表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

297/300

その295 不気味

 それから先は……実に、自然に。


「それじゃ、手をこう……ひらがなの“つ”みたいなマークにして」

「うん、うん」

「そして……こう、組み合わせると……ハートマークのできあがり!」

「わあい!」

「はい! ユウジョウ!」

「ユウジョウ!」

「ふふふふふ」


 友人関係が築かれていく。

 それは、あらかじめ運命に導かれていたかのように……まるで、何かの台本に従っているみたいに。


 二人は“親友”となった。


――…………。


 僕はその手際の良さに、少し気味の悪いものを感じている。

 たぶんだが……この、ヒカリさんっていう娘も……。


――『J,K,Project』のキャラクターか。


 となると彼女、“バグ”を引き起こす可能性があるのか?


 ……ああいや、それはないか。

 たしか、“バグ”は“プレイヤー”としての能力が関係しているとか、――アリスがそんな話をしていた気がする。

 で、あれば、普通人である彼女は“バグ”らないはず。


「最歩ちゃん、おもしろー! なんか、初対面じゃないみたい」

「うふふふふ。私、あなたの趣味を言い当てることだってできますよ」

「えーっ? なにー?」

「人間観察。――特に、“プレイヤー”かどうかを見抜くのが得意。でしょ?」

「そうそう! すごーい!」


 けらけらと、無邪気に笑うヒカリさん。


「そういえば、ずっと気になってたことがあるんですけど」

「なーに?」

「ヒカリさんって、好きな男の人、いるの?」

「え?」

「その辺、界隈でもちょっと議論の的でして。“ヒカ×獄”とか“ヒカ×偽”とか、“ヒカ×黒”とか……ファンアートも統一されてないんですよね。なのでその辺、ここいらで結論を出していただきたい」

「えーっとぉ」

「どうか、想い人の名前を、ひとつ。その一言で救われる推しがいるんです」

「…………いや、べつに……」

「別に?」

「別に、今は特定の相手はいないけど」

「なんと」

「私、死んだ元カレのこと、忘れてないんだよね。だからしょーじき、新しい恋はまだ、先で良いかなって」

「元カレ? えっ。ヒカリさん、彼氏が?」

「うん。――言ってなかったっけ。いま“中央府”で、殺人事件があったって。それに巻き込まれちゃったらしくてさ」

「ふーん」


 最歩はどこか、羽虫を口に入れたような顔をしている。

 「その情報、解釈違いだな」という言葉が聞こえてきそうな雰囲気だ。


「……ま、いいや。その“元カレ”は、間違いなくお亡くなりになっているんですか?」

「写真を見たかぎり、多分ね。一応、直接確認する必要があるらしいんだけど」

「なるほどぉ」


 最歩はぽんと手を打って、


「――ま、その件に関してはいいや」


 と、あっさり納得した。

 そして、ちらちらとこちらに目線を送り、


「時に、灰……ミントちゃん」

「なんだ」

「一つ、二人っきりでお話ししたいことが」

「は?」


 二人っきりと言っても……無理だろ、こんな状況じゃ。

 個室といっても、便所しかない訳だし。


 僕の視線に気づいたのか、最歩は笑顔で頷いた。


「ではさっそく、あの個室へ」

「いや、ふざけるなよ」

「ふざけてなんかいませんよぉ。……私じつは、しんぼーたまらん感じなのです」

「おいおい」


 ゾンビと一線を越えようって言うのか。

 やっぱりこいつ、どうかしてるぞ。


「え~? なになに? 二人って、そーいうカンケーってこと?」


 と、はやし立てるヒカリさん。

 一部始終を聞いていたのか、乗務員さんが苦笑して、


「ひとつ、忠告させていただきますと。……当バス内での不純同性交遊は一切禁止とさせていただいておりますので」

「わかってます。わかってますよ」


 僕が慌てていると、――その時だった。


 ばりん! と、硝子が割れる音が聞こえたのは。


「え?」


 驚き……運転席に視線を送ると、バスの運転手さんが、ばったりと倒れている。

 VRゴーグルのお陰で、すぐさま理解することが出来た。


――死んでる。


 額を、真っ直ぐに撃ち抜かれて。


 僕は、その場にいる誰よりも素早く動き、運転席へ急ぐ。

 とにかく、バスを停車させなければならない。そう思ったのだ。


 結論から言うとそれは、不要な行動であった。

 運転手さんはどうやら、死ぬ直前に急ブレーキを踏んでくれていたらしい。

 バスはゆっくりと減速し……ごく自然に、高速道路の真ん中に停車した。


 そして、一拍遅れて。


「きゃああああああああああああああああああああああああああ!」


 真田さん(母)が、絹を裂くような悲鳴を上げた。


「全員、頭を下げて! その場に伏せてください!」


 最歩がどこか、楽しそうに叫ぶ。

 楽しいお祭りが始まった。そう言わんばかりに。


 僕は、運転席に走りかけた関係上、最歩と離れた席で頭を下げる。

 そしていったん、VRゴーグルを外し、Googleマップを参照。

 いつものように弾丸が飛んできた方向をチェックしつつ……、


「奏さん!」


 仲間に無線連絡。


『あい、あい。こっちでも見えたでし』

「位置は」

『進行方向。道路のド真ん中。たぶん、そっちからも視認可能でし』

「了解」

『どーする? こっからなら、一方的にやっつけれるけど』

「いや。君たちのことは、最歩に知られたくない。隠密行動を続けてくれ」

『ん』


 そして、無線を切る。


 どういう意図の敵かは知らないが……。

 やるしかない。


 VRゴーグルを装着し、


「最歩」


 叫ぶ。


「はいはいよっと♪」

「“ドアノブ”は少し待て。僕が単独で仕留める」

「りょうかいです。……うふふふふ♪」

「気色悪い声を出すな」

「ほんと、あなたって――カッコいいな。だいすき」


 だから。

 気色悪い声を、出さないでくれ。


 なんか怖いんだよ、こいつ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ