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その110 メイドロボ・よし子

 なお、僕が早めに起きている理由は、もう一つある。

 カナデさんの行動が把握できているうちにせめて、幾ばくかの食糧を確保しておく必要があったのだ。


 ただしこれには、課題があった。

 

 当たり前だがまず、僕自身は動くことはできない。家から出られないためだ。

 次に、使役しているゾンビを利用することもできない。カナデさんは、僕の行動させているゾンビを把握している可能性がある。

 最後に、仲間たちを利用することもできない。優希と綴里は手が塞がっているし、亮平は恐らく、見張られているだろう。


 と……なると……?




――”メイドロボ・よし子”は、メイド型のロボットです。ロボット三原則に則り、①人間に危害を加えない。②人間の命令には服従する。③前の2項目に反しない限り自己を防衛する。……という特性を持ちます。




 例のあの、保留にし続けてきた選択肢を、遂に実行に移す瞬間がきたかもしれない。


 どきどきと、心臓が高鳴っている。


 きた。

 ついにきた。


 このときが。


 メイドロボを、我が家にお迎えする、その瞬間が。


――一方的にあれこれ命令したくはないな。

――主人と召使い。……その一線は守りつつも、気楽な関係性を築きたい。

――だがしかし、こんなご時世、二人きりの共同生活。

――何も起こらぬはずはなく……。

――ふとした拍子に、恋が芽生えることもあるかもしれない。

――もしそうなってしまったらきっと、二人の愛を阻むモノは、なにもないだろうな。


 しばし、煩悩を弄び……頭を横に、ぶんぶんと振る。


――落ち着け。こういうことに心奪われるのは、亮平のキャラだろう。


 などと、人知れず失礼なことを思いつつ。


 いずれにせよ”メイドロボ”を手に入れれば、当面の食糧問題は解決する……はず。

 こっそり夜中、食糧を家に運んで来てもらえば良いわけだからな。


 そこで僕は、大きく深呼吸して……、


「”ジャイアントキリング”の報酬。……メイドロボを頼む」


 頭の中の声、アリスに向かって、言う。

 その、次の瞬間だった。

 僕の目の前に突如として、”それ”が現れたのは。


 魚人を思わせる、丸くて大きすぎる目。

 特徴的な頭部からにょっきりと生えた、二本の触覚(アホ毛)。

 ボディラインにぴったりと張り付いたような、奇抜な服装の……、


 なんか、気持ち悪いデザインのロボットが現れたのは。


「……………………」

『……………………(^^)』

「……………………」

『……………………(^^)』

「……………………」

『……………………(^^)』


 二人、しばらく見つめ合って。


『ドウモ、コンニチワ。ワタシハ、よし子ト、イイマス。m(_ _)m』


 ぱくぱくと開閉するその口元は、声を発するのにそうする必要があるからというより、その方がより人間っぽく見えるからそうしているだけ、というような感じ。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………うぃーっす。…………………………………どーもでーっす…………」


 僕はなんだか、手ひどく傷つけられたような気持ちになりながら、頭を下げた。

 その様子が、あまりにもおざなりだったためだろう。


『アラアラ。ナンカ、オキニメシマセンデシタ?(^^;』

「いや、べつに」


 平静を装いつつ、そう応えておく。

 本当のところ、人生の残酷さ哀しさままならなさに、心がぽっきり折れかけていたけれども。


 とはいえ、期待を裏切られることには慣れている。

 仕事モードに切り替わるのは早かった。


「さっそくだが君、夜中にこっそり、物資を盗んでくるとか……そういうことはできるかい?」

『ホホウ。盗ミ、デスカ。(゜▽゜)』


 実を言うと、この一点が最も大きな懸念点であった。

 アシモフの小説に登場するロボットは、他人の資産を奪うことができないようプログラムされていたはず。

 どこまで彼女が、その設定を反映しているかは不明だが……。


『状況ニモ、ヨリマスガ……マア、御主人様ガ、望ムナラ。ヤリマス。(^-^)/』

「よし。良い子だ」

『エヘヘ 。(´∇`)』


 モーター音を作動させながら、メイドロボは照れた。


「ちなみに君、その服、着替えることはできるのかい」

『デキマスヨ!(⌒▽⌒)』

「ではいまから、目立たない格好に変装しよう」

『リョウカイ。《変装》ナラ、31%ノ確率デ成功シマス。(^▽^)o』


 31%。

 どういう計算式で導き出されたアレかはわからんが、あまり高い数字ではないな。


「そこまで完璧な変装である必要はない。僕が手伝う。とりあえず、目立たなければなんでもいい」

『ソレナラ自動成功デ、イイデショウ。(^^)』

「自動成功……?」


 なんか、言い回しに疑問はあるが。

 その後彼女に、なるべく人目を避けること、誰かと出くわした場合は、我が家から少し離れた空き家を中継地点として物資を保管すること、何か異常事態が起こったらすぐさま無線で連絡することを命じておく。


『オーケーオーケー、楽勝デス。(^^)』

「……本当に、大丈夫だよな?」

『オマカセアレ。(^^)』


 一応すでに、目的地点であるコンビニ(以前回収に向かった場所とは違う、少し離れたファミマ)までの道中は、事前にゾンビ狩りを行っている。

 ”メイドロボ・よし子”がゾンビに襲われるかどうかはまだ不明だが、安全であることは確かだ。


「今後、僕が生き残れるかどうかは、君の働きに掛かっているんだ。頼んだぜ」


 そういうと、よし子はコツンと胸を叩いて、こう言った。


『一生懸命、オ仕エシマス!(^▽^)o』

「……そうか。……ありがとう」


 いい子っぽい雰囲気では、あるんだが。


「では、はじめようか」


 嘆息しつつ、作業に取りかかる。



 変装は、思ったよりもすぐに終わった。

 フード付きの厚手のコートを着させて、サングラスをかけさせるだけで十分だったためだ。


「夜中にサングラスをかけてるのは気になるが。……君のその、巨大な目が、どうしてもな……」

『チャームポイント、デスノデ!٩(ˊᗜˋ*)و』


 まんま、美少女フィギュアを等身大にしたような姿だからなぁ。

 ああいうのは、手のひらに収まるサイズだから可愛いのであって、現実に目の前で動き始めると、とてつもなく不気味だ。


「ちなみに、君、……前、ちゃんと見えてる?」

『《目星》ニハ、自信アリ! 問題アリマセン!(≧ω≦)』

「……そうかい」


 そうして僕は、よし子を送り出す。

 コート姿のシルエットが、暗闇の中へ消えて行くのを、部屋の窓からこっそりと見送って。


――頼んだぞ、よし子。(´△`)


 ああいう感じのキャラに、自分の命を賭ける羽目になっている自分に、ちょっぴり苦笑する。


 とはいえいま、僕が置かれている現状は切実だ。

 この賭けには、絶対に勝たなければならない。



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[一言] よし子結構《変装》振ってるな……
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