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その111 ナンパ

 結論から言うと、賭けは大成功、と言って良かった。

 ”メイドロボ・よし子”は、僕が想っていた以上に気の利く娘で、


『製造日カラ計算シテ、食ベテモ大丈夫ソウナモノカラ、モッテキマシタ!(*゜▽゜)ノ』


 わりと柔軟な発想で、食糧を調達してきてくれたのである。

 いままで僕が手に入れてきたのは、「なんとなく安全そう」という印象のあるものだけだった。

 だがよし子は、一つの弁当の中でも、「食べられるもの」と「食べられないもの」をしっかりと見極めてくれているらしい。


『水気ノ少ナイモノヤ、根野菜ナンカハ、傷ミニクイデスカラ! 冬場デ放置サレテイテモ、結構、大丈夫ダッタリスルンデスヨ( ̄∀ ̄) 』


 そういって彼女は、てきぱきと弁当の食材を保存容器に移し替えていく。

 その様子を、しばらく見守って、


「食糧を運んでいる間、誰かとすれ違う気配はあったかい」

『イイエ。静カナモノデシタ(^^)』

「そうか……ちなみに君、ゾンビと出くわしたら、どうなる?」

『サア? ワカリマセン。多分、襲ワレルト、思イマス(^^)』


 そうなのか。


「ちなみに君、何か、僕の知らない情報を持ってたりする?」

『私ノ知識ハ、コノ世界ノ現状ヲザックリ、ッテカンジ。”ネタバレ禁止プログラム”ガ、インストールサレテイマスノデ(^ν^)』

「ネタバレ、ね……」


 であれば、彼女の口から新たな情報を得ることはできまい。


 そこで僕は、いったんこの場を彼女に任せることにして、部屋へと戻る。


――考えてみれば、呼ぶだけで食糧を持ってきてくれるお手伝いさんがいるだけで、大きな戦力強化になるな。


 そんな風に思いつつ。


 気を失っても食事を口に運んでくれる人(ロボだが)がいるのなら、今後は気兼ねなく”魔力切れ(限界)”を越えることができそうだ。



 そして再び、いつものPC前へ。

 あれこれ作業を進めるうちに、すでに五時前になりつつあった。


 ここからしばらく、三姉妹(スリー・シスターズ)の集会場所を観察することになるだろう。


 ちなみにいま、ツバキを潜伏させているのは、”テント組”がいる場所を挟んだ、人気のない裏路地だ。

 これは、人の群れに紛れさせることができれば、カナデさんの索敵を逃れられるのでは……という実験でもあった。


「よし」


 いったん、彼女たちの到着を待ってから、待ち合わせの場所へ向かう。

 そういう作戦で行こう。


 そう思ってツバキを選択する……と……。


『なあ姉ちゃん。黙ってねーで、なんとか言えよ』


 画面上に若い男の顔が大写しになって、「ぎょっ」となる。


『姉ちゃん、いいだろ。ちょっと部屋来るだけでいいからさ……』


 数秒の硬直ののち、何が起こっているかをようやく把握する。

 どうやら、口説かれているらしい。


「まじか。終末の世の中にいて、恐るべき性欲の強さだ」


 この展開には、さすがに慌てた。こういうことが起こらないよう人気のない場所に隠れていたつもりだったが、どうも見つかってしまったらしい。


『…………………うーみゅ』


 ツバキのうなり声は、他の個体に比べてゾンビっぽくない時がある。だからかもしれない。不気味じゃないところが逆に、「ぼんやりしている不思議ちゃん」みたいに見えてしまったのかも。


『なあ、あんた。怪我してるんだろ? 手当してやるって言ってんだ』


 目の前の男とは、違う声だ。

 視点を動かすと、どうやら他にも人がいるらしい。

 男三人、女一人。

 男たちはみな、ギラギラと輝く目をこちらに向けている。

 連れの女は我関せずという感じで、手鏡を覗いていた。


 どことなく、退廃的な雰囲気を持つ四人組だ。

 どうも、ツバキが隠れていたところは彼らの溜まり場だったらしい。


――まずいな。厄介なのに引っかかった。


 内心、慌てている。

 否応なく頭に浮かぶのは、――以前、美春さんたちを襲っていた男たちの顔だ。


『どーすんの? この娘、ぜんぜん反応ないぜー?』

『ゾンビに襲われて、おかしくなっちまったんじゃねーの?』

『もういっそ、無理矢理つれてく、とか?』

『そりゃないっしょー。……マジで?』

『マジマジ』


 それは、まずい。

 この場を、どうにかうまく収めなければ。


 僕は慌てて、キーボードを叩いた。


『しつれい、します。ちょっと、まちあわせが、あるので』


 すると男たちは、目を丸くしてこちらの顔を見る。


『えっ?』

『なんだこいつ、やっぱりしゃべれるんじゃん』

『なあ、あんた。ここの人じゃないよな? なんなら、うちらのチーム、くる?』

『食い物ならあるけど』


 その声色だけは、猫を撫でるようにやさしい。


『あと、ゴムも。……なんつって』

『たっちゃんアホ! それ今言うなよ』

『ははははは』


 だが哀しいかな、彼らの目的は明白だった。

 僕のように淡泊な人間にとっては、ちょっぴり羨ましくもある素質だ。性欲が強いと、世の中の見え方もずいぶん変わってみえるのだろう。


『まあ、そのへんは冗談よ。俺ら、無理矢理ヤっちまうようなやつらじゃないからさ? 試しにいったん、こっち来てみなよ、なあ』

『いいえ。まちあわせが、あるので』

『まちあわせって、誰よ? ついていっていい?』

『だめ』

『いいじゃんいいじゃん。紹介してよ。その子も女の子なの?』

『むこう、いって』

『冷たいこといわないでよぉ』


 しつこい。

 興味のない相手に口説かれるのって、こんなに鬱陶しいのか。


『かかわらないで』


 PC越しだから冷静に判断することが出来ているが、実際にこの状況を目の当たりにしていたら、さぞかし挙動不審になっていたことだろう。


『突然しゃべりはじめたかと思ったら、めちゃくちゃ拒絶してくるじゃん……変な子』


 ぼそりと連れの女が、口を開く。


『ってか、たっちゃん、もー帰ろうよ。その娘なんだか、不気味だよ』

『うっせぇ。がちゃがちゃ言うな』

『…………ちっ』


 女はそこで、不満げに押し黙る。

 この辺、彼ら”チーム”の関係性がうかがえた。……ありとあらゆる点において、関わり合いになるのは、まずい。


『俺たち、独りぼっちの女の子を放っておけないだけなんだって。わかんねーかな』


 はてさて。どうしたものかな。

 いっそ、綴里にヘルプを頼むか。


 そう思っていると、――


『こりゃあああああああああああああああああああああああ! てめーら、何やっとるんや! いてこますぞっ』


 その言葉に、全員が振り向く。

 驚くべきことに、その声には聞き覚えがあった。


 僕の高校時代の同級生にして、狩場豪姫の親友、――以前、ここのグループを救ったときに声をかけられた少女。

 六車(むぐるま)涼音(すずね)だったのである。

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