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その113 早朝の会合

 飯田さんの家から航空公園駅までの道のりは、ゾンビ一匹見当たらなかった。


「この調子で戦い続ければ、すぐにゾンビなんていなくなるよ」


 なんて、軽口言ったりしてね。


「ある意味ゾンビの存在は、我々にとって貴重な資源と言えるのかも知れません」


 ロボ子ちゃんは、物憂げにそういっていた。

 彼女が考えていたのはきっと、……”ゾンビ使い”のことだろう。

 仮にこの後、”ゾンビ使い”との勝負に勝ったとしても、それだけで話は終わらない。


 あたしたちはこれからずっと、ずっとずっとずーっと、戦い続ける必要がある。

 それもこれも、自業自得だ。そういう人生を選んじゃったんだから。

 もちろん、後悔なんかはしていない、

 けど、それはそれとして、先行きが読めないのは不安だった。


 待ち合わせ場所に到着したのは、五時ちょっと前。


 まだ、空が白み始める前の時分で、当たりはずいぶんと暗い。


「えーっと……」


 待ち時間、どうしてようかしらと視線を泳がせていると、


「ねえ、ミソラ」


 優希さんが話しかけてきた。


「奏さんって、どういう人?」


 漠然と時間を埋める、雑談だ。

 あたしはそう判断して、


「ちょっぴり気の強い……高三女子、です」

「高三か。だったら同い年だな」

「あ、ってことは優希さんも、受験の時期ですね」

「まーね」

「どこか受けられたんですか?」

「ん……俺は別に、どこも受けるつもりはなかったよ」

「あら。大学にはいくつもり、なかったかんじです?」

「と、いうよりも……高校卒業したら、もっと別のことやりたくて」

「別のこと?」

「先輩にちょっと、面白いことを考えつく人がいてさ。その人についていこうと思ってる」

「ふーん」


 面白い人、か。

 もしその人が生きてたら、アリスちゃんに見初められていたかもな。


「それより、奏さんのことだけど……」

「カナデのことが、そんなに気になるんですか?」


 と、ロボ子ちゃんが口を挟む。その声色には、疑心が滲んでいた。

 どうもロボ子ちゃん、あんまり優希さんを信用してないっぽい。

 理由は……たぶん、勘。

 最初から胡散臭く思ってたみたいだから。


「そりゃ、気にはなるさ。スーパーガールの一人なんだから」


 優希さんの言葉は、もっともだ。

 あたしたちにとって、人の命はとても軽い。呪文一つで消し飛ぶものだから。

 そういう人たちと同居する気持ち……考えただけで、ちょっと怖いもの。


「俺、彼女のキャラだけは、まだあんまり掴めてないんだよなぁ。……二人は奏ちゃんのこと、好きかい」

「私は、好悪の感情を持ち合わせません。ただ、運命共同体なだけ」

「そこのとこ、ずーっと気になってるんだよ。君たち元々、知り合いだったわけじゃないんだよな? その割にはずいぶん、仲よさそうに見えてさ」

「それは……」


 ロボ子ちゃん、視線を地に落とす。

 あたしは内心、苦笑した。

 「運命共同体」はさすがに、失言だったと思うんだ。ロボ子ちゃんも結構、脇が甘いところがあるんだよねー。


「一応その辺、みんなにも共有しておいた方がいいと思うんだ。君らの行動によっちゃ、俺たち凡人の生活は大きく変わってくる」

「それは…………その…………」


 だからあたし、はっきりこう言ってあげたの。


「”ゾンビ使い”をやっつけないとたぶん、あたしたち、一年後には死んでるかも知れないの」


 ってね。


「ちょっと、ミソラ……っ」

「べつに、ナイショにしとくこと、ないじゃん。信頼っていうものは、まず心を開くことで生まれるものよ」

「それは、そうかもしれませんが……、今回の場合は……」


 言いたいことはわかるよ。

 ロボ子ちゃんが考えてるのはたぶん、最悪の最悪の最悪の事態。

 神園優希さんが、”ゾンビ使い”と繋がっている可能性だ。


 奏ちゃんの話によると、”ゾンビ使い”はわりと、あたしたちの想像を超える能力を持つみたい。

 だからあたしたち、奏ちゃんから、


――誰も信じるな。飯田家にいるヤツも含めて。……でし。


 っていう厳令を受けていたんだ。

 だからあたしもそうしてる。

 優希さんのことも、飯田さんの家にいるみんなのことも……なんならアキちゃんのことだって、信用しないことにしてる。


 でも、だからこそ、あたしはこう言っておきたかった。


「あたしたちも、必死なの」


 ってね。

 優希さんは、少しだけ眉を段違いにする。


「よくわからんが、……君らなんか、予知能力でもあるってこと?」

「そんなとこです」

「それで……、”ゾンビ使い”に負けたら、死ぬって?」

「そうと決まった訳ではありませんが、……たぶん」

「ふうん」


 すると彼女は、何ごとか考え込むようにして、近場の遊具(象さんの形してるやつ)に座り込む。


 ちょうど、その時だった。


「どっこいしょ!」


 空から突然、奏ちゃんが振ってきたのは。

 あたしは目を丸くして、


「うわ! びっくりした!」


 と、叫ぶ。

 もちろん、すぐそばにいた優希さんもそう。


「よっす」


 数日ぶりにみる奏ちゃんは、以前見た時と、それほど変わらない。


「びっくりした! いったいどこから……?」

「ひみつ!」

「ひみつって……」


 たぶん、何かのスキルで隠れていた……の、かな?

 なんにせよこの娘、ちょっとピリピリしてるみたい。


「とりあえず、そこの新入り」

「新入り……俺のこと?」


 優希さんが自分を指さす。


「そうでし。あんたはすこし、離れたところにいて。いーい?」

「離れたところって、どれくらい?」

「もっと、ずーっとずーっと!」

「えー。俺いちおう、普通人代表でここにいるつもりなんだけど。話に混ぜてくれよぉ」

「……それじゃ、話がギリギリ聞こえるくらいの距離。とにかく離れて!」

「やれやれ。冷たいなぁ」

「悪く思わないで。こっちも余裕、ないんでし」

「はいはい」


 そう言って優希さんは、ゆったりとした足取りで後退った。


「……それで。今日はどうしたのですか? わざわざ、直接呼び出したりして」


 いつもとすこし雰囲気の違う奏ちゃんに、ロボ子ちゃんは眉をひそめている。

 以前、「絶対に負けない」と言っていたやり方に、何か問題が出てきたのかも。


「まず、ひとつ。”ゾンビ使い”でしが。……あちしたちが思ってたより、強いかも」

「と、いうと?」

「能力のルールが、ぜんぜんわからないんでし。どーやって仲間の”ゾンビ”を増やしてるのか……それがもう、意味不明なの」

「……ふむ。私てっきり、ゾンビの捕獲アイテムみたいなのを使ってるとか、そういう想定をしていましたが」

「たぶん、ちがう。下手すると野郎、視認したゾンビを片っ端から使役できる可能性もあるでし」

「それは…………」


 実質、無限に仲間を増やせるってことだよね?


「たしかにそれ、結構ヤバい、かも」

「…………うん。もうこうなってきたら、どこにヤツの仲間が潜んでるか、わかんないでし」

「だからこうして、直接相談しにきた、と」

「………………………」


 奏ちゃんの目にはいま、『弱気』の二文字が浮かんでる。

 少しの間、独りぼっちだったからかもしれない。心が削れているんだろう。


 そう思ったあたしは、おもむろに奏ちゃんを、ぎゅっと抱きしめた。


「……むぎゅ」

「――よしよし。怖かったね」

「なんでし、きゅうに」

「しばらく独りぼっちにして、ごめんね」


 そして、ぐりぐりと頬ずり。


「……いやべつにあちし、怖かった訳じゃ……」

「強がること、ないよ。ただでさえ、訳分かんない敵を相手にするんだ。変な夢とか、見たんじゃないの?」

「それは……。ちょっとだけ、みた」

「でしょ? 奏ちゃんすこし、疲れてるんだよ」


 その意見には、ロボ子ちゃんも同意してくれた。


「敵の戦力の過小評価は危険です。ただ、過大評価もまた、危険ですよ。敵の能力が”なんでもあり”なはずはありません。第一それでは、ゲームが成り立たない。それはきっと、アリスの望むところではないでしょう」

「……。たしかに」


 奏ちゃんが、頷く。


「でも問題は、一つだけじゃないんでし……」

「――?」


 まだあるの?

 首を傾げた、その時だった。


『お、お、お、お………~~?』


 甲高い声とともに、……なんというか、”チャラい”雰囲気の人たちが現れたのは。


『あんたら噂の、スーパーガールじゃーん!』

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