スノー先生のワールドマップ講座
「ねえ、スノー? 名前も決まった事ですし、この大森林からそろそろ出たいの。この近くで、一番近い村は無いの?」
スノーが一瞬考える表情と、首をコテッとさせる仕草がとても可愛い。
「リリー様、ご説明します。うにゃん」
スノーが説明してくれるようなので、俺は佇まいを正す。
「スノー先生、お願いします」
「では、ワールドマップを開いて下さい。うにゃん」
俺は、スノーを下に降ろしワールドマップを開く。
スノーの方が俺よりかなり小さいので、再び女の子座りをする。
「うんしょ。スノー先生、開いたわ」
眼前に、近辺マップ表示画面が大きく広がった。
右上には簡易化された小さなレーダー表記があり、常に表示と無表示の切り替えが可能のようだ。
スノーが俺の眼前で、尻尾をフリフリさせる。
「中心に、白く丸い光点があります。うにゃん」
「ほんとだ。白い光点有るわね」
「白く丸い光点は、リリー様です。うにゃん」
「なるほど……」
俺が立ち上がりその場から少し移動すると、白い光点を中心にマップが少し動く。
「うんしょ」
再び座ると、スノーが俺の前まで来て前足をチョコンとおく。
俺が動くと、説明しにくいのだろうか? 肉球が膝の上で、俺に至高の安らぎをくれる。
「はうー。ぷにぷに……」
俺が幸せに浸っていると――スノーが膝の上に乗り、前足で触れて俺を現実に引き戻してくれる。
「隣の青く丸い光点は味方です。うにゃん」
「はい。スノー先生」
俺はスノーの説明を訊きつつ思考操作を行うと――ワールドマップ→全体表示→と開けていき、拡大と縮小が簡単に操作できる事が分かる。
思考操作なので、スノーを撫でながら操作も出来る。
何かをしながら、操作できるのは至便だ。
しかも、レーダー表記がワールドマップの光点と同調しており、マップを表示しなくてもある程度は把握できる。
右上のレーダー表記は、半透明にできる機能もあるので常に表示させてもいいだろう。
「じゃあ、私の隣にある青く丸い光点がスノー先生ね!」
「うにゃん」
スノーが俺の膝から降りて周りを一周すると、俺の隣の青く丸い光点も同じように動いた。
「基本赤く三角の光点は、敵意が有る魔物や魔獣です。うにゃん」
「ほんとだ。ワールドマップを広域表示にすると、かなり離れた位置に赤く三角の光点が疎らにあるわね」
右上のレーダー表記も拡大縮小可能だが、主に近辺表示にすぐれているようだ。
ワールドマップのように、全ての広域表示はできない。
スノーが俺の元に来て、再び膝の上にチョコンと座る。
「黄色い三角の光点は、どちらでもない中立です。うにゃん」
「ふむふむ」
今の所、黄色い光点はどこにも確認はできない。
あるのは三角の青い光点が疎らに散らばっているだけだ。
先ほどから小動物が見えるので、その子達だろう。
あの子達も可愛いな……少し抱っこしてみたい。
俺がよそ見をして意識をそらしそうになると、スノーが前足で俺に触れる。
「他にも光点は色々有ります。うにゃん」
そして、スノーが説明すると一緒に尻尾がフリフリ動く。
今度は、スノーの愛らしい尻尾に目が釘付けになる――見ていると、心が癒やされる。
俺が再び幸せに浸っていると――スノーが前足で、俺を現実に引き戻してくれる。
でも先ほどからプニプニの肉球で、現実に引き戻してくれるのは良いのだけれど……
その触れている所は、遠慮がちに主張している膨らみだからね。
引き戻される度に、一瞬ビクッとなってしまうのは――お約束なのか?
でもスノーが覗き込んでくる顔を見ると、他意はないと物語っている。
「●の光点が人種及び人種に変化出来る者で、▲の光点が魔獣や魔物、動物などを表し、一般的なものは基本その色と形です。うにゃん」
広域、近接と各表示が色々と表在され至便だ。
しかも簡単に切り替え操作ができる。
「成る程ね。色と形で敵味方とか分かるのは、至便ね」
「こちらを感知し、攻撃意志が有る場合はアラートが鳴ります。うにゃん」
「攻撃意思を察知できるアラート機能も、至便ね」
流石、女神の権能の一つであるワールドマップだ。
本当に、至便すぎる。
「白く丸い光点の近くを選んでから、周辺検索を選んで下さい。うにゃん」
俺は言われた通りに【ワールドマップ】から近辺周囲検索を選んでみた。
すると、マップが広がり――統治国、森林の名前、それに少し北東にポツンと小さな村が有る事が分かった。
南に位置する統治国の名前は、フォレストムーン王国。
俺のいるこの場所――それは最南東に位置し広大な大森林で、名前を【女神の住まう大森林】であった。
一番近くにある北東の小さな村の名前は、【名もなき村】となっていた。
名もなき村とは、珍しい。
俺の常識から考えると――名前があった方が、物資の配送や人の行き交う場合には至便だからだ。
俺は、スノーのワールドマップ講座を訊いた後――不思議に感じつつも、名もなき村に早速向かう事にした。
ヨチヨチ、ヨタヨタ、コテッ。
ぽふ!
俺は数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
ヨタヨタ、トテトテ、コテッ。
ぽふ!
また数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
トテトテ、ヒョコヒョコ、コテッ。
ぽふ!
また数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
あれ? おかしい?
神秘的な花の宝物湖まで駈けよったときは、普通に小走りできた。
「リリー様、大丈夫ですか? うにゃん」
「スノー、大丈夫よ。まだ身体の背丈に慣れていないだけなの」
「うにゃーん」
「元の身体は背丈が187㎝で高身長だったからね。今は、たぶん120㎝も無さそうだし」
「うにゃにゃん」
スノーに自ら説明するが、先ほどまでは普通に歩けた。
しかし、今は転倒する。もしかして、認識による障害?
トテトテ、ヨタヨタ、コテッ。
ぽふ!
また数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
でも先ほどよりは、上手く歩けるようになってきたかな?
ヨタヨタ、テクテク、コテッ。
ぽふ!
また数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
ピョコピョコ、トテトテ、コテッ。
ぽふ!
また数歩歩いた所で転んだので、起き上がる。
「うんしょ」
トテトテ、テクテク……。
俺の今までの人生経験や医療知識からすると、認識障害の改善が少々早い気がするが……
「うん。もう慣れてきたから、大丈夫よ」
「うにゃん!」
元々俺は高身長だった事もあり、女神サラの身長に目線の高さと歩く感覚が違っていた。
ゆっくり歩くが、何も無い所でコテッと転ぶ。
しかしスノーを召喚して、スノーの双眸で自身の姿を確認するまでは普通に歩けた。
恐らく身体は女神サラの身体だと認識したことで――伝達系に混乱を生じさせたのかもしれない。
しばらく、歩いては転ぶ、歩いては転ぶを繰り返していた。
何度も転ぶが、不思議な事に転んでも全く怪我もせず痛くも痒くもなかった。
女神サラの身体は、四歳~五歳位の容姿――俺は、先ほどまでそう思っていた。
しかし実際は、俺が知っている赤ちゃんの身長?
日本の赤ちゃんの平均身長としてなのだが――一歳~二歳位? の容姿……
いや、容姿というと語弊がうまれるか……
赤ちゃんのように、お腹はポッコリとはしていない。
身長で言うと、65㎝。
今の姿も九歳位? いやもっと下か?
身長で言うと、115㎝。
五歳位の身長は、日本の赤ちゃんの平均身長として医学的に考えると、かなりの低身長だと思われる。
なぜ身長が分かったのかと言うと、全体像表示の詳細に記載されていたのだ。
初めて女神サラを見た時に感じた、可愛く美しくそれでいて神々しさを――俺は女神を前に、小さくても大きく感じられたのだろう。
いや、一歳~二歳の身長で65㎝、四歳~五歳の体躯って――それ微妙だろって声が訊こえてくるかも知れないが……そこは、察してください。
全体像表示の詳細には、五歳~十歳となっている――この世界における人々は、低身長なのだろうか?
この世界における人々と言っても――女神サラの身体以外は、まだ確認できていないので不明瞭なのであるが……。
女神サラの身体は、全体的に華奢で細く儚いみためだ。
見る人がみれば、虚弱体質にみえなくもないと思われる。
二の腕や太腿を触ると、プニプニして筋肉もほとんど無い。
まあ、触り心地は良いから問題はないのだけれどね。
それに、遠慮がちに主張している膨らみも……
「コホン」
「うにゃん?」
「何でもないの」
俺は転ぶ度に心配してくるスノーを撫でては、やる気をおこして【歩く】を繰り返した。
慣れてきたら今度は【走る】を繰り返す事で、ようやく自由に動けるようになった。
やはり、視覚認識による一時的な運動機能障害だったようだ。
「ふー。スノー、チョット休憩するねー」
「はい、リリー様。うにゃん」
美しい大森林の空気は清々しく澄み切っており、生い茂る木々からは小鳥が囀り木漏れ日は暖かかった。
それに、綺麗な小川を小魚達が泳ぎ平和な感じがとても居心地良かった。
スノー曰く、女神の住まう大森林の中心部から、今俺が休憩する場所より少し先までが神域だそうだ。
結界により、女神サラと許可された者以外は存在が不可能らしい。
成る程、赤い光点を示す魔物等がいない理由は結界のおかげか……
最後までお読み頂き、ありがとうございます。