その238 奇妙な戦い
※引き続き、テンション低めの私目線です。
………………。
ゴーキちゃんが吐血して、数十秒が経過しました。
私はぼんやり、こう思っています。
――なんか、緊張感の欠ける戦いだなぁ。
それもそのはず。
いま、その場では……通常であれば、数度は決着がついていてもおかしくないスローペースの戦闘が行われていました。
「ふわぁ…………」
ちょっぴり欠伸をしつつ。
――どっちが勝っても良いけど、早く楽にしてほしいなぁ。
とか、他人事みたいに思ってます。
引き続き私、立ちあがることすら億劫で、入滅する時のお釈迦様みたいなポーズ(参考:ストⅡのサガットステージの背景)で横になってます。
――ところでこれ……どういう流れなんでしょ。
よくわかりませんけど。変な能力ですねぇ。
いずれにせよハンバーガーさんったら、愚かです。
自由にスキルを創れるなら……こうなったとき、一緒に邪魔者を始末できるルールにすれば良かったのに。
私いま、ノーダメージなんですのよねー。
なんでだろ?
▼
「んーっと。じゃ、次は食べ物シリーズで行ってみよう」
『ぐ…………』
「こっから先は、コストが少ないからね。どんどん行くよ~」
そして彼女は、ポケットの中からお菓子を取りだします。
「まず、水飴」
そしてそれを、――火系魔法で焼却。
「あーららら! もったいない! おいしい水飴が……ほら! 黒焦げに!」
その時でした。
突如として、ゴーキちゃんの左肩に……ざっくりと切り裂かれるようなダメージが生じたのです。
「そんじゃ、次。ポテトチップスとか、いかが? コンソメ味~」
すぐさまハンバーガーさん、火系魔法を使用――焼却します。
『ぐ…………ッ』
ゴーキちゃんの右足に、ずどんと銃弾で打たれたような穴が穿たれました。
「次。板チョコとか、いかが?」
ぼう、と、甘い匂いを漂わせ、チョコレートがどろどろに溶けていきます。
するとどうでしょう。
ゴーキちゃんの胴から下半身に、刀で斬りつけられたような裂傷ができあがり……。
ぱっと、あたりを血で濡らしたのです。
「はははっ! ――効くねえ!」
ここに来て、わかってきたことが二つ。
まず、一つめ。
ハンバーガーさんどうやら、ゴーキちゃんの「好きなもの」を攻撃することで、ダメージに変換しているってこと。
細かいルールはともかく、ダメージが発現する条件はそういうことみたい。
そしてその対象に対する想いが強ければ強いほど、ダメージが大きくなる、と。
そんで、もう一つ。
ハンバーガーさんのポケットには、何らかの仕掛けがあるってこと。
彼女のポケット、たぶん、ドラえもんの四次元ポケット的な力があるみたい。
「“食べ物を愛するよりも誠実な愛はない”。――そう言ったのは、バーナード・ショウだったっけ。……やっぱ、効くねー」
『――……ッ』
「そんじゃ、次は何にしようかなー?」
ゴーキちゃんが行動を起こしたのは、その瞬間でした。
彼女、ものすごいスピードの手刀で――ハンバーガーさんに破れかぶれの攻撃を繰り出したのです。
「おおっ。すごい剣幕。こわいこわい」
けれど、無駄でした。
ゴーキちゃんの繰り出した攻撃は、確かにハンバーガーさんを傷つけました。
けれどその傷は……まるで、ふにゃふにゃのお人形を殴ったみたいにダメージを与えられないのです。
「二度と説明しないよ。物理攻撃はもう、大して意味がない」
『………………ッ』
ゴーキちゃんは無視して、連続攻撃を繰り出します。
けれどそれは、蜃気楼を攻撃するようなものらしく、有効なダメージを与えられている様子はありませんでした。
「……ふふっ」
ハンバーガーさん、くすくすと笑いながら、新しい菓子を取り出します。
もちろんゴーキちゃん、素早くそれを妨害しました。
ハンバーガーさんの取りだしたお菓子を、明後日の方向に蹴っ飛ばそうとしたのです。
「甘いね。この、おかしのようにぃ~~~~っつって」
けれど、さすが高レベル“プレイヤー”。
ハンバーガーさん、くるんと踊るような仕草でそれを回避して、ぴょんぴょんと後ろに飛び跳ねたのでした。
やはり、このレベルの“プレイヤー”相手に、得物を奪い取るというのは生半なことではありません。
「じゃ、次は――」
『……ッ』
ゴーキちゃん、無言のまま、飛びかかりました。
そこから先の動きは……“目にもとまらない”ような攻防が繰り広げられます。
――攻撃を続ければ……少なくとも、時間は稼げる。
恐らく、そう思ったのでしょう。
とはいえそれは、不毛な行為でしかなくって。
「次は……海外のお菓子シリーズで攻めていこっかな」
『…………ッ』
するどい爪を使った、引っ掻き攻撃。
ハンバーガーさん、ぽわぽわのマシュマロみたいになって、ノーダメージ。
「みんな大好き、マカロンッ」
『…………ッ』
するどい爪を使った、引っ掻き攻撃。
ハンバーガーさんの全身がダイヤモンドのように硬質化。ノーダメージ。
「このマカロンを――」
『…………ッ』
するどい爪を使った、引っ掻き攻撃。
ハンバーガーさんの首筋からぶしゅーっと血が噴き出し……たかと思えば、それは虹色の石けん水。空が七色に輝きます。
「ふぁいあっ」
『…………ッ』
色とりどりのマカロンが、黒焦げに。
同時に、ゴーキちゃんの身体がくの字に曲がります。
ワンパンもらったみたい。
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『彼女、結構がんばるねぇ』
太陽さんが、他人事のように実況解説。
――まあ、そう言わないでくださいよ。
ゴーキちゃん、私を守るために必死なんだから。
良い子なんです。ああ見えて。




