表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

270/300

その268 生ける魔王

――魔王が死亡しました。

――魔王が死亡しました。

――魔王が死亡しました。




 複数回にわたるその報告は、私の頭にも響き渡っていました。

 その、正直な感想としましては、


「……………………………………はあ?」


 と。


 んで、しばらくぼんやりして。

 ちょっぴり、自分の心臓の鼓動を確かめたりして。


 いやだって魔王って、私のことですし。

 私、めちゃくちゃ元気でしたし。


 ほっぺたをぎゅーっとつねって、夢ではないことを確信して。


「………………ええと。ゴーキちゃん」

『ん? なんだ』


 どうも彼女には、アリスのアナウンスが聞こえてなかったみたい。


「私、死んでるように見えまして?」

『はあ?』


 ゴーキちゃん、テラリウムの中から、じっと私を見上げて。


『観たとこ、健在には見えるけど。……だいたい、マスターが死んでたら、あたしも一緒に死んでるはずだし』

「そっかあ」


 と、いうことで。


「なんか、バグ多いなぁ。このゲーム……」


 そう呟きながら私は、アジトのキッチンに向かいます。

 アズサちゃんに、夕飯のおかずを聞こうと思ったので。


 けれどそこにいたのは、顔を真っ青に染めた、彼女の姿。


「あば……」

「――ん。どうしました?」

「あばばばばばばば……」


 なんだかアズサちゃん、ずいぶんと混乱しているみたい。

 そこで私、ぽんと手を打ちます。


「ひょっとして、魔王の件?」

「え? あ、うん……そんなとこ……」


 彼女、怯えるように顔をしかめて


「……いま、頭の中の、声が……いっぱい……飛び交ってて……ごめん。ちょっと混乱してる」


 そういえば彼女、“楼主”さんの奴隷になったんでしたっけ。

 “奴隷”になった人って、たしか、脳内で会話できるようになるんですわよね。


「大丈夫? なんなら、おっぱい揉みましょうか?」

「ああいえ、大丈夫……。揉まないで、大丈夫……必要、ない……」


 こころなしか、その返答にもキレがありません。


「そっち、どうなってます?」

「ええと……なんか、大騒ぎになってるって」

「え?」

「“勇者”さんが……いま、向こうで騒いでるみたい。『“終わらせるもの”に騙された!』って」

「???」

「どうも彼、嘘の情報を掴まされていたらしくって……」

「ふむ」


 なんか私の知らないところで、ヒミツのやり取りがあったのかな。


 うーむ。悔しい。

 これじゃあ私、蚊帳の外じゃないですか。


 人類の宿敵は、他ならぬ私なのですよ。もう。


「ところで、アズサさん」

「ん?」

「魔王死亡のアナウンスは――プレイヤー全員に聞こえているんですか?」

「うん。そうみたいね」


 ってことは、この状況。

 やっぱり、“バグ”ではないってことか。


――????


 それから私、ことの次第を推察していきます。

 とんとんとん、と、こめかみを指で叩いて。


――ええと……ってことは……。


 そして、一つの結論を導き出したのです。


 つまり。

 こういうことでしょうか。


 この世界にいる“魔王”は……私一人じゃなかった、と。


――うわ。めんどくさ。


 なんか、話変わってきましたよ。

 そーなると。



 …………と。

 それから、一夜明けて。

 今のとこ、目立った環境の変化はなし。


 “安息期”となったいまも、まだ世界には、大きな変化は起こっていないように思われました。


 私はというと、絶賛思い悩み中。


「ふーむ……そうなると……今後の私の、立ち回りは……」


 など、など。

 結論の出ない問いかけが、頭の中をぐるぐる回っていて。


「どうしよ」


 これはちょっぴり、アリスと話す必要がでてきたかもしれません。

 もともと、灰里さんのツテで話すつもりはあったのですが……ひょっとするとアリスには、私の正体についても白状する必要があるかも。


――そうなると……。


 すこし、面倒なことがあります。

 私の正体についての詳細は、なるべく誰にも知らせたくありません。


 特に、……灰里さんには、秘密にしておかなくちゃ。

 灰里さんは、――『J,K,Project』の中では、シャーロック・ホームズにも似たキャラクター属性を持つ御方。

 要するに……物語の中で提示された“謎”を解く役目を与えられた存在なのです。


 彼に対しては特に、妙な情報をばら撒く訳にはいきません。

 せっかくの“ゲーム”を、台無しにしたくありませんから。


 とにかく。

 今の私のミッションは……。


――なんとかして、アリスと二人きりにならなくちゃ。


 ってこと。


 でも私、場の流れを操作するとか、そーいうの苦手なんですのよねぇ。

 うまくやれれば良いんですけれど。


 ……などと、一人であれこれ思い悩んでいますと……ふと、


「ねえ、ちょっといい?」


 アズサちゃんが、声をかけてきました。


「――? どうしました?」

「なんか、奴隷仲間のみんなが、言ってるの。今朝あたりから、“楼主”さまの様子がおかしいって」

「おかしい?」

「うん。なんか、訳の分からないことばっかり、ずーっと話し続けてるみたいなの。いまにも、大暴れし始めそうで……ねえ、最歩ちゃん。――なんとかならないかしら」


 うげ。

 嫌な予感。


 これひょっとして、“楼主”さんまでバグっちゃってるってことかしら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 終末因子が召喚された分だけ魔王がいるのかな?でも最歩は獄卒終末因子持ってるぽいこと言ってたし違うのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ