その206 共依存の二人
全裸。
与えられたベッド上で、大の字になって。
その傍らには、つるつるすべすべした手触りのメイドロボが、そっと横たわっていた。
『ネエ……コウチャン (^^)/』
「ん?」
『今夜アタリ……チョット、外ニ行カナイ? (>_<)』
「外……なんで?」
億劫な提案だと思う。
正直に言うと……今日も一日、ずっとよし子に溺れていたかった。
33年、女っ気のない人生を送ってきた孝之助にとって、いまの状態は至福の時と言って良い。
いま彼は完全に、よし子に依存している。
「でも、外は――危ないんだろ?」
『ソウ、デスケド。ズーット、コモッテバカリトイウノモ…… (;_;)』
「別に良いじゃないか。ここにいようよ」
『ウーン………… ^^;』
人生に疲れた三十三歳と、他人の世話を焼かずにはいられないロボット。
この組み合わせは今――軽度の共依存のようになって、二人の時間を食い潰していた。
ただそれが、よし子にとって気がかりらしい。
甘いものばかり与えられても、――人は潰れてしまうことがある。
彼女の陽電子頭脳にはそういう、人間の習性についてもインプットされているようだ。
『デモ……コウチャン、本当ニ心アタリガナイン、デスヨネ? (*_*)』
「――ん? ああ」
『ダッタラ、ドウニカシテソレヲ、証明シナイト ( ^o^)ノ』
「……………………」
確かに、それはそうだ。
このメイドロボは、完璧な女性、といってよい存在であった。
容姿に関しては――まあ、好みが分かれるかもしれないが、少なくとも孝之助は、絶対に失いたくないと思っている。
ここに来てから、彼女が自分に、意見らしい意見をしてきたのは初めてのことだ。
この事実は孝之助に、
――これ以上、おんぶに抱っこは、……良くないよな。
そう危惧させるに十分だった。
優秀なメイドロボは、人を進歩させるに足るものらしい。
「うーーーーーーん。………………しかしなぁ……………………」
どのようにして、自身の無実を証明できるだろう。
「ってかさ。そもそもなんで俺が、“悪魔の証明書”とやらを持ってるって言う話になってるんだ?」
『アレ? ソンナコトモ、シラナカッタノ? ^^;』
「うん」
『ショウガナイ、コウチャンデスネ……(-_-;)』
そうしてよし子が話してくれたのは、以下のような話だった。
・ある日、とある“プレイヤーより“悪魔の証明書”というアイテムが、“サンクチュアリ”に持ち込まれたという。
・その管理を任された者こそが、夜久銀助だった。
・破壊することも、遠ざけることも許されないそのアイテムを……彼は「絶対に安全な場所」に預けたという。
・しかし彼は、その「絶対に安全な場所」の位置を仲間に伝えないまま、死んでしまった。
・彼の手帳を調べたところ……“悪魔の証明書”の管理を任された時期に、孝之助とよく会っていたことが判明。
・“悪魔の証明書”持ってるのこいつやろ、たぶん。
とのことで。
「…………なんだそれ」
孝之助は、両の手で頭を抱える。
「ってことは……つまり、こういうことか? ――俺、銀助と飲み友達だったから、狙われてる」
『ハイ (T_T)』
「最悪だ…………」
銀助のやつめ。
せめて、こっちが怪しまれるような記述は削除しといてくれよ。
「“プレイヤー”なんかと、飲み友達なんかになるもんじゃないな」
『ゴ同情、シマス……』
「ところでさ。――その事実、なんであの……“焼き肉食べ放題――”」
『ホノカサン、デスネ (^^ゞ』
「そう。その、食べ放題の女が知ってたんだろう」
『ソレハ……ワカリマセン ^^;』
わからない? そんなことある?
『恐ラク敵ニ、特殊ナ“スキル”ヲ使ウヤツガ……イルノデショウ (*_*)』
「それか、君らの仲間に、裏切り者がいるか、だ」
『ハイ。否定シマセン <(_ _)>』
よし子は、しょぼんと肩を落とす。
――“サンクチュアリ”に、二心あるような“プレイヤー”がいるとは思えないが。
もし、そんなヤツがいるなら……もう何も信用できない。
ため息を吐いて、孝之助は深く嘆息する。
「あの野郎……最後の最後に、とんでもない厄介ごとを持ち込んでくれたもんだ……」
そういって彼は、「えいや」と気合いを入れて、立ちあがる。
身体中ベタベタしているのが気持ち悪かったので、シャワールームへ向かう必要があった。
「要するに……その、『絶対安全な場所』にある“悪魔の証明書”を見つけて……“ゾンビ使い”に渡せばいいんだろ?」
『ソウデスネ』
そうすれば晴れて、自由の身だ。
「それなら、自力でなんとかするしかないか」
嘆息しつつ、孝之助は今日の時刻を確認する。
すでに、昼過ぎ。
仕事中なら、バリケードの上でため息を吐いている時間帯だ。
――あの生活に、未練があるわけじゃないが……。
確かにそろそろ、動かなくてはならない時期である。
「……やるか」
別に、当てがないわけじゃないし。
何より自分は……この一ヶ月……たっぷりと愉しんだ。
仕事の時間だ。




