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その9 ゾンビVSゾンビ

――《死人操作Ⅱ》は、”ゾンビ”の操作に関する新たな能力をアンロックするためのスキルです。

――《拠点作成Ⅰ》は、滞在中の建物を拠点化するスキルです。

――《格闘技術(初級)》は、平均的な日本の空手道場で五年ほど鍛錬した程度の技術が即座に身につくスキルです。

――《飢餓耐性(弱)》を取得すると、一週間以上飲まず食わずでも行動可能になります。

――《自然治癒(弱)》を取得すると、軽傷であれば一日以内に全快できるようになります。


「ふむ……」


 僕は少し眉間を揉んで、情報を整理する。

 まず、《格闘技術(初級)》と《自然治癒(弱)》は論外だな。

 多分だがこれは、僕とは違って自ら武器を取って戦うタイプの”プレイヤー”のためのスキルだろう。

 今の状況では《飢餓耐性(弱)》も魅力的だが、どちらにせよ食糧の確保を急がなくてはならないことに変わりない。

 《拠点作成Ⅰ》も、ちょっぴりどういう能力か気になるところだが……やはりいま選ぶべきは《死人操作Ⅱ》になるだろうか。


 僕は、ちょっぴり咳払いして、


「《死人操作Ⅱ》を」


――では、スキル効果を反映します。


 するとどうだろう。

 再び、弟のPCが何かを読み込み始めたかと思うと……、


『《死人操作Ⅱ》を確認。新たな能力がアンロックされます。

・半径10キロメートルまでの”ゾンビ”の操作。

・”ゾンビ”による強力な攻撃(クリック長押しで威力調整)

・自転車の操作(近づいてFキー)。

 ※乗り物の使用には生前の”ゾンビ”の運転技術が反映されることに注意。

・待機状態の”ゾンビ”が攻撃を受けた場合、警告音が鳴ります。』


「ふむ……」


 人差し指を口元に当て、唇を尖らせた。

 なるほど。こうやって能力をどんどん強化していくわけか。面白いぞ。


 一応、警棒による強攻撃を何度か試したあと、さっさと警官”ゾンビ”をコンビニへと向かわせる。

 正直、まだ検証してみたいことはたくさんあったが、だんだん身体の調子がおかしくなりつつあった。

 お腹と背中がくっつきそう、みたいな言葉があるが、今の僕はまさしくそれそのものだ。

 今すぐ弟の部屋に乗り込んで、ハッカ味のドロップを奪い返したい。

 だが、一度くれてやったものを取り返すというのは僕の主義に反する。


「ふう……ふう」


 落ち着いて、最後の最後に取っておいたペリエを飲む。

 クソッたれ、何が炭酸水だ。意識高い系飲み物め。シュワシュワするだけで栄養価が全くないじゃないか。

 せめて砂糖を混ぜて飲むべきだったか。


 減量の限界に挑むボクサーは、ある境界を越えたとき、殺人鬼の気持ちがわかるという。


――一杯のスープと人命を比べたとき、果たして僕は後者を選べるだろうか。


 たぶん、スープに飛びついてしまうだろう。

 人間は弱い生き物だ。高潔さを保つには、気持ちに余裕がなければならない。


 心は急いていたが、その指先はかつてないほど精妙に動いてくれていた。


『ぐううううううう……ああああああ……』


 もはや気持ち的には相棒感覚でいる警官”ゾンビ”も、新たな敵を求めて唸っている。

 とはいえ、無闇に敵を作るわけにもいかず、丁寧に敵の目を避けながら近所のコンビニ――セブンイレブンに向かった。

 商業区に建てられたセブンイレブンは、我が家から歩いて七、八分の位置にある。

 大通りから少し離れた裏路地にあるためか、そこいらにたむろしている”ゾンビ”の数は少ない。

 都合の良いことに連中、先ほど試しに操作してみた”ゾンビ”の死骸を喰らうのに夢中らしい。

 控えめに言ってそれは、地獄の饗宴そのもの、といった光景だった。

 四肢をばらばらに引きちぎられた死骸を、老若男女の”ゾンビ”たちが必死に貪り食っている。

 コンビニ前は今、血の絨毯が作られている格好で。

 見ているだけで胃が重くなってくる光景だが、――とにかく奴らは隙だらけだ。


 直感的に「今しかない」と察する。こういう時こそ、思い切りの良さが大事だ。


「………やるぞ」


 独り言ちて、左シフトキーで警官”ゾンビ”を走らせる。

 警棒を握ったそいつは、まず死骸を喰らっている一匹の背後から、キツい一撃を食らわせた。”ゾンビ”の頭が、西瓜のようにぱかんと割れる。


――やはり、人間の力ではないな、こいつら。


 そう思いつつ、意識は他の”ゾンビ”に向いていた。

 追加でもう一匹の”ゾンビ”を殴り殺し、三匹目の”ゾンビ”の眼窩に得物の先端を突き刺した辺りで、あっさりと警棒は使えなくなってしまう。

 まあ、暴徒鎮圧用の武器が、よく保ったといったところかもしれない。


「……ちっ」


 舌打ちしつつ、残った三匹に視線を向けた。

 新たな敵……いや、餌の襲撃に、奴らは関心をこちらに移している。

 僕は素早くそのうち一匹の頭部を左クリック。すると警官”ゾンビ”は、果敢にも自身の左手を破壊する代わりに、その頭蓋を破壊する。


――……しまった!


 同じ硬度のものをぶつけ合って、無事なはずがないのに。

 少年漫画の主人公の必殺パンチで悪漢をぶん殴る感覚でやってしまった。


 内心、警官”ゾンビ”に謝りながら、一時後退しかける。

 しかし、


『ぎえあああああ、あ、あ、あ、あ、あ……ッ!』


 という、残された男”ゾンビ”(どちらも若い。中学生くらいだろうか)が悲鳴に似た声を上げるのを聞いて、気が変わる。


――そういえばこいつら、仲間を呼ぶんだった。


 もし、このまま大通りにいる大群が押し寄せてしまったら、もはや手がつけられなくなるだろう。


 僕は慌てて、周囲にある武器になりそうなものを探す。


――ない……どこにも……っ。


 そう思いかけたが、咄嗟に足元に転がっているもの、――先ほど僕が犠牲にした”ゾンビ”の死骸の足を拾って、


『グアアアア、グア!』


 それを棍棒代わりに使用する。

 警官”ゾンビ”が吠え、残った未成年者二匹の頭を、順番に吹き飛ばしていった。

 脅威を始末した僕は、改めて周囲を確認。

 敵影、なし。

 どうやらギリギリ、声は仲間に届かなかったらしい。


「ふう……ふう………」


 僕はと言うと、PC前にいながら、全身にもの凄い量の汗をかいて、勝利の余韻に耽っていた。

 その頭の中では、お馴染みのあの声が聞こえている。


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

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