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その187 襲撃

 ”仮面の女”を探す一行は、銀座の一等地に建つ百貨店の手前で、足を止めた。

 その正面出口は略奪者により破壊されていて、内装が一部、雨風に晒されている。


「……”ゴミ拾い(スカベンジャー)”どもが、一仕事したみたいだな」


 その内部に残されていたはずの商品はほとんど持ち去られていて、もはや役に立つような物資は残っていない。

 とはいえ、ちょっとした残り物なら、ある。

 理津子は、化粧品売り場の固定された鏡をばりばりと引っぺがし、自身の顔を映した。


「……これ、まだ、使えそうね」

「ラッキーだったな」

「ええ」


 この手の品は、常に需要がある。持って帰れば、喜ぶ仲間がいるだろう。

 理津子は、肩にかけたショルダーバッグに、それを放り込んだ。


「………………」


 その様子を見た”獄卒”が、少し唸って、


「そういえば、戦力の確認がまだだったな」

「――?」

「”不死隊”は、死なない子供たちのチームだと聞いていたが……貴様、”奴隷”か」

「………………ええ。まあ」


 視線を、逸らす。

 ”サンクチュアリ”では、差別的な言葉が禁じられている。

 便宜上、”奴隷”と呼ばれる立場であっても、理津子は自身を、そういう風に考えていなかった。


「”サンクチュアリ”にも”奴隷使い”いるのか。――名前は?」


 理津子は、銀助と視線を合わせて、うなずき合う。

 別に、隠してはいない情報だ。話してしまっても構わないだろう。


「…………天宮綴里って子」


 正確には、”奴隷使い”ではなく”解放者”。

 ”奴隷”ではなく、”解放奴隷”。

 別に、細かく説明するつもりはない、けれど。


「ふーん。そいつ、”魔女の落胤”枠か?」

「いいえ」


 彼、特別な”実績報酬”でプレイヤーにしてもらったと聞いたことがあるが……この場合の”魔女の落胤”とは、特別な力を持つ”プレイヤー”のことだろう。


「では、ごく普通の”プレイヤー”に使役されてるってことか」

「…………うん」

「使えるスキルは?」


 これは要するに、「どれくらい強いんだ?」という意味。


「……基本セットに加えて、銃火器関係のスキルを、いろいろ」

「へえ。かなり恵まれてるな。貴様、ヘタなプレイヤーより強いんじゃないか?」

「…………まあ」


 実際、いま理津子が使えるスキルは、




《格闘技術(上級)》《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》

《飢餓耐性(強)》《スキル鑑定》




 という、”プレイヤー”がまず覚えるべきとされるスキルセットに加えて、




《射撃術強化(上級)》《拠点作成Ⅱ》《武器作成(下級)》

《オートメンテナンス》《投擲Ⅴ》《攻撃力Ⅰ》《防御力Ⅰ》《魔法抵抗Ⅰ》




 以上、”射手”に関係したスキルも一通り覚えている。

 これはつまり、レベル27相当のスキルを取得しているということ。

 一般人目線で言えば、十分に”超人”と言って良い戦闘力だ。


「ちなみに、そっちの覆面は?」

「…………レベル98。”守護騎士”だ」

「そうか」

「そっちは?」

「……レベル、89。”戦士”」

「ほーう、89。ちょっとばかし、レベル上げが足りてないみたいだな!」


 優越感たっぷりに笑う、夜久銀助。

 対する”獄卒”は、「ぐぬぬ」と唸って、


「……実戦での勝負に、レベル差は関係がない。敵を殺す覚悟があるかどうか。それが全てだ」

「おいおい。俺、実戦の話なんてしてないぜ? ただ単に俺たち、レベル差があるなーって。そういう感想を言っただけ。だろ?」

「それでも、言外に匂わせた。『お前は弱い』と」

「べーつーにー?」


 理津子は、内心嘆息しつつ、先へと急ぐ。

 男の子はみんな、レベルの比べっこが大好き。実にくだらない。


「おい、理津子、待て。ここはレベル98の俺に任せろ」

「……はいはい」


 素直に、先を譲る。

 実際、この中で一番頑丈なのは彼だ。高レベルの”守護騎士”である夜久銀助は、ロケットランチャーが直撃しても即死しないという。


 行く手にはすでに、赤いペンキで『SafeRoom』と書かれた矢印が見えている。

 どうやら”楼主”は、この建物の先に安全地帯を用意しておいたらしい。


――きっと”仮面の女”は、この先にいる。


「ここから先は……お口チャックだ。――いいな?」

「……………………ええ」


 銀助が、なるべく足音を殺しつつ、先へと進む。

 とはいえ、完璧な隠密行動ではない。この辺りは音がよく反響する作りになっていて、どれだけ気をつけても、フロア全体に足音が響いてしまうのだ。


「鬼が出るか、蛇が出るか……」


 やがて彼は、矢印が指し示す場所――従業員用の控え室を改装したであろうその空間に手を伸ばした。


 そこで、


「……ん?」


 動きを、止める。

 その、次の瞬間だった。


 チカッ、チカッと二度、フラッシュライトを思わせる光が閃いて。

 何か……強い光を放つ何かが、宙空で弾けた。


――どん!


 回避の猶予は、なかったように思う。

 がらんしたフロアに、重低音が響き渡った。

 同時に、数メートル先にいた銀助の身体が、瓦礫に押しつぶされる。


「な………………っ!」


 驚きつつも、《格闘技術》によって強化された四肢は、自動的に動いていた。

 素早く身を躱しながら、理津子は何が起こったか、睨みをきかせる。


「銀………………ッ!」

「――落ち着け。”守護騎士”は、あの程度で死なない」


 いつの間にか隣にいた”獄卒”が、冷静に呟いた。


「でも……ッ」

「それよりも。――我々はどうやら、自分の心配をした方が良さそうだぞ」

「えっ」


 嫌な予感がして、振り返る。


 するとそこには、女が一人。

 フリルのついたレースの下着に、カーディガンを羽織っているだけの、妖しい格好の女性だった。


「見覚えがある顔だ。『魔性乃家』の娼婦か」

「えっ」

「くそったれ。……これは、私の落ち度だな」


 そういう”獄卒”の言葉は、ひどく淡々としている。


「どうも私たちは……嵌められたらしい………………」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 綴里くん、奴隷使いじゃなくて解放者だったの!!?
[良い点] 面白い! [気になる点] なんのために嵌めたんだろ
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