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その129 追跡する脂肪

 あたしたちはその、――突如として現れた化物を見て、


「……………わあー………」

「……………これは………」


 それぞれ、渋い表情を作る。


「ゾンビの巨大版、ってかんじ?」


 あるいは、ぼんやりとした人型の、脂肪の塊かな。


「ああいうの、前に映画で見たこと、ある」

「『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンでしょうか」

「あー、それかも」


 さすがロボ子ちゃん。なんでも知ってる。


「あいつ……何者かな?」

「少なくとも、味方には見えませんね」

「でもでも、あいつ……身体のあっちこっちを、ゾンビに噛まれてるよ。ゾンビと敵対してるんじゃない?」

「その割には、反撃しているように見えません」


 ほんとだ。

 よく見るとあれ、自分の身を差し出してるみたい。


「……ゾンビのおかあさんが、ご飯をあげているのかな?」

「そんな馬鹿な」

「じゃ、ゾンビのおとうさんが、ご飯をあげてるんだ」


 ロボ子ちゃん、私の真面目な考察を一笑に付して(ひどい)、


「いずれにせよ、人類の敵であることは間違いない」


 と、結論から言った。


「わかった。じゃ、がんばろ」

「……がんばる……のは、もちろん結構ですが……そもそもあれ、我々の手に負えるものでしょうか?」

「手に負えなくても、やらなくちゃ。いま、この辺りで戦えるのは、あたしたちだけなんだから」


 この言葉には、さすがのロボ子ちゃんも苦笑い。


「シンプルで良いですね。ミソラの世界観は。……私は、そう簡単には破損したくありません」

「ふーん。ロボでも、死ぬのは怖いんだ」

「もちろんです。ロボット三原則にすら、自己保存の権利は保障されているのですよ」


 なぁんて話していると、その時だった。

 あたしたちの進行方向、道路の先で、”ゾンビ”たちが群がっていることに気づいたのは。


「ん。……邪魔だな」


 そう思っていると、空から助け船(?)的な何かが現れた。

 空中をぷかぷか浮遊する一軒家。


 一目見て、すぐわかったよ。あれが奏ちゃんの、”移動拠点”ってやつだって。

 私が感心したのは、そのデザインだ。

 あれ……ぜつみょーな感じに、日本の住宅街に紛れられるように作られてるから。

 よっぽど普段から、注意して風景を観てる人じゃないと、その違和感に気づくのは難しいだろーね。


「二人とも!」


 奏ちゃんが、縄ばしごを投げる。

 あたしはそれを空中でキャッチして、さっそく昇り始めた。獲物を逃したゾンビたちが、腐った両手をこちらに向ける。


 のそのそと家の玄関口に到着すると、再び”移動拠点”が上昇した。


「わあ。……この家があればあたしたち、ずっと幸せに暮らせそう」

「そう簡単にはいかない。きっとこの家、”プレイヤー”どもに狙われるようになる」


 それはたしかに。


「だからあちしたちは、強くならなくちゃいけない」


 奏ちゃんの言葉は、他の誰かに向けられているみたいだった。

 それもそのはず。――彼女の向こう側には、……恐らく、”ゾンビ使い”が使役していると思われる、小学校低学年くらいの男の子”ゾンビ”がいたんだ。


「あらら。お友達?」


 ちょっぴりふざけてそういうと、


『そんなとこだ』


 ”ゾンビ使い”の方が口を開いた。


「嘘でし。一時休戦してるだけ」


 なーんだ。がっかり。


「それより、みんな。――あの化物には、気づいているね」

「そりゃもう。……ってか、なんなのよ、あれ」

「変異した新手の”飢人”でし。どうもあいつ、傷つけば傷つくほど、どんどん巨大化していくみたい」

「へえ。……ってことは、なあに? あいつ、無限に大きくなるってこと?」

「うん。たぶん」


 それってかなり、やばくなあい?

 見たとこ、あいつのいまの大きさは、体長6メートルくらいかしら。

 こうしているいまも、どんどん大きくなっているみたいだから……このまま放置してると、だれにも倒せない状態になっちゃう気がする。


「ねえ、ミソラ。あんたの《地系魔法Ⅰ》を使って、あいつの身体を地面に沈めることはできない?」

「ん。それはまあ、できると思うよ。でもあの魔法って、アスファルトの地面じゃ無効だよ?」

「わかってる」


 そこで奏ちゃんは、そこから見える、もっとも近い畑(なんとこの辺り、都内まで一本で行けるのに、畑があるのだ)を指さす。


「あいつをあそこまで誘導する」


 言いながら、すでに手筈は整っていたみたい。あたしたちが室内に入る前に、すでに部屋は移動し始めていた。


「とりあえず、中に入ろう」

「ん」


 導かれるがまま扉を開けると、頭に矢が刺さっている人型ロボットと、ぶくぶくに太った女ゾンビが廊下にいて、一瞬だけ思考停止。


 …………。

 いろいろと、まあ。

 ツッコミどころはあるけれど。いまはそれどころじゃないよね。


 とにもかくにも、リビングの窓に張り付いて、外の様子を伺う。

 するとそこには、例のあの”飢人”の姿。


 もはや、人型なのかどうかすら妖しいその化物は、巨大なツギハギの風船みたいな姿になって、こちらに向かってきている。


「この乗り物、もっと高く飛べないの?」


 素朴な気持ちで訊ねると、


「飛べるけど、それだと”飢人”が諦める可能性があるでし」


 なるほど。そういえば、そっか。


 どすん、どすんと重々しい足音を立てるそいつはいま、あたしたちの十メートルほど後方を、思った通りのルートで追いかけてくる。


「……ぜったい、やっつけないと。あんなのが駅の方に向かったら、きっとみんな、混乱しちゃう」


 あたしが呟くと、


『おまえが、たよりだ。がんばれ』


 なんて、”ゾンビ使い”に励まされちゃった。

 うー。緊張させないでほしいなあ。


「ミソラ。そろそろ、準備を……」

「わかってる」


 そういってあたしが、再び玄関に向かった、その時だ。


『ッ……ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!』


 耳鳴りするような、咆哮。

 驚いて振り向くと、一瞬前まで張り付いていた窓に、ドス黒い血液がこびりついていた。


「なに、なに、なに!? あいつ、何をしたの!?」

「血を吐いたみたい」


 混乱するあたしをよそに、奏ちゃんは冷静だった。


「でも、なんでそんなこと……」

「わかんない。嫌がらせとか?」


 するとそこで、再び”ゾンビ使い”が口を開いた。


『たぶん、あいつ、かなでさんを、みかたに、したいんだ』

「なにそれ。どういうこと?」

『きみが、きじんに、なったら、とんでもなく、きけんだから』


 ……………ああ。

 それは、たしかに、そうかも。


「この、血。たしか一滴でも口に入ったらダメなんだよね?」

「ええ。手に血を付けたまま額を拭って、流れた汗が口に入って感染……なんてケースもあるくらいです」

「うげ。……あたし、うっかりやらかしそう」

「実際、『うっかりやらかした』”プレイヤー”の成れの果てが、”飢人”なのでしょう」


 気をつけようっと。

 そうこうしてるうちに、目的の場所に到着。


 お馬鹿な”飢人”さんは、まんまと畑の上にいるみたい。


「ミソラ。出番でし」


 奏ちゃんのかけ声で、あたしは覚悟を固めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うへぇ、ゾンビ版マシュマロマンが血を吐いてくるとか嫌すぎる(つ﹏⊂) 感染者増やし放題じゃん、、、そして強くなる=デカくなる、ならほんとに街ひとつ滅ぶとゆうかむしろ日本沈没するんじゃ、、、…
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