自身の名前と白銀虎の名前
今まで触れあえなかった思いの丈を白銀虎で思う存分発散した俺は――白銀虎が言っていたことを、思い出した。
「そういえば何だけど、さっきの白銀虎の提案……。私の名前を、変更する方が良いのよね?」
「うにゃん」
白銀虎が、頷くように返事した。
かなり前から気になっていたが、白銀虎の【うにゃん】――
恐らく、返事や相づち……それに、言葉の語尾に使用するようなものなのかもしれない。
アニメや漫画、小説等でも、語尾に様々なものが使用されてだ……
まあ、モフモフの可愛さは正義! なので、俺は深く考えないのである。
それに、自身の名前を思案しないとだし……
そうだ! この子の名前も変更できるみたいだし、一緒に変更するのも有りだよな。
先ずは、自身の名前から――うーん、何にしよう?
花楓院 鈴を変更か……
ゲームでは、【アレルギー】の文字を使い――安易に考え【アレル】や【ギー】と名乗っていた。
今考えると、俺って名前のセンスなさすぎだな。
それに、男性キャラばかりで女性キャラを使う事が無かったっけ?
うわー、どないしよ。
できれば、女神サラの可愛い容姿に合う名前がいいよな。
「うーん……」
俺が思案する素振りを見せると、白銀虎がすり寄ってきて毛並みが頗る心地良い。
「うんしょ」
俺は座り込んで、心地よい毛並みに思考を巡らせつつ名前を思案する。
以前、父に俺の名前の由来を訊いたっけ?
俺が幼い頃――亡くなった母親は、鈴蘭が大好きだったらしい。
生まれた子が、もし女の子だったら【鈴蘭】と名付けたかった――と、生前の母親が言っていたようだ。
そして、俺が生まれて――鈴蘭の【鈴】だけを取り、読み方だけ変えて鈴って……安易すぎるだろ!
そう思って、その後に色々と調べたんだっけ……
今感懐すると、俺のネーミングセンスのなさって――絶対にこれ遺伝だろ!
突っ込む相手がいないので、白銀虎の肉球を、プニプニする……
俺のセンスの無い事案は、この際無視するとして――鈴蘭の花言葉には、当時調べただけでも数種類あった。
代表的なのが【純潔】。その他に――幸せの再来、甘美さ、繊細などがあった。
純潔は、女神サラの身体に相応だ。
何より俺の身体に戻る目的のためにも、幸せの再来は欠かせない。
別名【日】は、君影草。別名【独】は、小さな五月の百合。別名【仏】は、聖母マリアの涙。別名【英】は、五月の百合谷間の姫百合とかだった……。
英語では、恰好良く【lily of the valley】という。
普通に俺が読むと【リリィ オブ ザ バリー】となる。
オブとザを消し、少し変更を加え――【リリー・ヴァリー】でいいかな?
意味は、全く違ってくるが――名前みたいな、ものだろう。それに、響きもいい。
次は、この子の名前……
白銀の毛並みが凄く柔らかくて、触り心地が最高なんだよな――この子。
女神サラが可愛い瞳を輝かせて、恍惚するだけの事はある。
白銀色に輝く毛並みの、子供の虎かー……
子供の虎は、通常いくら幼いと言っても腕がしっかりしていて子猫よりも大きい。
それに、子供の虎特有のお腹ポッコリがあり、毛触りが柔らかく全体的にコロコロプニプニしている。
でもこの子は見た目スラッとしているのに、毛触りも最高で本当に可愛い生まれたての小さな子猫のような体躯なんだよね。
恐らく、女神サラの身体に合わせているんだと思う。
通常の子虎の大きさで、女神サラが抱くと――見た目、大きな縫いぐるみを小さいながらも必死に抱えている幼女になってしまう。
なので、女神サラの片手で抱えられて、片膝の上にも乗れる大きさなのだろう。
まあ確かに、大きな縫いぐるみを持った幼女も可愛いのだが――そこは、拘りがあるのかもしれない。
正に、神のみぞ知る!
うん? そういえば、雄なのか雌なのか聞いてなかったな。
「ねえ、白銀虎は、雄なの? 雌なの?」
「雄か雌かと問われれば、雌です。うにゃん」
あれ? 召喚獣は、雄雌の区別がないのかな?
「雌だと名前は、どうしようかな?」
「命名されるのでしたら、ご主人様におまかせ致します。うにゃん」
俺の命名に、期待に満ち溢れた双眸を向けてくる可愛いこの子には――是非とも、良い名前を付けてあげたい。
この子の名前を決める前に――俺の名前は【リリー・ヴァリー】で完全に決定だ。
俺が自身の名を完全に決定した途端、目の前にステータスの画面が自動で現れた。
ステータス画面は基本情報→全体像と開けている為、可愛い美少女が常に表示されている。
いつもと違う点は――
名前の変更→
名前 花楓院 鈴
変更名 リリー・ヴァリー と表示され、性別 女 年齢 十歳と続き。
その下に【はい】と【いいえ】が現れ、点滅している事だ。
更にその下には全体像が表示されていて、美少女が表示されている。
先ほどは気がつかなかったが、よく見ると十字キーの他に小さなアイコンがあった。
そのアイコンをクリックするように念じると、表示されている美少女が背伸びをしだした。
その他にも、喜ぶ・踊るなど様々なアイコンがあり、表示されている美少女のギミック表示が出来るようだ。
これ、何の意味があるの? ゲームじゃないんだから……
確かに愛でる表示は、ゲーム等目で楽しむ場合有効だろう。
しかし――俺自身が女神サラの身体に入っているのに、これ必要か?
まあ、確かに――喜ぶ・背伸びする・踊る等のギミック表示をすると、可愛さメギド級だ。
おっと、忘れる所だった。
点滅している【はい】と【いいえ】が、激しく主張している。
了解。更新するなら早く基本情報を更新しろということか――お待たせしましたシステムさん。
では【はい】を選択っと。
【システム 名前の変更 確認】
【システム 変更を了承】
【システム 名前 リリー・ヴァリー に変更しました】
よし、では次はこの子だな。
何度も言うが――この子の毛並みは、柔らかく上質で触り心地がこの上無い。
だから【モフフワとらさん】――いや、ダメだろ。
俺、やっぱり全然ネーミングセンスが無いよな……
そう思いつつ、センスが無い事を自覚していない者より増しであろうと自分を慰める。
えーと【シルバー】――恰好が良いが雄みたいだ。
じゃあ【ハク】――元の名前を縮めてみたけれど、何か違うよな。
ふふっ【ビャッコ】――これは女神サラに、絶対NGされそうだし悩むなぁー。
白銀色に輝く――雪、雪原の様に美しい毛並みか……
「ねぇー、君? 良い名前が思い浮かぶ様に、協力してね」
「うにゃん」
白銀虎が、すり寄って来たので――
抱き上げて、耳をハムハムする。
フカフカの背中に、頬ずりする。
フワフワのお腹に、顔を埋める。
そして……白銀虎の可愛いお鼻に、フレンチキッス。
「クゥゥゥゥゥゥー! モフモフ、ハッピィー・フェスティバール」
俺の心からの雄叫びと共に、希望の光が降りてきた――そうだ! 【スノーフレーク】
日本では花の形が水仙に似て、花が鈴蘭に似ている事で鈴蘭水仙とも呼ばれている。
そして花言葉は【汚れ無き心】。この子の美しい毛並みに、ピッタリだ。
なぜ、俺が花言葉などを知っているかというと、家業によるものの影響が大きい。
実家は華道を生業とする名門花楓院本家。 俺は、そこの元当主だった。
俺が生まれてすぐに母が他界し、父に厳しく育てられ僅か六歳で花楓院流免許皆伝。
七歳で裏花楓院流免許皆伝も取得。
俺は、華道界だけではなくメディアでも有名であり唯一無二の存在だった。
十歳の頃に新花楓院流を掲げ、門下生は三十万名をこえており華道界の新星と呼ばれていた。
しかし、二十歳を迎えたその日に突如生花アレルギーを発症し――父に当主の座を返上し、華道界から姿を消す事となった。
とまあ、俺の昔話はここまでだ。
それより、この子の名前だ。
スノーフレーク……俺の名前は、厳密に言うと意味は全く違う。
だが、俺の中では鈴蘭の英語を変化して名前のようにしたものだ。
よし――この子の名前は、俺と同じように姓と名に分けて【スノー・フレーク】で決定!
俺がこの子の名前を決めると、自動で目の前に名前の変更と出てきた。
リンクスキルの中にある――
・管理者権限スキル(特別召喚)と開かれ
白銀虎 ※命名及び変更可能と表示。
その下に名前の変更→デフォルト名 白銀虎
変更名 スノー・フレーク
変更名の下に、変更されますか? と表示され【はい】と【いいえ】が点滅している。
ふむふむ。この子の情報も変更するなら、更新しろということだな。
俺は【はい】を選択した。
【システム 特別召喚獣 名前の変更 確認】
【システム 変更を了承】
【システム 名前 スノー・フレーク に変更しました】
よし、これでリンクスキルを確認。
リンクスキルである、管理者権限スキル(特別召喚)の下に表示されている名称――それが、スノー・フレーク ※命名及び変更可能と更新されていた。
「今日から私の名前は【リリー・ヴァリー】そして貴女の名前は【スノー・フレーク】ね」
「リリー・ヴァリー様、有り難うございます。スノー・フレーク嬉しい。うにゃん」
俺の腕の中で猫が甘える時みたいに、スノー・フレークがすり寄ってじゃれてきた。
名前、喜んでくれたみたいでよかった。
「でも正式に呼ぶ時以外は、私が【リリー】貴女は【スノー】ね」
「はい、リリー様。うにゃん」
木漏れ日の暖かさと微風に運ばれてくる花の薫りに、穏やかな気分に浸れる少女と子虎――
絵になる風景ではあるが、そろそろ出立しないと何も始まらない。
俺は可愛いスノーの顔を見て、考えを伝えることにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。