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その23 拠点化

 亮平にとっては幸いなことに、――その後の道中はまあ、退屈しなかった。

 一応、助けた三人のキャラクターを解説するならば、


 空良(そら)美春(みはる)さん。

 長身、長髪の女性。

 ハーフを匂わせるくっきりとした目鼻立ちで、三人の中では最も艶麗な見た目をしている。先ほどの暴漢の狙いはほとんど、彼女の身体目当てだったに違いない。

 少し神経質な雰囲気があって僕の好みではないが、いかにも仕事ができそうな、自立した女性、という感じだ。こういう手合いを力尽くでモノにできるのであれば、男としてこれ以上の快楽はない……というのも、わからないでもない。同調はせんが。


 宝浄寺(ほうじょうじ)早苗さなえさん。

 三人の中ではムードメーカー的な存在らしい。実際、道中の会話はほとんど彼女が中心だった。

 早苗さんは、こんな状況下においても明るい話題を見つける天才で、二、三度は、豪姫越しに話を聞いていた僕までクスリとさせられたくらい。

 唯一、彼女のみ競技用の弓矢で武装していて、元々はアーチェリー部に所属していたらしい。


 不忍(しのばず)かさねさん。

 彼女について一言で表すならば、いわゆる”天然系”。

 かさねさんは、――正直に言って、この荒廃した世の中で生きていけるとはとても思えないほど、軟弱な女の子だった。

 決して我が儘を言ったりするわけではないのだが、ふと道中で立ち止まったかと思うと体力の限界に達していたり、傍らで倒れている動物の死骸に感情移入してぽろぽろ涙をこぼしたりしてしまう。

 美春さんと早苗さんの手助けがなければ正直、途中で見捨ててしまう手も考えたほど。それほどに彼女は、生きていくのが下手な人だ。


 と、こんな感じ。


――クール系にムードメーカー。それと天然系、か。


 あとはアレだな。お金持ちのお嬢様キャラが加われば、日常系ほのぼの4コマ漫画の主役級って感じだ。


『ねーねー! カリバさんはチョココロネ、どっちから食べる?』(早苗さん)

『……ぐるるる。がう』(豪姫)

『私は頭から、かな?』(美春さん)

『頭? チョココロネの頭ってどっちだー?』(早苗さん)

『そりゃ、太い方じゃあないかなぁ?』(かさねさん)

『え? 私、細い方からだと思ってたカモ』(早苗さん)

『…………あう、あう』(豪姫)

『ええーっ。どう考えても太い方でしょ』(かさねさん)

『そうか?』(美春さん)

『だってほら、芋虫だって太い方が頭でしょ?』(かさねさん)

『えーっ! かさね、アレを芋虫だと思って食べてたの!?』(早苗さん)

『ん? そだけど?』(かさねさん)

『いや、ないだろ。……カリバさんもそう思うよな?』(美春さん)

『がう、がう(よだれを垂らしながら)』(豪姫)

『……私、かさねよりエキセントリックな女子、初めてかも』(美春さん)


 ひょっとすると彼女たち、この地球上で最もどうでもいい話をしている四人組かもしれない。



 彼女らの会話を聞き流しつつ。

 当然、”プレイヤー”としてのレベル上げ作業も忘れていない。

 先ほどの戦闘で上がったレベルは、二つ。

 人殺し一つで、ずいぶんな稼ぎであった。

 あるいは、女子大生三人組の”感謝”が得点に含まれているのかもしれないが。


 何にせよ、このペースでレベル上げできるのであれば、少しはスキル選びも冒険していいかもしれない。


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《死人操作Ⅳ》

――2、《拠点作成Ⅰ》

――3、《格闘技術(初級)》

――4、《飢餓耐性(弱)》

――5、《自然治癒(弱)》


 ……と言うわけで、僕が次に選んだのは、《拠点作成Ⅰ》。

 どうもこのスキル、《死人操作Ⅰ》から派生した感じがする。

 ということはこれも、アリスが話していた”ユニークスキル”の一種である可能性があった。


――では、スキル効果を反映します。


 とりあえず、この《拠点作成Ⅰ》とやらの力を試してみるとするか。


「ええと。どうしたらいいのかな。……《拠点作成》しまーす……とか言うのか?」


 すると、それに応えるように、


――《拠点作成Ⅰ》を確認。

――現在滞在中の建物の”拠点化”を行いますか?


 と、アリスの返答が。

 もちろん、もはや永遠に我が家から出られない僕にとって、「ノー」という選択肢はない。


「ああ。頼むよ」


 するとどうだろう。

 《死人操作》と違って、はっきりと僕の身体に”変化した”という実感が生まれた。


「これは……!」


 鳥肌が立つ。

 うまく言えないが、――五感とは別にもう一つ、新たな知覚を得た感じがする。

 今の僕は、空間に触れることができている、というか。

 我が家全体を、自分の身体の延長であるかのように感じていた。

 正直、ちょっと気味が悪い。

 アリスの声は、続けてこう告げた。


――『先光家・邸宅』の拠点化に成功。

――今後、拠点内は通電されます。(10Aまで)

――拠点内に留まることで、徐々に”魔力”が回復します。

――拠点内への侵入者を、感知できるようになりました。


 大当たりだ。これには僕も「よし」とガッツポーズ。

 このスキル、欲しかった要素が全部含まれている。

 

 「”魔力”の回復」とやらがどの程度の効率かはわからないが、家が通電されるのは、生活の大きな助けになるだろう。


「……10Aというと、電子レンジが使えないくらいか」


 微妙に不便な感じなのは、多分スキルのレベルがⅠだからと見た。

 とはいえ、我が家には太陽光発電システムと蓄電池が実装されている。これと組み合わせれば、ほとんど普段通りの生活ができるだろう。


――と、なると、だ。


 僕は、弟から借りていたノートPCを脇にどけて、――ずっと置物になっていた自作のゲーミングPCを起動する。

 すると僕の相棒は、実に一週間ぶりに冷却ファンを回転させ、元気はつらつな姿を見せてくれた。


「おお……おお……っ!」


 なんだかそれだけで、少し泣きそうになる。

 日常が帰ってきた。そんな気がしている。

 これまでずっと、片腕でゲームをさせられているような気分だったから。


――だが、これからは違うぞ。


 百人の仲間を得た気分で僕は、アリスからもらったUSBフラッシュメモリを差し込む。

 ”ゲームチャンプ”の復活だ。

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