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その184 ネット配信者

 って訳で、対応策。

 まず、スライムタマゴを購入し、孵化。

 生まれてきたスライムに、不要なタマゴを食べてもらうことに。


「……私、無闇に配下を増やすつもり、なかったんですけれど……」

『まあまあ、そう言わないで。あたし、ちゃんと育てるからさ』

「しょーがないですわねぇ」


 ってことで、初期スライム――(緑色のぶよぶよ)が新たな仲間に。


『うふふふふふ。意外とかわいいぞ、こいつ』


 普通人くらいならあっという間に食い殺してしまうそいつをナデナデしながら、ゴーキちゃんが微笑みます。


「……喧嘩しないでくださいよ」

『しないしない』


 そうしてようやく、予定通り。

 ピンセットにて、丁寧にゲンソウ・タマゴを孵化器に配置していきます。


『しっかし……あんたがする作業って……地味というか。待ちが続くな』

「まあね」


 ”魔王”の成長は、数年がかりでプレイする将棋のようなもの。

 そのぶん、一手一手がとても重要なのです。


『んで? こっから、”ゴールデン・ドラゴン”が生まれるまでしばらくかかるけど。……暇な時間、どーする?』

「そうですわねぇ」


 私、しばらく考え込んで。


「ここに来てばかりですけど……。追っ手の様子を見に行きたいかも」

『えっ。追っ手に、自分から会いに行くってこと?』

「はい」

『さすがにそれ、……危なくねぇか? 顔は割れてないとはいえ……』

「そうなんですけども。なんかちょっぴり、気になっちゃって」


 できれば、アズサさんにも会いたいですし。


『…………オメー。ホントにそれだけか?』

「え?」

『なーんか、別に目的がある気がする』


 私、少し視線を逸らして。


「……あなたに、隠しごとはできませんね」

『うん』

「実を言うと、追っ手の中に……知っている顔があるかもしれないんです」

『えっ。”転移者”のマスターに、知り合いがいるってのか?』

「知り合い……というか。一方的ですけど」

『???』


 ”楼主”さんと同じ、『JKP』の登場人物。

 ”獄卒”というあだ名で知られる、元警官の”プレイヤー”です。

 彼、こういう時に名乗りを上げそうなキャラクターなんですの。


 するとゴーキちゃん、少し苦笑します。


『つまり、こーいうこと? オメー……その、”獄卒”とやらと会いたいから、わざわざリスクを冒すって?』

「会うつもりはありません。ゲームと同じかどうか、遠目に確認してみたいだけ」


 平時でも、高いお金を支払ってイケメンを観に行ったりするでしょう? それと似たようなことです。たぶん。


『……やれやれ。――イカレたマスターだぜ』


 そう言いながらもゴーキちゃん、反対するつもりはないみたい。


『ただ、一つだけ約束してくれよ。……ちゃんと変装していくこと。声が割れてる相手とは、直接会話をしないこと』

「わかりました」


 私、頷きます。


『あと、それと……ゾンビでも人間でもいいから、新しい友達(スライム)に何か、餌を与えてやってくれ』

「はいはい」


 ”新しい友達”に、ソファみたいに腰掛けるゴーキちゃん。

 スライムくん……別に、戦力として役に立ってもらうつもりはないんですけど……ハラヘリのまま放置するのも、ちょっと可哀想ですしね。


「それでは――行きましょうか」

『ああ』



 そうして私たち、散歩がてらに銀座をぶらぶら。

 ちょっぴり、物資を探したりしながら。

 といっても今どき、役に立ちそうな物資、ほとんど残ってないんですのよね。


 ”ゾンビ”もほとんど、一掃されちゃって……。ただの廃墟を歩いているみたい。


 そんな中、放置されている確率が高いのが……自動販売機。

 空けるのが面倒なのか、中身が放置されてること、多いんですのよね。


 私、適当に拾った財布の小銭をちゃりんと入れて、ペットボトルのお茶をゲット。

 ベンチに腰掛け――一息吐きます。


 なお”魔王”は、指定した電気機器を通電する能力を、最初から持っています。

 なので”プレイヤー”同様、自販機を自由に使うことが可能だったり。


「ねえねえ、ゴーキちゃん」

『ん?』

「さっきあなた、”生前の記憶”の話をしてくれましたよね」

『…………うん』

「バロット――フィリピンの料理を食べるなんて、ちょっと変わってますよね。……どういう人生だったんです?」

『別に。たいしたことない。つまらない人生だったよ』


 えーっ。ホントにぃ?

 私、少し気になって、


『――ちょっとまー、いろいろあってさ。ネット・ストリーマーみたいなこと、しててね』

「ねっと・すとりーまー……?」


 そりゃまた、変わったお仕事を。


「それで、バロットなんて食べたんですか?」

『ああ。……あの時は結構いろんな人が見てくれて……同時視聴者数は、30人くらいだったかな?』

「へー」


 それって、多いのかな? 少ないのかな?

 ちょっと私には、よくわかりませんけれど。


『そーいうあんたこそ、前の人生は、どーいう感じだったんだよ? 仕事とか、してたのか?』

「それについては、ノーコメン――」

『話したくないのは分かってるけどさ。当たり障りのないラインでなんかないか? 日常会話くらいしようぜ』

「…………………………」


 まあ。

 それも、そうか。


「そう、ですわねぇ。そんじゃ、一つだけヒントをば」

『…………ヒントっつーか……答えが知りたいんだけど……』


 まあまあ。

 人生には、ミステリーが必要ですし。


 私、こくこくとお茶を飲み干して。

 そして、――たっぷり間を作って、こう言いました。


「私……かつて、とても平和な土地で暮らしていましたの」

『ふむふむ』

「そこで――ちょっといろいろあって。人を殺して……」

『ふむふむふむ』

「そして、気がついたら、ここに」

『…………へぇ。――それで? 仕事は?』

「無職です」

『……無職。専業主婦、とかじゃなくて?』

「いいえ。完全な無職です」


 実を言うと私、まともに働いたこと、ないんですのよねー。



 そうして一人、のんびりと街を歩いて。


――余計なことを、口にしてしまったかしら。


 なんて、そんな風に思いましたの。

 個人情報を特定される訳には、いきませんでしたし。


 だって、この文章。

 インターネットで、配信されているんでしょう?

 っつって。

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