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その135 力と代償

 プレイヤーになる。


 そんな綴里の提案に、思わず眉を段違いにする。

 確かにそうなれば、センパイを手伝うのは容易になるだろう。


「っつっても、なろうと思ってなれるものなのか? どっかでバーゲンセールをやってるわけじゃあるまいし」

「うん。だから確率は低いと思う」

「おいおい。突飛すぎる案を出されても困るぞ」

「……と、思いきや、それほど突飛な案って訳でもないんだよ」

「――?」


 眉を上げる。

 つまりこの友人には、――何らかの当てがあるらしい。


「まあ、やるべきことは簡単だよ。アリスに頼めばいい」

「アリス……というと、”魔女”アリスか?」


 彼女の存在については、すでにセンパイから聞かされている。

 センパイに”ゾンビ使い”の力を与えた張本人だ。


「うーん。……でもそれ、可能なのか? センパイの話だと、かなりイカレたやつだっていうぜ」

「でも、試して見る価値はあるんじゃない?」

「それに、仮にそうするとして、――どうやって会う? 話によると彼女、しょっちゅうセンパイの家に出入りしてるらしいし、そこを狙うか?」

「いや。それだとたぶん、”三姉妹”の監視に引っかかる可能性がある」

「そうだな……」


 奏さんは、用心深い性格だ。優希はすでにマークされている可能性がある。

 怪しい動きは、逆効果だろう。


「じゃあ、どうすればいい?」

「それほど、難しいことじゃない。彼女、時々この辺りの公園でぼんやりしてるから」

「えっ。……この辺にいるの?」

「うん」

「普通に?」

「普通に」


 優希は目を丸くして、


「いつ?」

「決まってないみたい。でも、けっこう噂になってるよ。どこの子かわからない白髪の娘がいるって。私は観てないけど、この療養所にも来たことがあるってさ」

「なにしに?」

「お茶しに」


 綴里は、自分の湯飲みを飲みほし、底面を優希に見せる。そこには、『ありす』という文字がマジックで書き込まれていた。


「勝手に使ってやるなよ」

「余ったコップがなかったんだもの」

「…………――そうか」


 いずれにせよその情報、巧く活かせるかもしれない。

 優希は目を細めて、


「しかし、先輩の話だと……たしか彼女、一筋縄ではいかないんじゃなかったか?」

「だね。じっさいセンパイは、大きなリスクを背負ってる」

「力を得る代わりに、何か代償を支払う必要がある、か……」

「さらにいうなら、それが、アリスなりの理屈で”面白い”必要があるみたい」

「うーむ……」


 難しい。

 気安く結論を出すべきではない問題だ。


「何かを代償に、スーパーパワーを得るパターン。……創作の世界だと、何があったかな」

「『仮面ライダー』なら、異形の者になってしまう、って感じ」

「『鋼の錬金術師』は、片腕と片足を失ってたな」

「『ジョジョ』だと、スタンド使いはスタンド使い同士で引き合う……とか」

「『ワンピース』はわかりやすいよな。悪魔の実を食べると、海で泳げなくなる」

「『デビルマン』はもう、ほとんど別人格になっちゃってたね」

「それいうと、『寄生獣』とかも」

「アメコミには、ヒーローの存在が悪役(ヴィラン)を産み出してしまう、っていうテーマがある」

「『バットマン』だな」

「大いなる力には、大いなる責任が伴う、――『スパイダーマン』」

「ふーむ……」


 オタトークを挟みつつ二人、人外の力について、あれこれ考える。


「その点、センパイはうまいことやったね。あの人もともと、出不精だし」

「……だとしても、一生家から出られないのはキツいだろうけどな」

「やっぱ、その人のキャラに合うような性質をくっつけるのがいいんじゃない。……優希の場合だと、そうだな。恋人がずっとそばにいないと死んじゃう、とか。その場合だとほら。私が居るから、安パイだし」

「どさくさに紛れて、自分の欲望を満たそうとするなよ。だいたいそれ、おまえがなんかの事故で死んだら、一緒に死ぬことになる」

「それ、いいじゃん。一蓮托生。ロマンチックだ」

「馬鹿言え。俺はお前が死んだ後も、百歳まで生きるつもりだ」

「冷たいこと言うなぁ」

「冷たくない。本当に愛してるなら、その後の幸せを願ってくれよ」


 話題が少し、逸れている。

 しかしこの議論は、必要なことだった。

 もし万が一、突発的にアリスと出くわしたとき、下手なことを言ってしまわないためにも。


『はーい。どーもこんにちはー』


 例えば、こんな風に……。


「……………………」

「……………………」

『よっす。岸田おる?』


 優希は、少女の顔をまじまじと見つめて、


「うわっ。ホントに出た」


 と、思わず声を上げた。

 その点、友人はアドリブに強い。


「岸田さん、まだだよ。今日は昼まで休んでるみたい」

『なーんだ。つまらん』


 のちのち聞いたところによると、その療養所の持ち主とアリスは、ちょっとした茶飲み友達らしい。

 時間があるときはその辺で、将棋を打っているようだ。


『じゃ、帰ろうかなー』

「あ、ちょっと待って」

『ん?』

「もし時間があるなら……ちょっとおしゃべりしていかないか」

『え。普通に厭じゃけども』

「なんで?」

『なんでもくそも……だってわし、おぬしらと初対面だし。そんなに仲良くする理由もないし』


 そこですかさず、綴里が湯飲みを差し出す。さっきまで口を付けていたものに、お茶を注ぎ足したものだ。


「お茶とお茶菓子ならあるけど」

『茶菓子? ……具体的には?』

「アルフォートとか」

『…………ほう』


 アリスは少し考え込んで、


『ブルボンのチョコレートがあるなら……付き合おう』


 結果、拍子抜けするほどあっさりと、対談が成立した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっと良い茶菓子用意するから、うちにもアリスちゃんきてくれないかな…… ヨックモックとかどうです?
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