表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

247/300

その245 不毛な戦い

 東京駅構内を舞台とする――果てしない追いかけっこ。

 その最中に僕は、ナナミさんへの《スキル鑑定》に成功していた。

 それによると、現在の彼女のスキル構成は、以下のようになっている。




ジョブ:“遊び人”

レベル:126

スキル:《性技(超級)》《なめまわし》《ぱふぱふ》《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》《飢餓耐性(強)》《スキル鑑定》《謎系魔法Ⅰ~Ⅲ》《口笛》《風船爆弾》《パレード》《経験値増加Ⅹ》《攻撃力Ⅹ》《防御力Ⅹ》《視覚強化Ⅹ》《聴覚強化Ⅹ》《火系魔法Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ》《精神汚染耐性Ⅹ》《ローテンション》《あそびの世界》《時空器(ブランザー)




 今のナナミさんは、“サンクチュアリ”に居た頃とスキル構成が変わっている。僕はそれらの情報を、あらかじめ作っていたExcelシートに流し込んだ。


 こういう時、情報の整理にPCを使えるのは、僕の強みだ。


――追加されたスキルは……。


 《あそびの世界》、《ローテンション》、《時空器(ブランザー)》。

 それに《謎系魔法Ⅱ》《謎系魔法Ⅲ》か。


 また、消滅したスキルもある。


《狂気Ⅴ》

《魅力Ⅹ》

《あそび(超級)》

《魔力Ⅹ》

《ハイテンション》

《交渉術(超級)》

《応援》

《そっくりハウス》

《火系魔法Ⅳ》


 これら九点だ。


「………………ふむ」


 《謎系魔法》の使用にはリスクが伴う。

 サポート役のいない実戦であの魔法を使うとは思えないから、――特に気をつけなければならないのは、彼女固有のスキルになるだろう。


 つい先ほど、ナナミさんが『スキルの合成』について触れていた。





――また、全ての”プレイヤー”に”魔力制御”に関するチュートリアルが行われます。

――”魔力制御”により、新たな”スキル”を習得可能。是非、ご活用下さい。





 というアナウンスが行われたのはもう、一年以上前のこと。


――“魔力制御”。


 僕たち“プレイヤー”は、新しくスキルを作り替えることができる。

 その方法は、それほど複雑ではない。




①自分オリジナルのスキルを考える。

②その、材料となるスキルを指定する。

③細かい仕様を調整する。

④できあがり。




 基本はこんな感じだ。

 なおこの時、材料に使ったスキルは、①で考えたスキルの仕様と関連していなければならない。


 敵にダメージを与えたいなら、攻撃的なスキルを。

 ポジティブな影響を想定しているなら、《治癒魔法》系のスキルを。

 特殊な効果を発現させたいなら、特殊なスキルを。


 これはつまり――“材料”となったスキルを考えれば、逆算的に新しいスキルの効果を予測することもできる、ということだ。

 確定情報が得られる訳ではないが……それでも、推理しておくに越したことはない。




《あそびの世界》

 恐らくいま、『現実改変』を引き起こしているスキル。

 精神のダメージを肉体的なダメージに変換する。

 ⇒恐らく、《魔力Ⅹ》と《魅力Ⅹ》あたりが材料だろうか?

 それプラス、《火系魔法Ⅳ》をダメージのリソースにしている、とか。

 それだけではまだ、材料が足りていない気もするが……。


《ローテンション》

 《ハイテンション》と《狂気》あたりを合成したのだろうか。

 それと、《交渉術(超級)》、《応援》が組み合わさって、うつ病じみた症状を引き起こす力になっているらしい。


時空器(ブランザー)

 詳細は謎。

 聞いたことのない名前のスキルだ。

 “ブランザー”というワードを手持ちの辞書で調べても、そんな言葉は存在しない。

 意味があるのか、それともナナミさんの造語か。

 消去法的にたぶん、《そっくりハウス》を変化させたスキルなのだろうが、そもそも僕は、《そっくりハウス》がどういうスキルなのかを知らない。




「………………ふむ」


 と、ここまで思索を巡らせて。

 ふと喉元に、小骨が引っかかるような感覚になっている。


――これ……なんか、妙じゃないか?


 直感的に、そう思って。

 けれど、その在処までは思い至らない。



 不毛な追いかけっこが始まって、二十分ほどだろうか。


『ひひひひ。“ゾンビ使い”。――あんた、しつこいね』


 ナナミさんの化粧が落ちてきている。

 無理もない。その顔には、びっしょりと汗が浮かんでいたためだ。


「……よし。ようやく効いてきたか」


 僕だって馬鹿じゃない。

 このまま、ただ待ち続けている訳にはいかないには気づいていた。

 だから、少しでも彼女の気が折れるよう、ちょっとした工夫をさせてもらってる。


 駅構内はすでに、僕の操作するゾンビの制御下だ。

 すでにその辺りの空調を操作して、室内に強力な熱風を送り込んでいる。


――どうも、《あそびの世界》が無効化できるダメージは、ある一定以上のものに限られるらしい。


 『北風と太陽』。

 力づくが通じないなら、真綿で首を絞めるように戦う。

 童話の物語を参考に、思いついた作戦だ。


 時期はすでに、初夏。

 恐らく向こうは、地獄のような環境だろう。


『……ふぅ……ふぅ……』


 ナナミさんの息が、僅かに荒れている。

 徐々に、彼女のスタミナが失われていくのがわかる。


 ゾンビは、疲れない。

 ゾンビは、諦めない。

 ゾンビは、どれほど不快な環境でも、活動を止めない。


 こういうことができるのが“ゾンビ使い”の強みだ。


『ああ、くそっ。お化粧直ししないと』


 僕たち“プレイヤー”の争いは、『気が乗らない』という、ただそれだけで収まるようなことが、多々ある。


 僕たちの殺し合いはどこか、対戦格闘ゲームに似ている。

 どこか、()()()なのだ。


――怪我をしても、《治癒魔法》がある。


 そういう世界の殺し合いは、かつての世界とは根本的に異なる。

 命の価値が、軽くなる。

 “終末”後、僕たちの倫理観は、そういう風に変わりつつあった。


『だったらもう、やめましょう』


 予定調和的に、キー入力。


『そーいうわけにはいかない。こっちだって、必死なんだ』

『……ヒッシ? どういうイミです』

『だーかーらー。おしえて、やんないッ!』


 追いかけっこが始まってから、十度は繰り返されている会話だ。


 ナナミさん。

 頼む。聞き分けてくれ。



 逆転の鍵を得られたのはそれから、数分後のことであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ