 その手段は人それぞれだが、――僕の場合は主に、熱いシャワー、あるいは自宅の環境改善、掃除、瞑想などによる。

 シャワーは今どき贅沢にもほどがあるし、PCの前を離れるわけにもいかない。

 と言うわけで僕は、ゲーミングチェアの上で座禅を組み、しばしの瞑想を愉しんでいた。


 殺しの場面が何度もフラッシュバックする頭の中を整理しながら、ゆっくりと心を落ち着けていく。

 そうして気力の充実を待ってから、……ようやく、レベルアップ作業を始めた。


「よし。……やるか」


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《死人操作Ⅴ》

――2、《拠点作成Ⅱ》

――3、《格闘技術(初級)》

――4、《飢餓耐性(弱)》

――5、《自然治癒(弱)》


 相変わらず、僕には選択肢が三つしかない。


 《死人操作》

 《拠点作成》

 《飢餓耐性》


 このどれかだ。


 できればさっさと《死人操作》をカンストしてしまいたいが、――アリスの言葉によると「面白くなるのはこれから」とのこと。

 まだまだ先は長そうだな。


 ということで、次に取得するスキルを決定。

 ただその前に一つ、試しておきたいことがあった。


 PCにあらかじめ保存しておいた、画面録画用のアプリケーションを起動しておくのだ。

 こうすることにより、”ゾンビ”たちの細かな性能の変化に気づくことができるはず。


「……ではまず、《死人操作Ⅴ》から」


 すると、僕のPCがまた、何かを”読み込んだ”感じがして、


『《死人操作Ⅴ》を確認。新たな能力がアンロックされます。

・操作する”ゾンビ”の自然治癒力が上昇しました(人間と同程度)。

・操作する”ゾンビ”の夜間における視力が向上しました。

・”ゾンビ”のステータス参照が可能になりました。

・”ゾンビ”のインベントリ参照が可能になりました。

・マップ機能から、待機状態の”ゾンビ”へ移動指示が可能になりました。

 (対象を左クリック→移動先を右クリック)

・なお、移動指示を出した”ゾンビ”には、

 ”移動”:指定地点への移動のみを行う。攻撃も反撃も行わない。

 ”追撃”:移動中、敵性生命体を発見すると、その撃破を最優先に行動する。

 ”巡回”:指定した地点と現在位置を往復する。敵発見時にアラートが鳴る。

 以上、三つのモードが存在します。』


 ……ふむ。

 ステータスを参照する機能、か。

 画面をよく確かめると、画面の端っこに、『F1:ステータス』『F2:インベントリ』という新しい項目が追加されている。

 早速F1キーを入力すると、その個体の名前入力画面が現れた。

 そこに、『かりば ごうき』と入力すると、以下のような文面が表示される。


なまえ:かりば ごうき

レベル:3

HP:13

MP:3

こうげき:38

ぼうぎょ:12

まりょく:5

すばやさ:13

こううん:0


「レベル、3……」


 レベルアップ要素は、使役下の”ゾンビ”たちにもあったのか。

 言われてみれば、最初に使った警官”ゾンビ”よりも、豪姫は実に扱いやすい。


 さらにもう一点。移動指示というのもなかなか興味深い機能だ。

 これまで”ゾンビ”の移動はいちいち自ら操作しなくてはならず、それ故に多人数の運用をうまく活用できなかったが、これからはまた違った戦略を試せそうだ。


 僕は試しに、周辺に敵がいないことを確認してから、――”ココア”と名付けた女性の”ゾンビ”をクロスロード付近にまで移動させておく。万が一、豪姫が使えなくなった時のための予備だ。


 その後、”マッチョ”と”ツバキ”を試しに、少し離れたコンビニへ派遣。

 こちらは道中、数は少ないが”ゾンビ”との戦闘が予想された。自動戦闘のテストもしておきたい。一応、モードは”追撃”にしておく。


「……よし」


 そこまで、とりあえず作業を済ませて。


 次はどのスキルをとろうかなと思っていると……、


 こんこん、と、PCからノックの音。

 見ると、豪姫、……を、訊ねて来た訳ではなく、休憩室にいる弟に訪問者がいるようだった。

 こちらは休憩室の薄い壁一枚隔てた場所にいるため、音が漏れ聞こえているらしい。


『……ふぁい。どなた?』


 早くも寝入っていたのか、ぼんやりした弟の声が聞こえる。

 そして、がちゃりと扉が開く音。

 その先にいたのは、どうやら――


『空良美春だ。夜分、すまない』

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