表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/300

その130 必殺剣

「再確認でし。……奴はどうやら、近づいた敵の身体をメチャクチャにする力があるっぽい。ツバキの様子をみた感じ、数秒くらいなら大丈夫っぽいけど」


 奏ちゃんはそこで、お相撲さんみたいな姿のゾンビに目配せした。

 どうもあれ、ゾンビ使いの手先らしい。


「あんまり近くにいすぎると、――ああなっちゃうってことね」

「うん」


 さすがにそれは……困っちゃうな。

 あそこまで太ると、ダイエットしても皮膚がべろんべろんになっちゃうもの。


「よーし。そんじゃ、行ってくるよ」

「ん。たのんだ」


 あたしはまず、目標とする野菜畑上空で、ぴょんと”移動拠点”から飛び降りて、……


「――《ういんど》!」


 呪文詠唱。

 《風系魔法Ⅰ》で、ふわりと着地した。

 すかさず、のっしのっしと接近する”飢人”に対して、


「――《すわんぷ・ふぃーるど》、《すわんぷ・ふぃーるど》、《すわんぷ・ふぃーるど》!」


 《地系魔法Ⅰ》を三回、唱える。

 意味があるのかどうかはわかんないけど、……どうにかなれ!


『ア”、イ”ア、イ”イ”……ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』


 意味があるような。ないような。

 そんな叫び声を上げながら、”飢人”はあたしに向かって、ぶにぶにの両腕を広げる。

 みたところそいつ、ほとんど知能はないみたい。

 野生動物以下の間抜けさで、まんまと畑に足を踏み入れた。


 するとどうだろう。


 ベシャ!


 と音を立て、巨体が土中に沈む。ほとんど落とし穴に嵌まったみたいだった。


「わ、は! あはは」


 その動きがあんまりにも滑稽だったから、あたし思わず、笑っちゃった。

 まるでバラエティ番組でやる、いたずらみたい。


 《すわんぷ・ふぃーるど》重ねがけ。

 ちょっとした小技に使えそうね。


 ただ一点、想定外のことを上げるなら。


 なーんか奴さん……ぜんぜん元気に、こっちに向かってきてるってこと。


 ”飢人”のやつ、まるで水中ウォーキングするおじいさんみたいな動きで、あたしに向かって、のろのろと歩いてきたんだ。


「ええええええっ。……なんで?」

「ミソラは、やり過ぎたのです。泥の粘性が低すぎて、相手の動きを拘束するに至らなかった」


 振り向くと、縄ばしごを伝って下りてきたロボ子ちゃんが、呆れ声で助言してくれた。


「まじか。……一度発動した魔法って、取り消しできないのかな?」

「難しいでしょう」


 うーむ。

 ……うむむむむむむ。

 あたしひょっとして……やらかしちゃった?


 顔色を青くしている間も、”飢人”はぶくぶくと膨らんでいる。

 いまにも、泥の中から這い出そうだ。


「どうしよ。これもう、いったん逃げた方がいいかも!」

「ご心配なく。その時のために、私が来たのです」

「えっ? どういうこと?」


 ロボ子ちゃんとは、これまで何度も一緒に戦ってきた。

 けど、戦闘能力はきほん、技巧派って感じの印象だ。

 ああいう敵に対抗するための大技は、特になかったはず。


「先ほど、少しばかり天啓が下ったもので。魔女の力を借りることにしています」

「魔女の、力……? アリスちゃんってこと?」

「ええ」


 そういう彼女、ちょっぴり物憂げだ。動作もどこか、ぎこちない。


「ロボ子ちゃんって、アリスちゃんと仲良かったりするの?」

「仲が良い? まさか」

「…………それ、ほんとぉ?」

「ええ。私はいつも、彼女の尻拭いをさせられているのですよ」


 ふーん。

 ()()()、ねぇ。

 なーんか引っかかる言い回しだけれど、ま、いっか。


 ただ、ちょっぴり気づいたことがある。


 あたしたち、アリスちゃんに力を授かったプレイヤーはみんな、最低でも一つ以上の”強み”が与えられていると思う。


 あたしの場合は、”ウィザード・コミューン”。

 奏ちゃんは、”移動拠点”。


 となると、ロボ子ちゃんに与えられた”強み”って、なんなのかしら。


「ねえ、美空ちゃん」

「え?」

「一つだけ、お願いしてもいいでしょうか? 私たぶん、このあと”魔力切れ”になっちゃうと思うんです。そうなった私を、救い出してくれるって」


 あたしは目を丸くした。


「そんなの、当たり前じゃない。友達でしょ」


 するとロボ子ちゃん、優しげに笑って、


「……そうですか。どうもありがとう」


 と、どこか客観的に、言った。


 その時だ。

 身体の七割近くを泥まみれにした脂肪の塊、――”飢人”が、お風呂から上がるみたいな動作で、沼から這い上がってきたのは。


 そこでロボ子ちゃん、


「はい、はい。わかってますよ」


 と、砕けた口調で呟く。


――誰かと話してる?


 不思議に思って顔を覗き込むと……彼女、ちょっぴり冷めたような表情で、


「下がってください」


 と、あたしを制した。

 その、次の瞬間である。

 ロボ子ちゃんの身体が、消えたのは。


 あたし、びっくりして口をぽかん。

 でも、彼女が消えたのは、なんてことのないことだったんだ。

 ロボ子ちゃん、いきなりトップスピードで走り出しただけだったんだから。

 のちのち彼女から「”縮地”という技です」と聞かされたその走法は、あたしの想像を遙かに上回る素早さで”飢人”へ接近していく。


「………………あっ!」


 驚いて、彼女の姿を目で追う。


 ”飢人”はずっと、セピア色のオーラを身に纏ってる。

 あの中に接近した者がどうなるか。――話を聞いてなかったのかな。

 そんな風に思えたから。

 けれど、結論から言うとあたしの心配は杞憂だった。


 ロボ子ちゃんが”飢人”のトドメを刺したのは……それから、数秒もしない間の出来事だったから。


「――《必殺剣Ⅹ》」


 太陽を背に受けて、彼女の持つ両刃の剣が、深淵を思わせる黒に変色する。

 何か良くわからない、不吉なエネルギーのようなものが、剣を中心に集まってきている……そんな感じがした。


 その、次の瞬間である。


 しゅごおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…………。


 巨体が、刀の中に吸い込まれていったんだ。

 まるで、超強力な掃除機を使ったみたいに。


 一撃。

 たった一撃の攻撃で、あの恐ろしい”飢人”は、跡形もなく消滅してしまった。


「嘘…………」


 驚いていると、そのままロボ子ちゃん、ぱったりと倒れてしまう。


――私たぶん、このあと”魔力切れ”になっちゃうと思うんです。


 どうやら、気を失ったらしい。

 あたしは慌てて、彼女の元へ走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そうきたか!! ロボ子ちゃんとアリスの関係が気になる〜!!! ロボ子ちゃんは感情とかなにかを代償に契約した人間、、だよね?? だと思ってたんだけど、センパイよりアリスと親密じゃない?? え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ