その246 たからもの
※ いよいよ元気になってきた私視点。
――君たちは、最初からずっと、“彼女”を殺すことが可能だった。それに気づいていないだけだ。
なんて。
謎かけにも似た“太陽”のヒントに「ウムムムム」と頭を捻っている、と……。
『…………ん。これ』
ゴーキちゃんが、とあるシロモノを発見したんです。
それは、部屋に飾ってあった、『無病息災』と書かれた額の裏。
急遽空けられた穴の中にあった、四角い箱のようなものでした。
「うわっ。ロコツに妖しいやつー」
私が声を上げると、
『単純な隠し場所だな』
「罠ではなくて?」
蓋を開けると、どかんと爆発……なんて。
『ありえるな。――が、もう一つ、可能性もある』
「なんです」
『ハンバーガーのやつが、日常的にこれを使っている可能性だ』
そう言ってゴーキちゃん、上から下から、箱を観察します。
それは――細い鉄骨を張り巡らせたコンクリート製の何かで、正直私には、まったくその用途がわかりません。
『んー……これは……』
「なにか、気づいたことが?」
『まだ、何も。ただこれ、簡単に壊れちまいそうだな』
それは、確かに。
その“箱”は、“箱”というにはかなり耐久性が低いように思えます。
細い鉄骨が張り巡らされてはいるものの、基礎構造がコンクリート製というのは、少し奇妙に思えます。
知っての通りコンクリートは、建築材としては優秀ですが、この手のサイズのものに使うのに適していません。
「うっかり床に落としたら、それだけで粉々になってしまいそう」
『だな』
ハンバーガーさん、なんでこんなものを。
『この手の妙な産物を見かけたら――その正体は、たった二種類に限られる。“実績報酬”か、スキルの産物だ』
「ふむ」
そしてゴーキちゃん、箱の蓋を、慎重に開きます。
『ん? なんだこれ』
そして、妙な顔をして。
「えー? なになに」
私もつられて、箱の中身を覗き見ます。
するとその中で繰り広げられていたのは――
▼
と、その時でした。
がつん。
彼女の頭部に、衝撃。
お笑い芸人が――強めのツッコミを入れられた時くらいの感じで。
「……わおわお」
私、一拍遅れて室内を覗き込み……そこに、トラップが仕掛けられていたことに気づきます。
どうも扉を開けると、自動的に弾が発射される作りになってたみたい。
銃にはご丁寧にも――『the joke is on you!』と書かれたメモが貼られていました。
「あーらら。引っかかっちゃいましたわね」
『……………………』
ゴーキちゃん、額に付いた銃弾の跡をごしごし拭います。
当然のように、ダメージはゼロ。
『くそっ。あんにゃろう――』
▼
その背丈は、五センチほどでしょうか。
精巧なミニチュアの私たちが、つい先ほど私たちがした行動を繰り返しています。
私、それをまじまじと見つめたのち、
「うわー。おもしろ」
それは、なかなかどうして面白い見世物でした。
「きっとこれ、ハンバーガーさんの宝物ですよ」
『……………………』
けれどゴーキちゃん、なんだか難しそうな表情のまま。
『んー。ひょっとすると……』
そして彼女は――箱の中の小さな私がソファに横になったところを見計らって、その中の私を丁重に摘まんでやり、そっとオフィスチェアの椅子に座らせます。
その、次の瞬間でした。
ソファで横になっていた私の身体が――瞬間的に、オフィスチェアに移動したのです。
「…………うお?」
私驚いて、目を白黒。
するとゴーキちゃん、うんうんと頷いて、
『なるほどな』
と、一人、納得しています。
『人形を動かすと、現実にも影響が出る。――なあマスター。あんたいま、どういう気持ち?』
「気持ちって……?」
『マスターの記憶では、いつからその椅子に座ってる? この部屋に来た時から? それとも、いまさっき、ぱっとワープした感じ?』
「………………。後者です。なんか突然、ワープした感じ」
『なるほど。記憶には影響がないようにしてるのか。――まあ、その方が無難だな。記憶が二種類あると、深刻な二重思考を引き起こすかもしれないから』
「???」
『頭が、バグっちまうってことさ』
「?????」
おーい。
あなたのマスターが、置いてけぼり喰らってますよ。
『わかりやすく説明するとな。これ、“過去改変”するためのものだ』
「過去……改変?」
『ああ。あの女……何か、どうしてもやり直したい過去があったらしい。そんできっと、この箱を使って、過去を修正したんだ』
「ふーん」
なにそれ、おもしろ。
『たぶんだけどこれ、“実績報酬”じゃないな。誰にでも使えるような作りになってないから。箱の制御そのものは、ハンバーガー本人じゃなきゃできない仕組みなんだろう』
「そんじゃー、私たちにとっては無用の長物ということですわね」
『ああ』
「それなら、ちょうどいい。さっさと持ち出して、ナナミさんの前でぶっ壊してやりましょう」
ゴーキちゃん、こくりと頷いて。
『ただ、それには一つ、条件がある。まずここから出て、……この、箱の中にいるあたしたちの外出を見守ってからだ。――そうじゃないとたぶん、箱がぶっ壊れると同時に、中にいるあたしたちまで、ぐしゃぐしゃになっちまう』
へえ。そんなことが。
ハンバーガーさんったら、ずいぶんと変わったスキルをお使いですこと。
『ところでマスター、気づいているか?』
「?」
『上、上?』
「うえ?」
つられて、顔を上げます。
すると……なんということでしょう。
いつの間にか天井が取り払われていて……とんでもなく巨大な私とゴーキちゃんの顔が、こちらを覗き込んでいるのに気づいたのは。
「――うおっ!?」
ぎょっと私、のけぞります。
すると、超巨大な私が、にこりと笑ってこう言いました。
『――あっ。きぃぃぃぃぃづぅぅぅぅいぃぃぃぃたぁぁぁぁぁみぃぃぃぃたぁぁぁぁいぃぃぃぃ』
私の声とは思えぬ、とんでもなく野太い声。
ゴーキちゃんは、苦笑交じりに、こういいます。
『あっちが、未来のあたしたちだと思う。んで、箱の中が、過去のあたしたち。――この箱の周囲は、時空の流れが分断されているのかもな』
なにそれ、怖。




