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その154 糸を繰る者

「奏さん。ひとつ、いい?」

「……なんです、か?」

「そもそも僕たちって……なんで争ってたんだっけ」

「それは――」


 それについては、優希から情報をもらっている。


――先輩をやっつけないと、美空ちゃんたち、一年後には死ぬって。


 理由は不明だが、そう思い込んでいるらしい。

 少なくとも現状、僕が彼女たちを傷つけるつもりは、ない。


「……”冒険者ランキング”の情報は、聞きましたか」

「ああ」


 そこで奏さんは、一枚のコピー用紙を取り出す。

 原本、ではないだろう。手書きで書き写した形跡がある。


 その内容は、以下のようになっていた。



【冒険者ランキング(2016年版)】


一位 ”終わらせるもの” 名称未設定 レベル132


二位 ”狂気の転生者” 恋河内百花 レベル131


三位 ”人の形を遣うもの” 名称未設定 レベル129


四位 ”フィッシュ・ディッパー” ハンバーガー大好き太郎 レベル123


五位 ”勇者” 犬咬蓮爾 レベル121


六位 ”暗黒騎士” 名称未設定 レベル119


七位 ”語り姫” 遠峰万葉 レベル111


八位 ”贋作使い” 名称未設定 レベル105


九位 ”正義の格闘家” 羽喰彩葉 レベル103


十位 ”優しい王様” 仲道縁 レベル100



「今朝、書き写してきた、最新のものでし」

「へえ……」


 僕は感心して、その内容を何度も読み返す。


 これが、未来予知の内容か。

 これだけでも、かなりの情報量に思える。


 とりあえず、この”二つ名”と”名前”のプレイヤーと出くわしたら、そいつは今後、超強力なプレイヤーになる確率が高い、ということだから。


「ちなみにこの内容、定期的に更新されるみたい。三日前に見たランキングと、今朝に見たランキングじゃあぜんぜん内容が違ったりするから」

「……未来はまだ、未確定……ということかな」

「うん。でも……」


 そして奏さんは、”冒険者ランキング”の写しを取り上げて、


「高確率で、高い位置に名前がある人が、いるの」

「それは?」

「一位の”終わらせるもの”。二位の、”狂気の転生者”。……そして三位の……”人の形を遣うもの”。……あんた、でし」


 ……。

 あっ。

 えっ。


「ぼくぅ?」

「そう。あんたこそが……”人の形を遣うもの”なんでしっ……です」


 そうか。そういうことか。

 それで彼女たち、僕を目の敵にしていたわけか。


 だが、その想像は、決して間違ってはいない。

 プレイヤーにとって、もっともレベルアップ効率の高い行動の一つ。

 他のプレイヤーを、殺すこと。


 地元でとんでもなく強いプレイヤーがいるのなら……一年以内に、自分たちが殺されてしまっている可能性は、高い。

 たぶんあの”プレイヤーランキング”に掲載されている連中は皆、屍山血河の上に立つ者たちだろう。


 ……だが。

 僕の視点で、どうしても解せないことがあった。


「……一つ、聞いて良いかい」

「?」

「これは、かなり根本的な疑問なんだが……よく、注意して聞いてくれ」


 僕の単なる、思い過ごしなら、良いのだが……。


「僕のその……二つ名って、本当に”人の形を遣うもの”なの?」

「え?」


 奏さんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「いやさ。この”二つ名”みたいなのって、自分じゃどうやって確認するかわからないからさ」

「それは……まあ、そうね。……ええと……《スキル鑑定》したんだっけ?」

「いや、それはない。あれで確認できるのは、そのプレイヤーの”ジョブ”だけだ」

「あー……そういや、そっか」


 一応、これまでに一度、それらしきアナウンスを、聞いたことはある。


――”強欲な魔法使い”が敵対行動を取っています。


 岩田さんと、戦った時。

 これは恐らく、”強欲な魔法使い”が、彼女の二つ名だったということだろう。


 となると、僕と敵対していた彼女たちが、僕の二つ名を知っていてもおかしくはない。


 だが……。


――そういえば、最初に彼女たちに襲われたとき、”敵対”のアナウンスが流れた覚えはない。


 この原因になりそうな可能性は、いくつか挙げられる。

 ひとつ。三姉妹(スリー・シスターズ)に、殺意がなかったから。

 ふたつ。ゾンビ越しの敵対行動は、アナウンスが流れないから。

 みっつ。プレイヤー間が離れていると、アナウンスが流れないから。


 これら、どの可能性が正解だったとしても……。

 彼女たちもまた、僕の”二つ名”を知ることは、ないのではないだろうか?


 もちろん、全ては仮説だ。何らかの裏技があるのかも知れない。

 だが……この状況。

 このタイミングなら、そういう綻びにも、光を当てることができる。


「ねえ、奏さん」

「――?」

「そもそも本当に……僕の二つ名は”人の形を遣うもの”なのか? ”人の形を遣うもの”って……どっちかっていうと……」


 人形遣いとか。操り士とか。

 なんか、そういう感じのイメージじゃないか?


 もちろん、”ゾンビ使い”である僕にも、当てはまらない訳じゃないが……。


「そもそも、だ。……僕自身が知らない、僕の二つ名を知っているのは、誰だ?」

「…………………???」


 奏さん、ずっと目を丸くしてる。

 なんでそんなこと聞くの? って感じだ。


「でも……あなたが”人の形を遣うもの”だっていう情報……確かに……」

「誰から?」


 僕は、奏さんの顔を真っ直ぐに見て、問う。


 嫌な予感がしていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それも、自分自身は指一本、動かさずに。


「現状、その情報に関して、可能性が、……二つ、ある」


 ひとつ。

 その情報は、正しい。

 僕は本当にその、”人の形を遣うもの”である。

 だがその場合、いつ、どこで、僕の”二つ名”が知られたんだろう。


 ふたつ。

 その情報は、間違っている。

 この場合が問題だ。

 それを教えたやつはたぶん、プレイヤーの知識に精通していて……しかも、僕たちに害意を持っている。


 奏さんはしばし、「うむむむむむ……」と、その場で考え込む。


「情報は……まず、美空から」


 そして、部屋の中をとてとてと歩き回り、


「美空の……情報源は。……たしか、二人」

「誰だ?」

「………………………………秋月亜紀。それと、六車涼音」

「……………!」


 ふいに、六車の名前が出てきて、驚く。


 そうか。

 だから僕の家がわかったのか……、と、遅ればせながら理解。


「恐らく犯人は……」


「六車涼音」「秋月亜紀」


 意見が、割れる。


 前者が奏さん。後者が僕だ。

 僕に言わせれば、お人好しの六車が、そんな企みを思いつくはずはない。


「でもアキさんは、美空の親友でし」


「………………………………」

「………………………………」


 この、感じ。

 話し合っても多分、平行線になるやつだろう。


 僕たちはそこで、いったん議論をストップ。


 一応、目的は果たした。

 僕たちが争う必要はない、と、奏さんに認めさせればいいのだ。


 と、その時だった。

 開きっぱなしの窓から、エンジン音。


 終末がこの世に訪れてから久しく聞いていない、車の駆動音だ。


 車は、僕の家の前で止まって……。


「センパイ!」


 神園優希の、声が聞こえてきた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] JKの方では自分から空耳に聞けば自分の2つ名確認できてた気がするけど、先輩はまだ確認してないな 果たして本当に人の形を遣う者なのか?
[一言] 結果的にチェーホフの銃がきっかけになって和解できたという事か… 撃たれた方はたまったもんじゃないが
[良い点] え、えええ、ええ???!! いや、たしかにそうだけど! ずっと三位はパイセンだと思ってたけどたしかに2つ名をどうやって知ったんだ??? ずっとアリスからきいたかガチャのアイテム効果か敵対し…
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