自宅にカトレア先生をご招待3
小波であっても、小舟である俺にとっては十分に警戒する必要がある津波だ。
湯船の縁を掴む手に力を入れた次の瞬間、小波と大波による津波警報が発令された。
二つの津波は、ライムお姉さんに匹敵する避難指示レベルである。
俺は思わずスノーに抱きつくと、スノーの柔らかい二つの膨らみと温もりが伝わってきた。
「ごめんね、スノー。温泉の波が強くて思わず、抱きついちゃった」
「リリー様、いつでもスノーを頼って下さいぅにゃん」
「えへへ、スノーありがとっ」
あまり表情を見せないスノーの、優しい表情が見えた気がした。
温泉の中でスノーに身を任せていると、カトレア先生の肩の上にユグドラシルが乗ってスミレちゃんと共にやっていた。
相変わらず、スノーに抱かれた俺の元には凄い波が押し寄せてくる。
スノーも中学生位の背の高さなので、足は地に着いているがお尻を地につけているわけではなく中腰で立っているので、右手で温泉の縁を持って少し俺を抱く左手に力を入れて耐えている状況だ。
「キャー! リリーちゃんとスノーちゃんが一緒に抱き合っているわ。可愛いー」
「カトレア先生、温泉の中を進むときはもう少しゆっくり進んで下さいね。私、小さいので溺れちゃうんです。それに、スノーもカトレア先生のようには大きくないので支えるの大変なんですよ。だから、気をつけて下さいね」
「そうだったの? リリーちゃん、スノーちゃん、ごめんね」
「大丈夫ですぅにゃん」
スノーが、俺に感謝するように頬を寄せてきた。
「スノー様、私も一緒にリリーちゃん抱っこします」
そう言って、スミレちゃんもスノーと一緒に俺を抱っこしに来た。
スノーとスミレちゃんの二つの膨らみに戸惑っていると、ユグドラシルが俺の左側に来て自身の身体を寄せてきた。
美女や美少女達に囲まれた幼女……一体誰得何だろう? と勘考していると、葵と、シルクがアイビーに乗って犬かきをしてこちらまで来る。
それに、俺達の様子を窺っていた者が来たようだ。
ワールドマップで確認すると、黄色からオレンジ色に光点が変わっていた。
……水の精霊かな? 俺がそう『心情』で勘考していると
『「リリー様、そのとおりです」』
とユグドラシルが、警戒するように俺の前に出てそう心情で言った。
それにしても、なぜか水の微精霊ちゃん達が怯えている?
水の精霊であれば、水の微精霊ちゃんが怯える意味が分からない。
『「ユグちゃん、水の微精霊ちゃん達はなぜ怯えているの?」』
『「あの水の精霊は、この温泉の精霊ではなく眼前に広がる湖の精霊達を束ねる水の大精霊ウンディーネのようです」』
水の微精霊達が、俺の後ろに隠れるように怯えている。
「……えっ? なぜこんな所に大精霊ウンディーネが?」
カトレア先生は俺達を庇うように前に立ったが、葵が俺にウインクをして
「カトレア先生、スミレちゃん、シルクちゃん、アイビーちゃん、あちらの濁り湯に行きませんこと? 美肌効果が高いので、美しい女性にはお勧めですのよ。それに大精霊が話があるのは、水の微精霊ちゃん達みたいですの」
葵がそう言ったが、カトレア先生が俺達の前から離れようとしない。
「リリーちゃん、ダメよ。大精霊を相手にしては……」
そう言って、素手のうえに裸で戦闘態勢に入った。
「カトレア先生?」
俺は『眷属、使徒、従者間テレパシー』を行う。
『「スミレちゃん、葵、シルク、アイビー!」』
『「うん。リリーちゃん、任せて」』
『「リリー様のお側で、葵はキャッキャ、ウフフを楽しみたかったですのに……仕方がありませんの」』
『「教師も大変よね……アイビー、カトレア先生を乗せて」』
『「リリー様、僕たちがカトレア先生をお守りします」』
『「皆、頼むわね」』
カトレア先生の戦闘態勢をアイビーが重力で押さえつけ、葵達と共にカトレア先生を少し離れた濁り湯へと向かった。
「リリーちゃん、私が……」
カトレア先生は、俺に手を伸ばしアイビーの重力の力に抵抗するように動こうとしていた。
「カトレア先生、お忘れですの? リリー様は、中偉聖霊を従えていますのよ?」
葵の言葉に、カトレア先生は抵抗する力を緩めた。
「葵ちゃん? でも、大精霊相手に……」
「先生、リリーちゃんなら大丈夫ですよ。めが……コホン! リリーちゃんですから」
「スミレちゃん、今言いかけたでしょ。私もたまに言いそうになるけれど。そんなことより、アイビー早く濁り湯に向かいなさいよね」
「ワン、クウーン……」
『シルクは、狼使い荒いんだから……』
葵達はカトレア先生と離れた濁り湯に退避できたようだ。
その様子を、大精霊ウンディーネは待ってくれている。
「ウンディーネちゃん、待ってくれてありがとう」
「私は、この場に見合わない者を退けさせただけです。それより、貴女が庇護している水の微精霊達をこちらに寄越しなさい。然もないければ、貴女達の命の保証はできませんよ」
そう言って、ウンディーネは水魔法を形成し俺達に狙いを定めた。
俺の心証としてなのだが、水の精霊は四精霊の中でも穏和な心証だ。
しかし、このウンディーネは少しツンツンしている気がする。
「リリー様、スノー様、ここはユグにお任せ下さい」
そう言ってユグドラシルが前に出て来た。
スノーはと言うと、俺を抱きしめたままウンディーネには興味が無いように外を眺めている。
俺がスノーの方を向いて小首を傾げると、
「リリー様、スノーがあちらを向くとウンディーネが怯えますぅにゃん」
と小声で呟いた。
俺はスノーの行動を不思議に思いつつ、無詠唱でユグドラシルとウンディーネを障壁で取り囲んだ。
ユグドラシルには、何か考えがあるようだ。心情も、そう告げている。
「ユグちゃん、周りが壊れないように障壁で取り囲んだよ」
何か考えが有るにしても、障壁が有れば多少の無茶をしても大丈夫だろう。
それに、ユグドラシルの戦い方を見るチャンスでもある。
しかし、ウンディーネとユグドラシルとでは天と地ほどの魔力差が有る。
なので、ユグドラシルの攻撃をウンディーネが受けた場合は、消滅させてしまうかもしれない。
取りあえず、いつでもウンディーネの傷を治せるように回復魔法をかけられる準備はしておいた方が良いだろう。……蘇生魔法も。
「リリー様、お心遣い感謝します」
俺達の会話を聞いていたウンディーネは、俺に挨拶をして背を向けているユグドラシルにウォーターバレットを放ってきた。
まあ確かに前に出たら戦闘開始と見なされるが、大精霊ともあろう者が卑怯じゃないか?
しかし、ユグドラシルは避けようともしない。
そのまま、ウォーターバレットの直撃を受けた。
俺の予想通り、ユグドラシルには傷一つなく俺に笑顔を向けている。
「ユグちゃん、前を向いて。もう戦闘が始まっているよ?」
「リリー様、ありがとうございます」
ウンディーネの美しい顔が、焦りに変わる。
「なぜなの? 今のはわざと外して放ったのに、自身であたりに行くなんて……いくら私の攻撃が効きにくい花の精霊とはいえ、微精霊が少し精霊に近づいた程度でしょ? しかも、直撃を受けて平気だなんて、こんなこと有り得ないわ……」
驚愕しているウンディーネが、今度は
「では、これはどうかしら? 自身であたりに行くなんて、馬鹿な真似は出来ないでしょ? 切り裂きなさい! ウォーターカッター」
と切り裂く水魔法を放ってきた。
しかし、ユグドラシルは手を振り上げたと思うと水の刃を叩き落とし吸収した。
そして、俺に笑顔すら見せている。
確かに、水の刃を叩き落としたにも拘わらず手には傷すら付いていない。
ウンディーネは両手に力を込めて、今度は連続でフラッシュフラッドを放ってきた。
確かこの魔法は、シルクが大洞窟でアイアンゴーレムに対して使用していた貫通力がある強力な魔法だ。
かなり魔力を消費するらしいが、その魔法をウンディーネは五連続で放ってきた。
しかし、ユグドラシルは虫でも追い払うような仕草で全て叩き落とし吸収していた。
しかも、俺に手を振って和やかな顔を見せている。
「ユグちゃん? 余裕かもしれないけれど、前を向いてあげて?」
「リリー様、ウンディーネも日頃の鬱憤が有るのでしょう。好きに、させております」
「ユグちゃん? たぶんウンディーネちゃんは、ユグちゃんに怒っていると思うよ?」
「まあ、リリー様。ご冗談を」
ウンディーネの水色の肌が、少し赤みを帯びている気がする。
俺の勘違いで無ければ、相当怒っているのだろうな……。
「たかが小精霊ごときが、私を怒らせてただで済むとお思いですか?」
「ほら、ユグちゃん? やっぱり、ウンディーネちゃん怒っていたよ?」
「リリー様、そうでしょうか? 私は攻撃もしていませんが……」
俺の言葉に、ユグドラシルが振り向き
「あら本当ね。ウンディーネさん? 美しいお顔に皺が入ってますわよ?」
と言った。
益々怒りの表情を露わにしたウンディーネは、水色の肌に赤みを帯びさせる。
「そこの、小精霊と幼女! 私を馬鹿にしたことを今更後悔しても、もう後には引けませんよ」
「えっ、私? 私、ウンディーネちゃんを馬鹿にしていないよ。もぉー、ユグちゃん? ウンディーネちゃんが、プンスカプンプンよ?」
「リリー様、心情で何となく伝わりますが、言っている意味が分かりません……」
「そこの小精霊と幼女、五月蠅い! 大精霊を怒らした事を、悔いるがいいわ」
そう言ってウンディーネは自身の背に大津波とも呼べる水の塊を集め出した。
障壁を張っているのでウンディーネの攻撃は一切飛んでこないのだが、あんな大津波を食らったら小舟の俺は沈没してしまうと自身で想像してしまい、思わずスノーを抱きしめる力を強めるとスノーがウンディーネの方を振り向いた。
すると、ウンディーネから明らかに焦りの色が見えた。
しかし、次の瞬間ウンディーネはユグドラシルにその大津波とも呼べる水の塊を放つ。
「ギガ レイジング ストリーム!」
すると、ユグドラシルも俺とスノーの様子を見て初めて動いた。
両手を前面に向け、俺を見て笑顔を向けると花の薫りが辺りに漂ってきた。
ユグドラシルは、俺の心情を察したのだろう。
その薫りは、俺の嫌な想像を打ち払ってくれた。
そして、ユグドラシルに魔力が集中していき言葉を奏でる。
「咲き誇れ、美しき花々よ! フラワー インペリアル スローン ガーデン!」
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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カトレア「……葵ちゃん?」
葵「カトレア先生、どうなさいましたの?」
カトレア「大精霊の魔法を受けて、なぜユグちゃん平気なの? なぜ、この施設
が崩壊しないの? なぜ、魔法の衝撃がどこも破壊しないの? なぜ、
リリーちゃんとスノーちゃんは平気なの? ねえ、なぜ? なぜ?」
スミレ「カトレア先生、しっかりして下さい」
シルク「あの出鱈目な攻撃を受けて、平気な顔をしているユグちゃんもそうだ
けれど、そのユグちゃんを召喚した、リリーの戦い方見たら言葉も出て
こなくなるわよ。カトレア先生、今のうちに慣れておく事ね!」
葵「そうですのよ。私の親愛なる主、リリー様は、私にとって女神様なのです
から……」
アイビー『葵様?』
葵「今のは言葉の綾ですの」
この出鱈目な戦いを前にして、苦悩するカトレアの戦いはまだ始まった
ばかりである




